第3話「エレクトラム」
「ん......あ、私、寝てたんだ......? あ!」
目をこすりながらゆっくりと起き上がったリーナは寝る前の事を思い出し、ベットから勢いよく飛び出した。
「パパに契約関係のこと言わなきゃ......!まずは着替えて......」
パジャマを脱ぎ下着姿のままクローゼットの中を漁る。
「.....あ、そっかここ客室だから私の服無......あっ」
「リーナ様おはようございます。お召し物をお持ちし......ま」
タイミング悪く部屋へ入ってきたロードライトはリーナの姿を見て慌てて背を向け謝罪をする。
「あっ、あのノックを忘れてしまって、すいません! 以後気を付けます! し、失礼します!!」
バタン、と勢いよく部屋を飛び出すロードライト。
突然のことで反応できず呆然としていたリーナは遅れて悲鳴を上げた
「......いやああああっ?!」
──
「先ほどは失礼しました......!」
ロードライトは深く頭を下げた。
「き、気にしないで! ロードライトくんは悪くないし......!」
思い出しただけで顔が熱くなってくるが「忘れろ!私!」と彼女は頭をぶんぶんと横に振る。
これ以上この話をしていると良くないと思ったリーナは話題を変えようとロードライトへ疑問を投げかけた。
「あー、えっと......ところで、ロードライトくんはオリクスなんだよね? オリクスのこと私は昨日まで見たこと無かったんだけど、やっぱり珍しいの?」
「......? オリクスが珍しいかと言われれば確かにそうですが、数自体は少なくはないと思います。最近の『クォーターオリクス』は人間として生活している場合も多いようなので......」
「クォーターオリクス......って?」
「名前の通り〝オリクスと人間の性質〟が混ざり合っているオリクスのことです」
ロードライトはそのまま説明を続ける。
「人としてのオリクスの性質は最も高い場合で8割......これを『スタンダードオリクス』と呼びます。スタンダードオリクスはオリクスの性質を持つ〝人間〟の中では〝最もオリクスの性質が強く強靭〟で数は少ないと思います。更にオリクスの性質が約5割程の場合『ハーフオリクス』、2割以下の場合を『クォーターオリクス』と呼んでいます」
「じゃあ、ロードライトくんはスタンダードオリクスなの?」
「......いえ、僕は『エマオリクス』──人の想いを受け、石から発生したオリクス──人間ではないのです」
「......!」
(驚かせてしまった、でしょうか......)
リーナの驚いている表情を見て少し苦しくなる。
「リーナ様、申し訳ございません......驚かせるつもっ......?」
ロードライトの手をぎゅっと握りキラキラとした視線を向けてくるリーナ。
「すごい!だからロードライトくんはこんなに綺麗なんだ、って納得しちゃった!」
「──、」
固まっているロードライトの様子を見てリーナは首をかしげる。
「......ロードライトくん?」
「リーナ様、ありがとうございます......」
「? ......うん!」
嬉しそうな寂しそうな表情で微笑むロードライトへ、リーナは屈託のない笑みで言葉を返した。
「……リーナ様、こちらを」
と、ロードライトが深い赤色の小さな袋を差し出す。
「これは......?」
「すいません。今はまだ中身を言えないのですが......肌身離さずいてくださると......何かあった時お力になれると思います」
「? わかった、ありがとう!」
受け取った袋を制服のポケットに入れてその場を後にした。
──
ロードライトと別れたリーナは父のいる部屋へと向かっていた。父は家にいるときはほぼ書斎にいるほど研究熱心な人だ。
リーナが書斎へたどり着くと既に入り口の扉は開いていた。
「パパー? いる?」
ひょこっと入り口から頭を出し、書斎の中を見回す。
「いない......ん?」
『......』
書斎の奥からかすかに物音がする。
「話し声......?」
奥へとゆっくり歩み寄っていくと声が鮮明に聞こえてくる。
『話がちがうじゃないか』
『ぐ、しかしだな......』
『......次の手を打とう』
