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やめられない比較

人と比べるものじゃない。あなたはあなただけの特別な存在だから

大人になったら言える言葉でも、思春期の若者にとって他者との比較は避けられない。



薫は思った。

"海はいいな・・・。かっこいい兄がいて、大好きな彼氏ができて、デッカい家で裕福だ。海の話を聞いてくれる友達も何人もいる。海が持っていないものってなんだろう・・・。それに比べて、私は何を持っているの?裕福でもない家庭に育ち、彼氏もいない。スマホも新しい機種は手に入らないし・・・お父さんだって、お兄ちゃんだっていない・・・"


「私は世界一不幸者」思春期の考えは極端だった。

0か100か。一度気分が落ち込むと、とことん落ち込む。

そんな帰り道、優にメッセージを送った。

"優って落ち込むことある?"

なぜ優にメッセージを送ったのかはわかっていた。肯定してほしかったのだ。自分を持ち上げてくれる・・・今は誰かから必要と言われたかった。


"心配になるよ。何かあった?"すぐに返信がきた。

そう。その言葉が欲しかった。薫は少し落ち着いてきた。

"何もなさすぎて寂しいだけ♪"薫は小悪魔のようだった。それは生まれ持った遺伝的な者なのか・・・自分でもわからなかった。

"いつでも飛んでくけど?"

薫は優に好かれている自信があった。誰かから必要にされているという事が必要だった。そうじゃないと溺れてしまうような息苦しい気持ちになってしまうから。

"優って好きな人いる?"

"知ってるくせに。でも俺の事好きじゃないだろ?"

"そんな事もないけど?"

どっちつかずな返答を返しながら優の心を揺さぶる薫。

"じゃぁ今度一緒に帰ろ?"

"いいよ♪まずは友達になりたいな"

