冬から春
冬休み。
薫は朝から凍りそうな手で海の自宅のチャイムを押す。今日も自動でロックが開き、インターホンは晃が出る。
「何回言ったらわかる!薫は朝が早すぎなんだよ」ボサボサの髪の毛の晃がため息をつきながら言う。
「もう10時だよ?早くないよ!待ちきれないよ!」薫は海の家によく来る為、晃とも仲良くなっていた。
すると今日はもう一度チャイムが鳴った。
「あ!やべ!!!!忘れてた・・・」晃は慌ててチャイムを出た。
「あ!ちょっと待ってて!もうすぐ用意終わるから!」
・・・????
晃がバタバタ準備をしていると海が部屋から起きてきた。そしてバタバタしている晃を見てニヤリと笑った。
「お兄、彼女待たせていいの?寒い中・・・あ〜かわいそっ」薫は状況がようやくわかってきた。
「晃くんの彼女ってどんな人???」薫は興味津々でインターホンの画面を覗いた。髪が長くサラサラで、目は切れ長の綺麗系の女の人だった。
そして慌てて出ていく晃は普段、薫や海には見せない表情をしていた。
薫は兄弟がいない。一人っ子だ。だから兄がいる事が羨ましかった。海にはよく怒る晃も薫には甘い。そんな優しい晃を少しからかい、薫は妹の真似していた。
「晃くんって高校決まったの?」海に聞いた。
「あぁ私立行くらしい。彼女と同じ高校って浮かれてたよwwwバカだわアイツわww」
「へぇ〜〜海の家は金持ちだもんな〜海も私立行っちゃうのー?」
「そうなるのかな?私、未来はなんにもわかんないww」
「だよねwww」
笑いながらもきっといつか別々の未来がくることを察して急に寂しい気持ちでいっぱいになった。薫の母はシングルマザーで決して裕福な暮らしはしていない事を中学生ながらに理解できていたからだった。
今日の2人は海の部屋でひたすらダラダラ漫画を読んだりおやつを食べたりしていた。
そして15時くらいになるとインターホンが鳴った。兄の友達、悟だった。
「誰ーーー?」海がインターホンを取った。本当はカメラで顔を確認し、悟とわかりながらわざと言った。
「悟だよ悟。海だろ?アニキはいないのか?とりあえず寒いから早く開けろ!」海はロック解除のボタンを押した。するとズカズカと悟は海の家に入ってきた。
「あれ?彼女とそろそろ解散するーなんてメッセージきたのに晃の奴、遅っ!海〜晃は何か言ってた?」
「知らないよw彼女とチュッチュして遅くなってんじゃない?」海はニヤニヤしながら答えた。
海は晃の友達とも仲が良かった。そんな海がこれまた薫は羨ましかった。
三谷家は広くて親も仕事でいない。自然と友達との溜まり場になっていく。長い休みは毎日のように友達が晃の部屋に何人も来ていた。そして流行りの歌を爆音で流したり、バタバタとプロレスが始まったり、それは海の部屋にもいつも聞こえてくる。
「薫ちゃんもいるじゃんw相変わらず可愛いね〜」悟は薫にまで話しかけてきた。薫は海と同じようにかまってもらえて少し嬉しかった。そして薫は海の真似をして馴れ馴れしく答えた。
「何ー?ナンパー?」
するとガチャ。玄関が開いた。晃が彼女とのデートを終えて帰ってきた。
「ただいま・・・悟♪もういたのかw」
「おっせーよwwwまぁいいよ。かわいい薫がいたしwwもうちょっと遅かったら危なかったかもよ?w」悟が冗談を言うと晃は本気で悟の頭を殴った。
「ダメに決まってんだろ!俺の妹だぞ!」
「わかってるよww海じゃないw薫の方だわwww」
「そっちも俺の妹だっつうの。海も薫も双子のようなもんだからw」薫は嬉しくて笑顔になった。
「晃くんありがと♪」
薫は家に帰ってからも晃の一言が嬉しくて嬉しくてその日は1日上機嫌だった。
薫は狭いマンションで母と2人暮らし。同じ階に住む祖母のゆーちゃんが18自分頃になると夕飯作りにやってくる。そして一緒に3人で夕飯を囲むことが多い。
上機嫌な薫を見てゆーちゃんが話しかけてきた。
「薫。なんかいい事でもあったの?」
「海のお兄ちゃんが優しくしてくれたから嬉しかっただけ♪」
「え?初恋?」急に母が会話に入ってきた。
母が会話に入ってきただけで思春期の薫にはどうも居心地が悪くなる。
「そんなんじゃないわ。お兄ちゃんが出来たみたいで嬉しかっただけ」
「昔から薫は兄弟欲しいなんて言ってたもんね・・・なんかごめんね・・・作ってあげられなかったわ・・」仕事終わりで疲れている母はいつもよりネガティブだった。