通話をしているようだが何の話をしているのだろう?と、更に奥へ近づこうとしたとき──
「お嬢様。勝手に旦那様のお部屋に入ってはいけませんよ?」
「っ!!」
リーナが振り向くと背後にはメイド姿の女性が立っていた。
「あ......アデュラ......さん」
「旦那様はお忙しいのです。......お嬢様は登校の準備をすべきではございませんか?」
「はい......ごめんなさい」
リーナはメイド服の女性の冷たい視線から逃げるように書斎を後にする。
「......」
書斎から出ていく少女の後ろ姿をアデュラはじっと見つめていた。
──
「はあ、びっくりした......」
まだ心臓がバクバクしているリーナは近くの壁に寄りかかり胸を抑えてはーっと息を吐きだす。
「えっ......リーナ様? どうかされましたか......?」
胸を抑えているリーナの様子を見てロードライトが声をかける。
「......パパに昨日の話、契約関係の事をはやく話さなきゃって思ったんだけど今は忙しいみたいで.....」
「そうでしたか......ところでリーナ様、そろそろ学校へ向かわなければまずいのでは......?もう家を出発しているものかと......」
「え? あっ! そうだった!!」
走りだそうとする彼女を「あっおまちください」とロードライトが制止する。
「な、なに?!」
「気をつけていってらっしゃいませ!」
「......うん!」
──
リーナは急いで玄関まで向かうと一度振り返り「いってきます!」と大きな声で言ってから玄関を出た。付近で仕事をしていたメイド達が「いってらっしゃいませお嬢様」と返してくれる。
玄関を出て庭を走っていたリーナの視界に緋緋色金が入る。
「緋緋色金さんおはようございます」
「ん、小娘か? 何故奔る?」
「今から学校です!」
「......学校? ふむ、そうか学び舎へ行くのか」
「はい、いってきます!」
少し頭を下げて再び走り出す。
「......用心することだ」
──
ギリギリで始業時間に間に合ったリーナは息を切らせながら教室の椅子に腰かけた。
「はぁはぁ......疲れたー!今日はもう走りたくない!」
リーナが机にうつぶせになり呻いていると前の席に座っていた友達が後ろを向き声をかけてくる。
「おはよう。こんなギリギリなんて珍しいね」
「うん、おはよう……疲れたよー」
「あはは。なんかあったの?」
「それがねー......あっ」
ぴしゃりと教室の戸が開く。
「おはようございます」
担任教師が教室に入ってくると生徒達のざわざわとした声が小さくなる。
「今日は特別なお知らせがあって......さあ、入ってきて」
教師がそう言うと金色の髪の女の子が教卓の前へと進み、立ち止まった。
「紹介します、彼女は『静金珀』さん。親の都合で転校してきたそうです。」
と、教師が言うと彼女はスカートの端をつまみ上げて深くお辞儀をする。
「皆様ごきげんよう。よろしくお願いいたしますわ」
お辞儀をしていた彼女がゆっくりと顔を上げた時、金色の瞳が鋭くリーナを捉えた。
「......え?」
「じゃあ、珀さんは......奥の空いてる席に座って」
「はい」
彼女は一直線にリーナの前まで歩いてくる
「貴女と隣の席だなんて、なんという運命でしょう......よろしくお願いいたしますわ」
「えっはい、よろしくお願いします......?」
教室を出ようとしていた教師が「あっ」と振り向き
「リーナさん、昼休みに珀さんへ校舎を案内してあげてください。よろしくお願いしますね」
「えっ私!?」
驚きで思わず席から立ちあがる。
「学級委員長としての活動ということで......ここはひとつ......ね?」
と、教師は両手を合わせてみせる。
「わ、わかりました......」
校舎案内を承諾したリーナはゆっくりと着席した。その様子を見ていた珀はクスリと笑いながら「あら、それはお昼休みが楽しみです......ねぇ?」とリーナの方へ視線を向けた。
──
時間はあっという間に過ぎ今はお昼休み。珀は休み時間のたびに他の生徒から質問攻めにされていたり、ほかの学年の生徒がその姿を一目見ようと集まったり......大人気なようだった。