「まずは」の次はくるのだろうかと期待する優。


そして次の日の帰り道、優が門で薫を待っていた。

海はそれをニヤリと笑って克樹の元に走って行った。

薫は少し照れくさそうに優に言った。

「おまたせ〜♪」

優は背が高かった。薫は優の顔を見ると自然と上目遣いになった。その度優は顔を赤らめた。



「克樹と海ちゃんよかったね」

「そうだね♪優は克樹先輩と仲良しだけど晃君の家には来ないの?」

「俺と克樹は幼馴染で仲良いけど、俺は晃先輩とは喋ったこともないよ。克樹の姉ちゃんが晃先輩と付き合ってるから2人は仲良いんじゃない?」

「えー???知らなかった!」中高生の世間はびっくりするほど狭い。克樹の姉は高校2年、晃は高校1年のカップルということになる。


「私がインターホン越しに見た晃君の彼女は克樹先輩のお姉ちゃんだったんだ。海は知ってるのかな?」

「さすがに知ってると思うけど。中々リスキーな相手だからね。克樹は海ちゃんに本気なんだろうね」

「安心した♪今度海や晃くんにも聞いてみよー」

こうして2人は学校内の他のカップルの話もしながら下校して行った。



そして次の土曜日。日課のように海の家に行く薫。

「海ー。克樹先輩のお姉ちゃんが晃君の彼女なの?」

「そうそう・・・この前聞かされた時はびっくりしたよw兄貴も言えよなって話しだよw克樹のお姉ちゃん超かわいいんだよ?今日もウチ来るって♪」


こうして薫が知らない間に晃の彼女であり克樹の姉である吉田夢と海はすっかり本当の姉妹かのように仲良くなっていた。薫はそれまた海が羨ましかった。


ある日曜の昼過ぎ、薫と海は部屋でメイクの練習をしながら遊んでいるとコンコンとノックをし部屋を開けた。晃の彼女 夢だった。

「ねぇ海♪このアイシャドウいるー?私色が合わなくて使わなくなったんだよねw」

「え?いいの?夢ちゃんありがとうーーー♪♪」

「あ!そうだ!香水もあげるーー♪♪」海と夢はすっかり仲良しだった。

すると隣の部屋から晃が大きな声で言った。

「夢ー?香水は海にあげるなよ!夢の匂いが海からしたら最悪だ」

「えーいいじゃん!お兄のケチ!!!!」

「なにそれーーーwww」

薫はただただ黙って存在を消した。


部屋から夢が出ていくと海に小さな声で言った。

「お姉ちゃんみたいだね・・・」

「ほんとそんな感じ!!!!兄妹で付き合ってるのすごいよねwwでも晃と夢ちゃんラブラブすぎてたまに気まずくなるけどねw」

「そうなんだ・・・すごいね・・・」

「薫は優先輩とどうなのー?あとは薫次第でしょ?」

「あぁ。付き合おっかな」

「えーーーwwwすごーい!!ダブルデートしよーーー!!!」海は浮かれた。



薫は完全にノリだった。ノリというのが正しいのか・・・羨ましいほどに海は薫の欲しい物全てを持っているから一つでも手にしたかっただけなのか・・・

自分で言った一言でなんだか薫の感情はぐちゃぐちゃになっていった。




海の家から帰り道、薫はぐちゃぐちゃになった感情の行き場を探した。

すると克樹とすれ違った。


「あれ?薫ちゃん?海の家から帰り道?」

「あぁ克樹先輩。そうそう・・・克樹先輩は今から海の家?」

「そうそうww今日は姉貴もいるから気まずいんだけどね」

「そうなんだ・・・」

どことなく笑顔がない薫を見て少し克樹は違和感を感じた。

「海となんかあった?」

「え??何もないけど??」

「そっか・・・ごめんなんかいつもと違ったから・・・でも勘違いだったかw」

「えwww普通だよ・・・」勘が鋭い克樹に少し戸惑った。

「じゃぁw」薫は克樹先輩から逃げるように去って行った。克樹は薫と分かれすぐに優にメッセージを送っていた。


薫は帰り道しばらく歩くと今度は後ろから優が走ってきて名前を呼ばれた。

「薫ーーーー!!!どうしたー???」

優は克樹からメッセージをもらい、急いで向かってきたのだった。

「え??なんにもないけど・・・」

「克樹が心配してたから俺も心配になって来たんだよ」

「え?何もないのに・・・」薫は必死で自分の感情を誤魔化した。すると優は薫の顎を強引にグッと持ち上げた。

「なんでも言えよ」


わけもわからず涙が溢れて来た。

「何もないって言ってるじゃん!!!!!」薫は泣きながら叫んだ。優はたまらず小さな薫を抱きしめた。

「俺じゃダメ?」優の声は小さく震えていた。

薫は優しい温もりをかんじると余計に涙が止まらなくなっていった。


「誰も私の事悪く言ったりしてないよ?誰にも傷つけられてないよ?なのに私・・・1人で海と比べて不幸に感じちゃうの・・・海はなんでも持ってるって悔しくなっちゃうの・・・」薫はひっくひっくと涙を止めようとしながら本心を打ち明けた。


「・・・???」

優は思春期の薫の気持ちが全然理解できていなかった。

「海ちゃんと喧嘩したってこと?」大きく首を振る薫。そしてため息をついた。

「やっぱりなんでもないよ・・・」

「ごめん俺・・・全然理解できないよ・・・何が持ってなかったの?え???」

とぼけた表情を見せた優がなんだかかわいく見えて、薫は笑った。

「女心がまだ優はわからないんだなw本当になんでもないよ♪心配してくれてありがと!」

薫の浮き沈みが激しい感情に優は戸惑いながらも笑ってくれた薫の顔を見たら嬉しくなった。


"私には優がいる・・・どんな時でも私の事心配してくれる優がいる"薫は少しだけ強くなれた気がした。そして笑って優を見た。

「ねぇ!優って走るの速いの?」

「え???まぁ薫よりは速いだろうね?」


人と比べることは辞められない。それでも薫は自分の持っているすべての物を大切にしようともがいていた。本当に待つべき物はスペックでも見栄でもないことはまだ理解できなくても・・・。

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