表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血鬼(ただし幼女)と使い魔(黒猫)のクリスマス ──みんなの願いを叶えたい──  作者: 真野真名


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

第九章 ❄︎あなたの願いはどこにある?❄︎




 広場に灯る無数の光が、雪の粒を照らし、夜の空に反射していた。

 人々の願いが集まって、世界があたたかく脈打っている。


 けれど、その真ん中で、ルーナの胸だけが、ひどく静かだった。


(わたしの……願い……)


 わからない。

 でも、胸の奥が熱くて痛い。


 王子がそっと言う。


「ルーナ……“言葉”じゃなくていい。君が“感じてるもの”を……聞かせてくれないか」


 ルーナは、ぎゅっと胸を握りしめた。


 その時……


【……かえして……】


 また、あの声が落ちてきた。


 塔で聞いた影の声よりもずっと悲しくて、寂しくて、ひび割れている。


「……あなたは、だれなの……?」


 ルーナがつぶやくと、声は答えず、ただ苦しげに繰り返す。


【……わたしを……かえして……】


 空の上、母さまの船が淡い光を放った。

 世界の雪が一瞬とまり、白い息を呑むように揺れた。


 ミミは耳を伏せ、状況を読み取る。


『……ルーナを“器”にしようとしてる。“願いの芯”として扱おうとしてるんだ』


「わたしを……?」


『うん。あなたの心の中の“熱”が、まだ名前のない願いが……あの影には“ピッタリ”なんだよ』


 ルーナは胸を押さえた。

 自分が何か奪われそうで、なのに何か呼びかけられているようで。


「……わたしの願いは……わたしのだよ……?」


【……ちがう……】


 声が響く。

 空気が震える。


【……それは“わたしの”……“続き”……】


「つづき……?」


【……きみは……“だれかの願いのつづき”……】


 その瞬間。広場の灯りが一斉に揺らいだ。


「う……!」


 ルーナの視界が白くかすむ。


 ミミが叫ぶ。


『ルーナ! 意識もって! “願いの共鳴”! 影があなたを引きずろうとしてる!』


「でも……なんで……なんで“わたし”なの……?」


【……なぜって……】


 声が、泣きながら笑うように震えた。


【……“あなた”は……“わたしと同じ気持ち”だから……】


 胸に、冷たい手が触れたような感覚。


(同じ……? 同じって……なにが……?)


 ミミは歯を食いしばって叫ぶ。


『ルーナ! 思い出して! あなたの“本当の願い”! “誰かの願いの代わり”じゃなくて! あなた自身の……!』


「……わたしの……」


 雪が風を失い、世界が静まり返る。


 王子がルーナの手をつかんだ。


「ルーナ!」


 王子が叫ぶ。


「"願い"とは……"生きたい方向"だ。誰かのためじゃなくて──君自身の、"一歩先"にあるものだ!」


「……わたしの……生きたい方向?」


「そうだ!」


 ルーナはぎゅっと目を閉じた。


(わたし、なにがしたいの……? なにを願ってるの……? どうして、胸がこんなに……苦しいの……?)


 思い出そうとすると、胸が裂けそうになった。


 でも、逃げたくはなかった。


(わたし……ほんとうは……)


その瞬間、胸の奥に浮かび上がった。


 子どもの頃からずっと感じていた、"ぽっかり"が。


 いつも笑っていた。

 いつも誰かを助けたかった。

 いつも“前向き”でいたかった。


 でも、その奥底に、ずっと残っていた気持ち。


(……さみしい)


 気づいた瞬間──ルーナの喉から、息が漏れた。


「……わたし……」


 震える声。


「……さみしい……んだ……」


 言葉にした瞬間、胸がじんっと熱くなった。


 ミミが、息を呑む。


『……ルーナ……』


 ルーナは涙をこぼさずに続けた。


「わたし……だれかの願いじゃなくて……だれかのためだけじゃなくて……」


 ルーナは震える声で続けた。


「本当は……本当は……」


 雪が一斉に光を帯びる。

 世界が息を呑む。


「"いっしょにいたい"んだ……」


 言葉が、ひとつずつ空へ昇る。


「わたしのことみてほしい……

いなくならないでほしい……

ひとりにしないでほしい……」


 その言葉は、遠くで泣いている影の声を震わせた。


【……あ……】


 影の声が、ルーナと重なるように震える。


【……それ……それ、わたしも……ほしかった……】


 ルーナは涙をこらえながら言った。


「ねぇ……あなたもさみしいの?」


【……さみしい……ずっと……ずっと、さみしかった……】


 空の雪がしずかに溶け始めた。


 冷たい雪が、涙みたいに、ひとつずつ消えていく。


 王子がそっと呟く。


「……ルーナ……それが君の願いなんだな」


 ミミも、小さくうなずいた。


『うん……。“誰かにいてほしい”。“ひとりにしないでほしい”。それは立派な“本当の願い”だよ……』


 広場の中央に積まれた願いの飾りが、ふわりと光る。


 母さまの船が、それに応じるように優しい光を返してきた。


 影の声は泣くように震えながら──


【……ありがとう……】


 影の声が、初めて穏やかになった。


【……やっと……わかった……】


 そして──


【……"あなたの願い"は……本当に……"あなたのもの"なんだね……】


 影は、まるで安心したように、雪の粒へと溶けていった。


 ルーナの胸から、重い石が落ちるような感覚が抜けていく。


 ミミが、そっとルーナの肩にすり寄った。


『……よく言えたね』


「うん……ちょっと……こわかったけど……」


『願いって、こわいものだよ。でも、それでいい』


 王子は、まっすぐルーナの目を見て言った。


「ルーナの願いは……とても、あたたかい」


 その言葉に、ルーナの胸の奥の“熱”が、やっと形をもち始めた。


(わたしは……ひとりが、こわかったんだ……)


 ルーナは目を開けた。


(でも……もう、ひとりじゃない)


 雪が静かに舞う。


 母さまの船は、ようやく安定した光を放ち始めていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