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第2話「緋緋色金」


「リーナ様、落ち着きましたか?」

「うん......少し、ありがとう」


「旦那様やメイドの方々は皆、無事でした。本当に良かったです......ただ、リーナ様のお部屋が......夜が明けたら業者へ連絡しましょう。」

「うん......」

 リーナの部屋は外壁が破壊され酷い状況になっていた。今は二階にある客室に三人で集まっていた。そしてリーナはロードライトの作ったココアを飲みながらホッと一息をついていた。その隣でココアを珍しそうに眺めている緋緋色金ヒヒイロカネに向けて恐る恐る声をかける。

「あの、緋緋色金さん......? ココア、飲みたいんですか......?」

「......ん? 小娘よ。我がそのようなものに興味を持つ......ん?」

 ロードライトが冷ややかな視線を向けながらココアの入ったマグカップをグイっと差し出す。

「その言葉遣いリーナ様に大変失礼です! ココアが欲しいなら僕の分を飲んで黙っててください」

「フッ......気が利くな? ......おお、これは美味い」

 ロードライトの冷たい態度を気にも留めず、すっかりココアに夢中な緋緋色金をよそにリーナは屋敷を襲った二人組のことを考えていた。


「ねえ、ロードライトくん......あの時の人達ってやっぱりオリクスだったの......?」

 白い髪の女性、白いスーツを着た男性──一体何者だったのだろうか?

「......白い髪の長身の女性。彼女はオリクスだったと思いますが、白いスーツの男性は人間。しかもホルダーとしての能力を持つ者かと」

「そうなの?」

「白い髪の女性に《玉令》を行っていましたから。」

「玉令って......?」

「オリクスとそのオリクト・コアをホルダーへ預けた時に行うことのできる〝互いに定めたルール〟の行使です」

「お互いへの......?」

「はい、例えばそうですね......先程の二人組の場合は、白いスーツの男性が彼女へ定めたルールが〝暴走しない〟という誓約だった場合......彼女の暴走を《玉令》によって男性が必ず止めることができます」


 ──白い髪の女性と緋緋色金の戦いを止めた男性の言葉

《 ──■■■■、■■■■■ 》


(あれが......玉令?)


「気になったんだけど、さっき必ず止めることができるって言ってたよね? ......ルールの内容が〝死んではいけない〟とかだったら......?」

「......そのホルダーとオリクス次第かと思いますが、とても難しいと思います」

「ど、どうして?」

「玉令は〝一時凌ぎ〟なんです......基本的には。しかも玉令は両者間で〝エネルギーの移動〟をしているだけなので......相手の死を一時的に阻止できたとして〝死を覆す〟ような膨大なエネルギーを相手に譲渡するわけですから、いえ......エネルギー不足でどちらも命を落とすかもしれません」

「そうなんだ......ねえ、あの二人の目的ってやっぱり私のホルダーの能力なのかな......?私まだホルダーのこと良く分かってないんだけど......?」

「......僕からも説明するべきだと思っていました。ただ、旦那様はまだこのお話をリーナ様にされていない様子だったので......」


「前にも伝えましたが、〝所持者ホルダー〟は僕達のようなオリクスの力を更に引き上げ、また〝清く〟戻す人のこと......」

 ここまでは既に知っていますよね?とロードライトは微笑む。

「この力が作用する関係性を〝契約関係コントラクト〟と言います。力を引き上げるというのは先程説明した《玉令ぎょくれい》、清く戻すことを《浄曄じょうか》と言います。この浄曄はオリクスがホルダーの近くにいるほど強く作用し、コントラクトが続く限り減衰はあれど続いていくものです」

