夏
夏休み。
中学生活にも慣れ始めた頃、夏休みがやってきた。ようやくやってきた長期連休に心が躍る薫。
今日も朝早くからメイクを済ませて海の家へ向かう。
海の自宅のチャイムを鳴らすと
カメラ越しの海に向けて「おはよ♪」と挨拶をした。インターホンでの返事は無く、大きな玄関のドアのロックが自動で解除された。そして広いリビングの中にあるスケルトンの階段を登る。もう海の家には行き慣れているのでお出迎えなんてものは当然にない。
海の母は朝は早くから仕事に出ている為夏休みの今、この大きな家にいるのは兄の晃と海だけだった。
「薫・・・朝早ぇよ。まだ海は寝てるぞ」
どうやら今日、玄関のドアロックを解除してくれたのは兄の晃のようだ。
「ごめん・・・・。起こしちゃった?」薫は恥ずかしがりながら晃に気を遣った。晃は何も言わずにボサボサの髪をかきながら自室に戻って再び寝に行った。
薫は海の部屋に着くなり寝ている海のベットへ飛び込んだ。
「おはよーーーー♪♪起きなさいーーーー♪♪今日は海行く約束でしょー♪海が海に行く・・・・ぶはははは♪♪♪」寝起きの海とバッチリメイクを済ませてる薫には温度差がありながらも少しずつ目を覚まし始めた海も徐々に波長を合わせていく。
「薫って朝得意だよね・・・ほんとにすごいわ」眠い目を擦りながら海は薫を見た。
「何ーもうメイク終わってんじゃん!私もするから待ってて!!!」海はリビングに降りて冷蔵庫を開けた。牛乳を飲み、パンを咥えてまた階段を登り兄の部屋をノックもせず開けた。
「おい!お兄!今日私薫と海行ってくるから!昼ご飯いらんわ」テキトーに頷く晃に最後サッカーボールを投げつけ晃の部屋を出た。そして海は海に行く為急いで準備を始める。
今年買った薫とお揃いのビキニを着て、テンションMAXだ。
「やっぱりこのイロチコーデかわいいぃぃ〜〜〜」
「だよね!だよね!!!!ナンパされちゃったりして〜〜〜www」
黄色い声の会話は大きい。するとノックも無くガチャッと海の部屋に晃がやってきた。
「おいクソ兄貴ノックくらいしろや!女が着替えてるだろうが!!!」
「そんなガキの体なんか需要ねぇよ!俺も夕方から出かけるから鍵忘れんなよ!」言い捨てるように晃はさっき投げつけられたサッカーボールを投げつけ出て行った。
「お兄ちゃんと今日も仲良しですね〜♪」薫が茶化す。
「仲良いわけあるかあんなクソ兄貴!ムカつくわ〜」海と晃は口を開けば言い合いになる。
そして準備を終えた薫と海は家を出た。小型ファンを持ちながら化粧崩れを気にして自転車からバスに乗り込み海に出かけた。
「海キターーーー!!!!」バスから降りると海は海を見て叫んだ。夏の海水浴場はたくさんの人がいた。
若いカップルや中高生は自撮りを楽しんでいたり、家族連れは海の砂浜で子供が駆け回っていた。
「やっぱり夏は海よね〜♪」なんて言いながら薫と海の自撮り大会が始まった。2人で写真を撮っては確認し大笑いをして2人の夏が始まっていった。
大きい浮き輪を必死に膨らませて海にも入った。喉が渇いた2人は売店がある"海の家"に行った。
そして席に着くとこんがり肌が焼けた若い店員にメニュー表を渡された。2人はメニューを見て映えるドリンクを探した。
すると席に水を持ってきた若い男の店員が話しかけてきた。
「あれ?晃くんの妹ちゃん?」
2人は顔をあげると同じ中学の一つ上の先輩、克樹だった。
「え???もうバイト???」薫は首を傾げた。
「あ!違う違う!お兄とお姉がやっててそれの手伝い。今日は店が大変だからさ・・・」克樹に出会うと海は急に自分が着ているビキニが恥ずかしくなった。
「何照れてんの?かわいいじゃん!お揃いの水着♪」克樹は爽やかに他のお客さんの所に行ってしまった。
海は急に顔が真っ赤になっていた。それを見た薫は下を向いてクスクス笑いをこらえていた。
「かわいいじゃん♪だってよ〜〜〜〜よかったですね〜海ちゃん」薫は海をからかった。
「やめてよ。なんでこんなところで会うかな・・・恥ずかしすぎるよ」海の声がこんなに小さいのは珍しい。
そして注文を頼むと克樹がドリンクを持ってきてくれた。「これサービスね♪」と頼んでいないポテトをもらい、はしゃいで喜ぶ薫。相変わらず海の顔は真っ赤だった。
