第7話「契約関係(コントラクト)」
意識が遠のいていくロードライトの前にふわり、と白い影が映る。
(しろ、いろ......?)
そのままロードライトは意識を手放した──
──
意識を手放したロードライトの前に躍り出たのは白い髪に淡く緑を纏う女性だった。
「......は?」
予想外だ、という顔をする男は眼前に立つ女性に見覚えがあった。
「──お久しぶりです、ゼノタイムさん」
「......ホワイトジルコン」
黄褐色の髪色の男──ゼノタイムは表情を変えず女性の名前を口にした。そして顔の前へ手を掲げ、彼女へと向けた。
次の瞬間にはロードライトへ攻撃を行ったときと同じようにホワイトジルコンの周囲へ光の柱が発生する。彼がその手で虚空を握りつぶすかのような動きを行うと彼女へ向かって一斉に熱線が放たれた。
無数の熱線が迫る中で彼女は小さく呟く。
「──いいえ、今の私はホワイトジルコンではありません」
ホワイトジルコンの左手薬指が薄い手袋越しに光を放ち彼女は左腕を前に出した。そこへ光の粒子が集っていく──それは美しい曲線を描きながら形を成していった。
それは『白い弓』。ゼノタイムへ弓を向けると弓の中心から光の矢が現れ、一直線に放たれた。
『格子欠陥・双色風信子石』
「──ッ!!」
双方の攻撃は同時に炸裂。その熱によって発生した煙が二人を隔てる。
そしてお互いが再び攻撃姿勢をとったタイミングで通路に声が響く。
「やめなさい」
声の主──アラナイトへと二人の視線が集まる。
彼はゼノタイムへ視線を向けると先程より低い声で語りかける。
「──ゼノタイム......一体何をしているのです? 度が過ぎますよ?」
「......」
彼は、アラナイトへ目線を合わせることなく背を向けるとそのまま去っていく。
「やれやれ......」
遠ざかっていく背中を見ながらアラナイトはため息をつく。そしてゼノタイムが居なくなったタイミングで部屋の奥へ声をかけた。
「......貴女も、もう出てきていいですよ」
部屋の奥から今にも泣きそうな顔で出てきたのはリーナだ。
「ッ......ロードライト!!」
彼女は意識を失って倒れているロードライトの元へと一直線に駆けだした。倒れている彼を抱き寄せて涙を流す。
「ロードライト......!起きて、おねがい......お願いだから......!やだ......やだよっ......」
アラナイトもリーナに続くよう歩み寄ると倒れている彼の様子を確認してから「これはひどいですね。......ふむ」と呟いた。
──泣きじゃくる少女の姿を苦しげに見つめていた彼女──バイカラージルコンは目をそらすと背を向けて歩き出した。
歩き出したバイカラージルコンに気づいたアラナイトは声をかける。
「ジルコンさん。どちらへ?」
背を向けたまま彼女が言葉を返す。
「私は、薬を貰いに来ただけ......お邪魔になるでしょうし外で待ちます」
「そうですか......彼、ああなると手が付けられないので──助かりました」
「......いえ」
彼女はそのまま歩き去っていった。
──
その後アラナイトはロードライトを治療室へ連れていき、リーナは治療室の外に設置されていたベンチに腰を掛け、胸の前で両手を組み──ただ祈っていた。
数十分後治療室の扉が開きアラナイトが出てくる。彼に気づいたリーナはバッと駆け寄りロードライトの安否を尋ねた。
「ッ......!!ろ、ロードライトは?!」
アラナイトはリーナへ視線を向けるとゆっくりと口を開く。
「彼は生命活動......いやオリクスとしての活動に支障はないです......ですが、予想外の問題がありました。貴女もこちらへ」
アラナイトはリーナを治療室へ入るように促す。彼女は治療室へ足を踏み入れた。
──
部屋の中に入ると全身に包帯を巻かれているロードライトがベッドの上で眠っている。ベッド横の棚の上にはロードライトのオリクト・コアが置かれている。
「......ロードライト......!」
リーナはベッドの近くまで寄りロードライトを見つめる。
「この通りです。......彼が頑丈で良かった。そして彼の体とオリクト・コアを入念に調べました。先程も言ったように問題があります」
「その問題って......?」
リーナが聞き返すと彼はそっと口を開いた。
「リーナ・アーガイル。貴女の所持者としてのエネルギーは彼に対して僅かにしか届いていません」
「──っ!?」
「これは貴女の所持者としての能力が悪いわけではなく、彼との契約関係そのものの──〝優先度が低い〟」
「低い......?」
「そうです。......先程、貴女の能力が悪いわけではない、と言いましたが──この問題の原因はおそらく貴女自身にあります」
「私......?」
彼はリーナを見据えて告げる。
「──貴女にはもう一つの契約関係が存在しています」