「このコントラクトって状態にどうやったらなれるの......?」

「えっ、それは......って、リーナ様?」

「だって、コントラクトした方が良いんでしょ......?私じゃダメ?」

「ッ~~!?」

 ロードライトは顔を真っ赤にして目の前の少女から目をそらす。

「い、いえ!ダメということはないんですが!リーナ様はまだ幼いですし!そんなことはできなっ......いや、でも!?」

「??」

 どうしてロードライトがこんなにも取り乱しているのかわからず首をひねっているリーナへ向けて緋緋色金が声をかける。

「契約関係を行う為の儀式には色々な方法があるのだが......ふむ、同衾と言ってわかるか?」

「どう......? って、なんですか?」

「興味があるのか?......はははっ、これはな」

 言葉を続けようとした緋緋色金の腰をロードライトがスパーンと叩く。緋緋色金は「ぐっ」と低いうめき声を上げる。

「何を教えようとしてるんですか!!やめてください!......リーナ様、先程のことはどうか忘れてください」

「えっあ、はい......?でもコントラクトは......?」

「......契約の為の儀式にはたしかに様々な方法がありますが、最も簡単なのは血を少量頂く方法ですね。怪我をさせてしまうことになりますが......」

「えっそれだけでいいの?」

「リーナ様っ?!」

 驚きを隠せないロードライトの目をまっすぐ見つめてリーナが続ける。

「だって、それでロードライトくんを強くできるんでしょ......? 私にできるなら何だってするよ」

「リーナ様のお気持ちはよくわかりました。ですが、コントラクトを結ぶことは旦那様へも話を通すべきです。後で一緒に相談しましょう」

「......うん、わかった」


「ですから今はお休みになってください。学業へ支障が出てはいけませんから」

 明日は確かに平日だ。そろそろ寝ないと授業中に眠くなってしまうかもしれない。

「で、でも、まだ不安で......寝れるまで一緒にいてくれない、かな......?」

「!! も、もちろんです! ちゃんと見守っていますから......」


「おやすみなさい。リーナ様」

「うん......」

 リーナはロードライトの言葉に安心したのかすぐに寝息を立てはじめた。


──


 リーナが眠りについたところで二人は静かに部屋を出た。しばらく廊下を歩いたところで突如、緋緋色金がロードライトを壁側にグイと押し付ける。

「......少しは大人しいと思っていたら、一体何のつもりですか?」

 急な事態だったがロードライトは冷静さを保てていた。


「フッ......よいのか?」

 緋緋色金はロードライトの口元へ慈しむ様な手付きで手を添える。

「ん、何の話ですか?」

 くすぐったさを感じつつロードライトは素っ気ない態度を返す。

「む、つれんなぁ......」

 わざとらしく口にすると、ロードライトの口元に添えていた手をゆっくりと下へ──首元にあるロードライトのオリクト・コアへ手を伸ばす。

「!! 何を......?!」

 びくり、と動揺するロードライトを見て緋緋色金は目を細くする。

「うぬの契約関係コントラクトは既に我とある。これはまあ〝嫉妬〟というやつだろうな」

(はぁ......また僕の様子を見て楽しんでるだけ、でしょう?)

「噓を言わないでくれますか? 〝貴方〟との契約ではありません。不幸にも〝貴方の依り代〟にされた『紅太』との契約関係コントラクトです」

 ロードライトは緋緋色金をキッと睨みつけながら言い放つ。

「......はっははは! うぬのその顔だ! 大変良いぞ、そそられる。追いかけた甲斐があったというものだな」

「悪趣味......」

 緋緋色金はロードライトから離れると、数歩進んだ後に振り返る。

「何と言おうと構わんが......退屈せずに済みそうだ」


 

──緋色を纏う男はそのまま廊下を進んでいく。その場に残ったロードライトは複雑な心境でその男を見つめていた。



──


「?」


 何か思い出したのか、緋緋色金が戻ってくる。

「はっははは......ところで。あの女とうぬの間に割って入り助けた礼をまだされていないのだが?」

「は?」

 ロードライトは思わず素っ頓狂な声を上げた。

「......ココアあげたでしょう?」

「あれもたしかに美味だったが、酒が良い」


「はい??」

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