冬の寒さは時に人をネガティブにさせた。薫の母はゆーちゃんが作ってくれた夕飯を食べ終わると食器を片付け、換気扇の前でタバコを咥える。そしてスマホをぼーっと見つめて仕事の疲れを取っていた。
ーーーーーーーー
冬が終わり、春が来た。春は人を情緒不安定にさせる。生暖かい風が当たると新しい環境の変化に追われ始める。思春期の中学生女子達は新しいグループづくり真っ只中であった。
薫と海は今年も別々のクラスだった。しかし教室が隣というだけで喜んでいた。
登下校はいつも薫と海は一緒だ。ある日の朝、海にも春が訪れていた。
「薫に発表があります!」
「なになになに??」今日の海は朝からご機嫌だ。
「ついに克樹と付き合うことになりました」薫はほっとした表情を見せた。
「ようやくか・・・www」
「なにその反応〜〜」意外にも海は慎重派だった。2人は両思いとわかりながらもダラダラとメッセージのやりとりを続けていた。それに咲希先輩との関係を海はずっと疑っていたからだ。
「それでね!次の土曜に克樹がお兄の部屋に遊びに来るんだって。それで私もお兄の部屋に遊びに行っちゃおうかな〜って・・・・薫も来て?」
「それ絶対晃くんにバレるやつじゃない?いいの?」
「え?何がいけないかわからないwww」
「海に手出した奴ーとか怒らないか・・・晃君わ」
「絶対ないねw」
思春期の海はデートの仕方もまだわからない。兄からしたらいい迷惑なのかもしれないが、海は学校以外で会えることにドキドキが止まらなかった。
そして当日。いつものように朝、薫は海の家のインターホンを鳴らした。いつもは晃が出る事が多いが、今日は海が出た。
「はいはーいあけるね♪」いつもならまだベットの中にいるはずの海がもうメイクもきまっていた。
そして髪の毛のセットを薫に相談しながら2人は準備を進めた。お昼を過ぎるとインターホンがなった。そのたびに心躍る海。しかし来たのは悟でがっかりする海。
「おぉ。海。あれ?今日きまってるね〜」
「からかうな悟!!」ついつい悟には強い口調になってしまう海。彼氏が来るのを想像し、いかんいかんと切り替えていた。そんな海が薫は可笑しくて、ずっと笑っていた。
晃の友達が3人くらい集まってきた。その中には克樹の姿もあった。すると普段はしないノックをし、海と薫が晃の部屋に入ってきた。
「海、薫!何だよ?出てけ」晃は妹達を煙たがった。
「いいじゃん。女の子がいた方が楽しいしw」悟は2人がいちいち自分の冗談を笑ってくれるので歓迎していた。
「海や薫はただのガキ。はいはい。出てけ!」高校生になったばかりの晃はもう中学生をガキ扱いした。
するといつもより弱々しい声で克樹が口を開いた。
「晃くん。俺さ・・・今日どうしても言いたいことあって・・・・
俺。海の事好きになっちゃった・・・」
「?????」一瞬で空気が変わった。
・・・・・
「ぶははははっっっっ!!!!」悟が大笑いした。
「克樹それ言う為に今日来たの??」照れくさそうに晃も克樹に話しかけた。
・・・・小さく頷く克樹。
海は顔が真っ赤になって女の子の顔になっていた。そんな海を指さして笑う悟。
晃は頭を掻きながら「俺関係ないよな?wwそういうのは俺の見えないところでどうぞご自由にw妹が女の顔してんのキショいからw」
克樹は晃が思った反応と違うことに少し戸惑ったが安心したのかホッとした表情をしていた。
するとすかさず大笑いしながら悟も冗談を言う。
「それじゃぁ俺は薫ちゃんしか余ってないか〜www」
「薫はダメダメwこいつはピュアすぎるw」テキトーに晃は悟の冗談を流した。
「あっでも!!!!」晃は克樹に急に大声を出した。
「ガキは作んなよ!!!」急に真剣な顔で克樹を見た。
「お兄何言ってんの!バカ!!」顔が真っ赤な海。
「大切にします。」中3の克樹は晃に堂々と頭を下げる姿はとてもかっこよかった。
薫はやっぱりこの兄妹の関係が羨ましかった。
「私も彼氏できたら晃くんに報告するねw」
「薫はダメダメ。ずっとガキでいろよ♪」
「なにそれ〜〜ww」
その日は和やかな雰囲気でカップル誕生を皆で喜ぶことができて、薫は嬉しかった。そしてその日の帰り道、いつものようにイヤホンをつけて歩き出した。
流行りの音楽を聞いてノリノリな気持ちで帰ろうとしているのに・・・なぜだかこの日はバラードが聴きたくなった。
19時を回る頃にはチラホラ星が見え始めた。すると薫の頬にわけもわからない涙が一粒ずつ流れ始めたのだった。




