2.妖精の隠れ家(4)
海沿いの道路を走りながら考える。今日のバイトは夕方からだ。まだ日は高い。まっすぐ帰る気にはなれない。
こういう時、いつもなら基地に向かうのだが。
沙綾はこの数日をどう過ごしたのだろう。食糧や現金は持っているのだろうか。
全くの手ぶらで旅に出ることはないと思うが、そう確信できるほど昭仁は沙綾のことを知らない。
気乗りはしないが差し入れでもするか、と昭仁は心を決めた。
基地から商業施設までは徒歩だとかなり距離がある。この暑さで歩いている人は少ない。沙綾が基地にいる確率は高い。
何を買うべきか全く分からないので、昭仁は日持ちする食品を片っ端から買うことにした。冷たい飲み物もいくつか買う。
そうして基地に行ってみると、沙綾はいなかった。
暑さに耐えかねて、外へ出ているのかも知れない。それともまさか買い出しに行ったのか……昭仁はひとまず、裏山に行ってみることにした。沙綾の所在を確認しておきたい。
基地の裏には山が広がっている。
基地の裏口から山の中腹の拓けた場所にかけて、人ひとりが通れる程度の幅の小道が繋がっている。山歩きに慣れていない者なら、藪に分け入るようなことはしないだろう。あの小道を通るはずだ。
しばらく歩くと、小さな川が流れている空き地のような場所がある。いるとすればそこだが……果たして、沙綾はそこにいた。川のそばの岩に腰かけている後ろ姿が、木々の隙間から見えた。
草を掻き分ける音に沙綾は素早く振り向いたが、そこにいるのが昭仁だと認めると肩の力を少し抜いたのが分かった。
「いい場所を見つけたな」
夏休み中の子どもたちはよく山で遊ぶが、行くのは昆虫や実のなる木が多い南側で、北のこちらには来ない。昭仁も小学生の頃、真夏の昼間は人を避けてよくここへ来ていたものだ。
袋の中身を見せると、沙綾はわずかだが顔を明るくした。「これ、もらってもいいの?」
「いいけど。それ、好きなのか」
「うん」
昭仁ならまず飲まないヨーグルト味のドリンクを手に、沙綾は足を揺らした。靴を履いていない。小川に足を浸していたらしい。
夜の暗い基地の中だったからそう見えたのかと思っていたが、夏の太陽の下であっても沙綾は顔色が良くなかった。一度も外に出たことがないような血の気のなさだ。
「あの……」
遠慮がちに、沙綾が話しかけてきた。
「あなたは廃屋だと言ったけど、あそこにあるの、立派なアンティーク家具ばかりだわ。あれは全部買い集めたの?」
「まさか」
昭仁は予想外の問いに戸惑ったが、それでも答えた。「拾ったんだ」