プロローグ
昭仁は別に、この町が嫌いというわけではなかった。
絶えず生臭い漁港や、大人も子どもも示し合わせたかのように排他的な……それは多分小さな町特有の性質や、とりわけ日差しのきつい夏の午後にはさすがにうんざりすることもあるものの。
しかし、嫌いでないのと好きなのはまた違った感情だ。
昭仁は九歳の時この町に来た。つまり、よそ者だ。
この町で生まれ育った同級生たちは、昭仁と違って洒落たものなど何もない自分の町を忌み、華やかな都会に憧れていた。
馬鹿馬鹿しい、と昭仁は思う。都会に行きさえすれば、人生がもっと素晴らしいものになるとでも言うのだろうか。何の努力もせず?
今ひとつぱっとしないのは自分のせいではなく、こんな田舎にいるからだ。都会にさえ出ればもっと上手くいく、無意識に皆がそう思っているのは学校にいると強く感じた。
過剰な田舎コンプレックスを持つ同級生たちは、東京生まれの昭仁をよく苛めた。
馬鹿馬鹿しい。
越してきた当初も今も、その思いは変わらない。この冷めた目で余計に敵意を向けられたのかも知れなかったが、それすらどうでも良かった。
いつまで続くのだろう、と昭仁はいつも思う。それは家庭のことであったり、女子との交際であったり、あるいは人生についてだったりしたが、ここに来た時からその思いはずっとあった。
つまるところ俺は成長していないのだな、と昭仁は皮肉げに考える。