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軍艦モノ

真珠湾壊滅、戦艦群壊滅。穿つロマン砲炸裂

作者: 仲村千夏

 1941年12月7日、日曜日。

 オアフ島、フォード島海軍基地。空は青く澄み、風も心地よい。これ以上ないくらい、穏やかな朝だった。


 俺はその日、交代勤務明けの遅い朝食をとっていた。

 炊き出しのパンを片手に、ぼんやりとした頭でラジオの音を聞き流していた。いつも流れているお気に入りのジャズ番組だったが、途中でプツリと音が切れ、ざらついた男性の声が割り込んできた。


 「……こちらワシントン。現在、日本との間で外交交渉が打ち切られたことを受け……本日、開戦との声明が発表されました……」


 思わず、パンを落とした。

 開戦、だと? 今このタイミングで? いや、冗談じゃない。誰がこんな間の悪い日に戦争を始めるんだ。


 「間に合った、だと……馬鹿な……!」


 あの馬鹿正直な政府が、事前に宣戦布告を済ませていたらしい。だがそんなものが今さら何の意味を持つ?

 現実は、それよりずっと早く、俺たちの頭上にやって来ていた。



 突如、空が唸った。

 南方から編隊を組んで飛来する黒い機影。陽光にきらめく銀の胴体に、真紅の丸――。

 それは、教本の写真でしか見たことのなかった日本軍の艦載機だった。


 サイレンが鳴り、司令部からの緊急警報が構内に響き渡った。

 「対空態勢! 本土防衛戦闘用意!」


 俺は遮蔽物の影に飛び込み、空を見上げた。

 爆弾が落ちてくる。機銃掃射が滑走路を裂く。燃料タンクが炎上し、整備中だった飛行機が何もできずに火に包まれていく。

 全てが、あまりに一方的だった。



 だが、それは“普通の空襲”だった。

 少なくとも、そのときまでは。



 午前8時12分。

 第一次の攻撃波が一通り過ぎ、煙と炎が漂う中、なおも空には数十機の日本軍機が旋回していた。第二次攻撃に向けて体勢を整えているのだろう。まだ終わってはいない。


 だが――その瞬間だった。


 腹の底を突き上げるような轟音が響いた。

 空気が重くなる。海がざわめく。建物のガラスがビリビリと震えた。


 それは、空からではなかった。

 どこか、はるか遠くの水平線の向こうからやって来た、信じがたいまでの衝撃波だった。


 ズドン、と身体の芯を揺さぶる音とともに、港湾内の戦艦が“叩き割られた”。



 最初に見たのは、戦艦**〈ウェストバージニア〉**だった。

 艦橋付近から閃光が走り、直後、船体中央部が文字通り“裂けた”。

 装甲の分厚い腹が、紙のようにめくれ、火柱と黒煙が噴き上がる。


 それだけではなかった。

 続けざまに**〈オクラホマ〉が粉砕され、〈アリゾナ〉の艦尾が吹き飛んだ。**


 爆発音が遅れて耳に届き、破片が空を舞う。

 甲板を人ごと吹き飛ばす衝撃。艦橋ごと消し飛んだ戦艦。

 轟音と閃光、黒煙と鉄くずの雨。

 俺はただ、見ていた。あまりに現実離れしていて、声も出なかった。



「何が、起きてる……?」


「第二次攻撃か? 航空爆撃じゃないのか!?」


「ちがう……ちがう、あれは爆弾じゃない! ――砲撃だ!」


 誰かが叫んだ。だが、どこから撃っているというのか。


 湾の出口を見ても、海の上は何もなかった。

 見張りが報告していた外洋の日本艦隊は、今ごろはもっと遠くにいるはずだ。

 そもそも――艦影など、どこにも見当たらない。



 しかし、砲撃は止まらなかった。


 雷のような発砲音が、数十秒おきに大地を打ち、戦艦が一隻、また一隻と、撃たれては四散していく。


 港に停泊していたはずの誇り高きアメリカ太平洋艦隊の主力が、まるで的当てのように、順に崩されていった。



 まるで“何か”が、こちらの視界に入らないまま、

 はるか海の向こうから神の怒りのごとく砲撃を加えているようだった。


 “それ”は見えない。

 けれど、確かにそこにいる。

 戦艦なのか、何なのか。俺にはわからない。


 ただ、ひとつだけ確かだったのは――


 あの一撃で、真珠湾の戦艦群は、消滅した。

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