「リーナさん、お食事は済みましたか?校舎を案内してくださるのでしょう?わたくしとても楽しみにしていましたの!」
「じゃ、じゃあ......どこから行きましょうか?」
案内する場所をリーナが考えていると突然手を掴まれる。
「!」
「リーナさん!わたくし気になっていた場所があって......そこからは如何でしょう?」
「えっじゃあそこからで......! わっ」
珀はリーナの手首をぐいっと引き駆け出す。
「善は急げ、ですわー!」
──
「着きましたわ! リーナさん......?」
「はぁ......はぁ......今日はもう、走りたくなかったのに......」
ぜぇぜぇと息を切らすリーナを珀は「あら」と眺めている。
「はぁ......はぁ......っん、というかここって......校舎裏......?」
「そうですわ」
「えっ......なんで......?」
「ふふ.....人目のつかない場所の方が都合がよかったから、と言えばお分かりになります?」
突如として足元から金色の樹の枝状の物体が伸びてリーナの手足に絡まりつく。
「きゃっ?!」
「本当は貴女を消すことが目的だったのですけれど──」
珀は身動きの取れない彼女の胸元にゆっくりと右手を添えて囁きかける。
「わたくし貴女のの所持者としての質の高さに一目惚れしてしまいましたの、リーナさん、わたくしと契約関係を結んでいただけませんか......?」
「えっ......珀さんはオリクス......なの!?」
「ええ、わたくしはスタンダードオリクス......!オリクト・コアの真名は『エレクトラム』」
(エレクトラム......?)
聞いたことのない名前だ。
「わたくしと契約関係を結んでいただけるのであれば命は奪いませんわ。いかがです?」
珀は身動きの取れないリーナへ更に近づき腰に左腕を回すとしなやかな手付きで脇腹部分をなぞる。
「んっ、やぁっ......ぁん......! だめ、私、は......っ」
くすぐったさで身をよじるリーナ。
「ダメ......ですか?」
しゅん......と落ち込んだ様子でリーナからそっと離れる。が、何か思いついたというように胸の前で手を合わせながら。
「ああでも......無理やり結んでしまうのも悪くありませんよね?」
と熱のこもった視線を向けながら再度距離を詰める。彼女は自身の手首に巻いていた金のブレスレットを外しリーナの体の中心──臍の下辺りにぐっと押し当てる。
「いっ......」
強く押し当てられた痛みで反射的に声がこぼれる。
「ふふ……では、頂きますね?」
「......!!」
近づいてくる珀の顔に思わず目を閉じた──
──パァアアア
「──なんです?!」
突如リーナの体が薔薇の色に輝く、正確にはリーナの制服のポケットから光があふれていた。その光で手足に絡みついていた金色の樹も解けていく。
『リーナ様、袋をポケットから取り出して上に投げてください!』
ロードライトの声が響く。
「ロードライトくん?!」
『急いで!』
「う、うん!」
リーナはポケットから光輝く袋を取り出すと精一杯上へ投げた。投げた瞬間袋だったものは消え去り赤紫色の欠片が入った小瓶が現れる。その直後、赤紫色の花弁が降り注ぎ上空からロードライトが真っ直ぐ下へ落下して着地する。腕をスッと上に伸ばし降ってきた槍をパシリと掴む。
「遅れてしまいすみません、リーナ様。どうか隠れていてください」
「ロードライトくん......!」
「......お邪魔虫、しかもエマオリクスが現れるなんて、ツイてないですわ......あら?」
珀はロードライトの様子を見てクスリと笑う。
「でも、だいぶ弱ってらっしゃいます?」
「──!」
「契約関係を結んでないエマオリクスなんて......これはわたくしにもチャンスがありますわ! 縛って! 錆ゆく金の樹枝!」
地面から金色の樹枝が生えロードライトへ向かって一直線に伸びる。最初の数本を体をひねって躱すが槍に巻き付いた樹枝で動きが遅れ、ロードライトの身体へ樹枝が絡まりついていく。
「ぐ、......っ」
「遅すぎましてよ? ......避ける気、ありまして?」
珀はつまらなそうな顔をして身動きが取れなくなった彼にゆっくりと近づくと、ロードライトの首元のオリクト・コアを人差し指でスッとなぞる。