そしてポテトの隣にはLIN○のIDが書かれた紙があった。「晃くんには内緒でよろしく♪」と海に言い残しまた他のお客さんの所へ行ってしまった。
「ひゃーーーーー!!!!!」喜ぶ薫
「すごいよ海!!!!!!克樹先輩の連絡先ゲットだよー!!!」すると顔がさらに真っ赤になっている海は自信無さそうに小さな声で言った。
「これ・・・私に・・かな?薫の方かな??」
「海に決まってるじゃん!だって晃くんに内緒にして なんて言ってたし」
「そうだよね・・・?私でいいんだよね??」確認するように小さな声で克樹に聞こえないように喜ぶ海。
その日から海と克樹は毎日のようにメッセージのやりとりを始めた。そして海は毎回のように薫に「こうやってメッセージ送っても変じゃないかな?」なんて相談してはキャッキャッしていた。
夏休みが明けたある日、克樹からのメッセージがあった。
"いつも薫ちゃんと学校帰ってるよね?俺は山口優と帰ってるんだけど明日4人で帰ろうぜ!家まで送ってくわ"
海は明日が待ちきれなかった。そしてすぐに薫に相談した。
「明日、克樹先輩と優先輩と一緒に帰ろーーだってー!薫もよろしく!」
「まじか!私克樹先輩も優先輩も喋ったことないけど・・・邪魔じゃない?」
「薫いないと無理だよ!恥ずかしくて死んじゃうもん!」海は克樹の話になると一気に女子になる。
次の日授業が終わると門のところで克樹と優が薫と海を待っていた。海は駆け足で教室を出て薫と合流した。
「髪おかしくない?アホ毛とかない?」容姿を気にする海はかわいい。
「かわいいよ。大丈夫だから」薫はクスッと笑った。
そして門につくと克樹先輩がこちらに手を振った。
「晃くんに気づかれる前に行こーーー♪」
「別にお兄ちゃんにバレても平気だよ?私のことなんて何も気にしてないもん」海の声はいつもより高かった。すぐに克樹と海は2人で喋り出し、取り残された優先輩と薫に気まずい時間が流れた。
「薫ちゃん?何組なの?・・・あっ5組って言ってたか・・・・」ぎこちなく優先輩は話しかけてくる。
「あっはい・・・・」中々会話は続かない・・・。
優先輩は背が高くて顔を見ようと思うと見上げないといけなかった。それがとても恥ずかしく、薫はなんだか優先輩とは顔を合わせられなかった。
そして近くの公園の前で克樹と海は止まった。
「ちょっと公園寄って行かない?」克樹の誘いに海は喜んだ。
公園のベンチに座ると克樹と海はまた喋り始めた。すでに2人はカップルのような雰囲気がしていた。そんな2人をぼーっと見つめる優。
「克樹先輩と海 付き合ってるみたいですね♪」薫は2人に聞こえないようにこっそり優先輩に声をかけた。
「そうだね。羨ましいよ。喋り上手な克樹が・・・」それに薫はクスッと笑った。
「優先輩は優しいですね。克樹先輩のお付き合いですもんね」
「違うよ・・・。俺が薫ちゃんと喋ってみたくて克樹にお願いしたんだ。」
「え???」急に薫は心臓の鼓動がはやくなるのを感じた。
「誰かに取られちゃう前にさ?」優は顔を真っ赤にして小さな声で言った。そんなセリフ、ドラマや少女漫画でしか聞いたことがない。薫まで顔が赤くなってきた。
「連絡先克樹や海ちゃんに聞いちゃってもいい?」薫は頷くのが精一杯だった。
優はそんなことを言ったもののすぐに会話が続くわけでもなく・・・2人はただただ気まずい静かな時間が続いた。その間も海と克樹の会話は大盛り上がりだった。
そして海の家の近くまでつくと克樹と優と分かれ、薫は海とようやく2人きりになれた。
「海、克樹先輩とラブラブやん♪」
「そんな事ないよー!優しいんだよ克樹先輩!!サッカーが上手いらしくてさ〜サッカーの話とかたくさん教えてくれたんだ♪薫は優先輩どうだった?」
「めっっっっちゃ気まずかったwwww」
「え?そうだったの?優先輩てっきり薫のこと好きだと思ってたけど・・・」
「うーーーーん・・・・」薫は顔をしかめた。薫は恋なんてしたことなかった為これがどんな感情なのか、そして相手は自分の事どう思っているのか、何が何だかさっぱりわからなかった。
「海は克樹先輩と付き合わないの?」
「告白されないもん。ずっと片想いなのかも・・・」
2人は思春期の入り口に立ち、今までにない自分の感情に戸惑いながら中学1年の夏を終えようとしていた。