「──い゛っ......?! んっ......はぁ......」
ロードライトは身体をびくっと震わせると珀を睨みつける。
「かわいそうに......悪霊の残滓がこんなに溜まっている身体で......健気すぎますわ」
「ち......ッ違、やめ......ッあ──?! 」
オリクト・コアを指先で弄ばれあらぬ声が零れる。
「今楽にして差し上げます! わたくしの、錆ゆく金の樹枝で!」
ロードライトのオリクト・コアに向けて手をかざす珀。
「──だめーっ!」
その直後にリーナがロードライトを庇う様に横から抱きしめる。
「リーナ、様......」
「ロードライトくんを傷つけないで!......わた、私が今度はロードライトくんを助ける、からっ......!!」
ロードライトを抱きしめているリーナの体は恐怖で震えていた。
リーナの瞳がうるりと輝き、無意識にこぼれた涙はロードライトのオリクト・コアへポタリと落ちた──
直後、赤紫色の花弁がぶわりと舞い上がる。突然のことで目を閉じた珀が再び目を開くと視界からロードライトとリーナの姿が消えていた。
「!? ......何処へ?!」
──
目を開けた時、リーナは朽ちた協会の中にいた。
「ここは......」
リーナは周りを見渡すと奥からロードライトが現れる。
「──リーナ様、昔......僕は大切な人たちを守れませんでした......傷を負ってこの国へと流れついたのです。」
彼はリーナの前に跪く。
「ロードライト、くん......?」
「......今度こそは、守り抜く。それが僕が今ここにいる意味です」
彼は顔を上げリーナを見つめる。そして首に下げていた|ロードライトガーネット《オリクト・コア》をリーナへ差し出した。
「──どうか、僕と契約関係を。玉令を僕に──」
「──、うん!」
リーナは|ロードライトガーネット《オリクト・コア》を受け取り、胸の前でギュッと握りしめ願う。
《 ──私を、守って! 》
跪いていたロードライトがスッと立ち上がり、リーナの握りしめていた手の上に静かに手を重ね──額にそっとキスをした。
「!」
そしてロードライトはリーナを見つめながら言葉を紡ぐ。
「はい──主」
その瞬間朽ちていた協会に薔薇の花が咲き乱れた。
──
突然姿の消えた二人を見つけようと周りを見渡す珀の頭上──はるか上空から薔薇の花弁が降る。その中心にはリーナを抱きかかえたロードライトの姿があった。
「──ッ!姿を現しましたわね!位置が分かればこちらのもの、行って!錆ゆく金の樹枝!」
珀の足元から数十本の樹枝が生えて上空へと高速で伸びる。上空では躱すことも不可能だ、と珀は勝利を確信した。
「リーナ様、行きます。どうかしっかりとつかまっていてください」
「うん」
ロードライトはリーナへ微笑みかけてから真っ直ぐに珀を見据える。リーナはロードライトを掴んでいる手の力を強めた。
ロードライトは右手を首元のオリクト・コアへとかざし、赤紫色の花弁が収束、薔薇の槍を形成するのと同時に、向かってくる数十もの樹枝の中へ落ちるかのように飛び込んでいく。
「真っ正面から向かってくるなんて......!無謀でしてよ!」
珀が手を掲げると追加の樹枝が発生、号令のように前へ手を降ろすと二人へ襲い掛かった。
襲い掛かる薔薇の槍をで樹枝をいなし一瞬だけ動きの止まった金色の樹枝を足場にして一気に加速する。
「!」
「──これは僕の悔恨から新生するもの。もう一人の僕への誓願......これは新たな主を守る力! 開花する時だ! |薔薇咲き誇るガーネットの棺《ツヴェトゥーシチー・ロードライトガーネット》ッ!!!!」
右手の薔薇の槍を全力で放つ。それは赤紫色の花弁を纏いながら高速で珀へと向かっていく。
「く、ガードを......ッ!」
樹枝を前方に発生させガードを試みるが薔薇の槍は金色の樹枝と珀をいとも簡単に貫いた。
「きゃあああ!」
ロードライトの攻撃が直撃した珀はパタリとその場に倒れ、リーナを抱えたロードライトはタンッと着地する。その場へゆっくりと降ろされたリーナは珀の方へ駆け寄る。
「珀さん......し、死んじゃったの......?」
「いいえ」
──すぅすぅ......
「? ......ね、寝てる??」
「はい。守るための力、ですから」
そう口にしながらにこりとリーナに笑いかける
「! うん!」
──
「ぅん......わたくし......あら......?」
保健室のベッドの上で目覚めた珀は自分の体をぺたぺたと触る。「確実に死んだと思ったのに、何故?傷すら無いなんて......」という疑問はベッドの仕切りになっているカーテン越しから現れた二人──、リーナとロードライトを見て瞬時に〝察した〟 。
「命を取らないなんて、お人好しがすぎますわ......」
観念したような顔をして一度目をそらすが、再び二人を見つめてから言葉を発する。
「わたくしはリーナさんの命を狙ってここに来ましたわ。ですが、あなたのことを消させようと私に命令した人物の事。覚えていませんの.....これはきっと」
「玉令......?」
ロードライトが口にすると珀もゆっくりと頷いた。
「......玉令が有効だったということは、貴女には既に所持者がいたということですね?」
「おそらくはそうでしょう......けれど記憶がありません......ですが、ここに来た時から誰かと〝繋がっている感覚〟がありませんから......わたくしは使い捨ての駒、ということでしょうね」
「つ、使い捨て......私の命を狙うためだけに......??」
リーナが驚いたように声を上げる
「......そう。ですから、わたくしを生かしておく価値はなくってよ? ......
錆びてしまう金に価値なんて無いの。リーナさんに酷いこともしてしまいましたし......」
「......だめ、そんなの許せない!」
「リーナさん......? ふふ、まあ命を狙われたらそう思うのも当然のことですわ......だからわたくしを......え?」
彼女が怒っているのは当然だ。と目を伏せていた珀の手をリーナが握る。
「珀さんに私を殺させようとした人を私許せない......! すごく、怖かったから......けど......うっ」
リーナは涙ぐみながら珀に抱きつく。
「けど、価値が無いなんて、そんなことない! 悲しいこと言わないでっ......」
「わたくし貴女へ酷いことしかしていませんのに......泣いてくださるのね?」
抱きついているリーナの頭をそっと撫でて「ありがとうございます」と小さくつぶやく。
「......貴方もわたくしを許しますの?」
ロードライト方へゆっくりと視線を移す。
「主が許すのであれば僕はその意思に従うのみです」
「あなた達──、優しすぎますわ......ええ、わかりました。静金 珀
いえ、わたくしのオリクト・コアに誓って貴女を守ります。......よろしくお願いいたします」
──
「ひとつ......よろしくって?」
保健室から出ていく途中、珀はロードライトへ声をかけた。
「なんですか?」
「先程の戦いの時.....貴方のオリクト・コアを触らせて頂きましたが......」
「えっ......あっ......は、はい」
あの時、あらぬ声をあげてしまったことの指摘かと思ってロードライトは身構えた。
「......大きな傷があったと記憶しておりますわ」
「!!」
「あの傷では契約関係の浄曄も意味をなさないのではなくって? ......しかもそのままエネルギーの流出が続けばあの子への負荷にもなりかねない......どうするおつもり?」
「......それは」
ロードライトは言葉を返すことができなかった。
「二人共ー!どうしたの?」
ロードライトと珀が遅れていたのに気付いたリーナが駆け寄ってくる。
「いえ、何でも......」
「ええ、そうです。さあ早く帰りましょう?」
──夕日で橙色に染まる廊下を進みながら三人は帰路に就いた。