第8話 強面騎士は公爵家の事情を聞く
翌日、俺は騎士団に出勤し、団長室に向かった。
団長に報告するためである。
「──という次第です」
「そんなことがあったのか」
報告を聞き、団長は真剣な表情で頷く。
昨日の件は結構な大事だったらしく、すでに知っていた様子だ。
それを当事者である俺の話で補完した形である。
「しかし、あんなことがあるもんなんですね」
「まあ、珍しいことではあるな。しかし、公爵令息も馬鹿なことをしたものだ。今回の件でおそらく次期公爵の座は遠くなるだろうな」
「廃嫡にはならないんですか?」
純粋な疑問を投げかける。
俺の印象ではあの男は今までも相当やらかしてきたタイプである。
既に信用は失っていそうなものだが──
「なんだかんだいって長男だからな。家を継ぐのは長男であるべき、という風習は残っている」
「でも、あの男が公爵家を継いだら大変なことになりますよ。というか、国自体もやばいのでは?」
「否定できないな。だが、それも杞憂だろうよ」
「どういうことですか?」
俺は首を傾げる。
団長はニヤリと笑みを浮かべる。
笑顔を浮かべているが、強面がより怖くなっている。
「公爵家には優秀な次男がいるらしい。少し体が弱いらしいが、次期公爵になるには十分な素養があるという話だ」
「そうなんですね」
「その子がいる限り、やらかした長男が継ぐ可能性は限りなく低くなるだろう。現公爵もしっかりした人だから正しい判断をするだろう」
「なら良かったです」
話を聞いて、納得できた。
たしかに大丈夫そうである。
俺が親の立場でも長男ではなく、次男に継がせるだろう。
「まあ、この話は終わりにしよう。それよりも大事なことがある」
「大事なこと?」
騒動の話より大事なことは何なのだろうか?
俺は首を傾げる。
「お前の結婚の話だよ」
「ああ、なるほど」
答えを言われ、俺は嫌な顔になる。
正直、昨日はまったく手応えがなかった。
騒動に巻き込まれたのもあるが、それ以前にほとんど周囲と会話できなかった。
あのままでは相手を見つけることができないと思う。
「どうやら何もできなかったようだな」
「やっぱりこの強面が駄目みたいです」
俺は思わず弱音を吐いてしまう。
騎士団の仕事をする上で強面は非常に役に立つ。
だが、いざ人と関わる上で強面は足を引っ張ってしまっている。
まあ、わかりきっていたことではあるが──
「その考え方は良くないと思うぞ」
「考え方ですか?」
真剣な表情で団長が指摘してくる。
どういうことだろうか?
「たしかにお前は強面だ。それは紛れもない事実だ」
「そうですね」
「俺も強面だし、団員のほとんどが強面だ。だが、既に結婚している奴も多い。お前と何が違う?」
「違いですか・・・・・・運、でしょうか?」
少し考えてから答えてみる。
強面でも受け入れてくれる相手を見つけられたのだから、運が良かったのだと思った。
「馬鹿野郎。運だけで相手が見つかるわけがないだろう」
「そりゃそうですね」
流石に違ったようだ。
だが、それなら何が違うのだろうか。
「違うのは強面に対する受け入れ方だ」
「受け入れ方、ですか?」
よく分からず、首を傾げてしまう。
どういう違いなのだろうか。
「たしかに強面であることで周囲に敬遠された経験は俺にもある。だが、俺はそれでも強面が自分の特徴であることを受け入れたわけだ」
「それぐらいなら俺もしていますが?」
あたかも俺が受け入れていないような言われ方だ。
反論するが、団長は首を振る。
「いや、お前はまだ受け入れられていない。まあ、まだ若いから仕方がないことだがな」
「どういうことですか?」
「お前は自分の強面をネガティブに捉えているだろう。その強面のせいで周囲から避けられている、と」
「・・・・・・そうですね」
否定はできなかった。
現に昨日は周囲から敬遠されている。
それは紛れもない事実である。
「だが、それはあくまで一面に過ぎない。お前が避けられている一番の原因は強面だからとネガティブに考えていることだ」
「そうなんですか?」
なんとも納得できない理由である。
強面をポジティブに受け入れたら、避けられなくなるのだろうか?
「まったく避けられないわけじゃないが、強面を理由に笑い話をできるようになれば会話もできるようになるだろう。これは俺の体験談だ」
「そういえば、団長は普通に話しかけられますもんね」
彼が騎士団以外の人に話しかけられる姿を見たことがある。
俺はほとんど話しかけることがなく、何が違うのかと考えたこともある。
彼の説明を聞き、少し納得できた。
「ですが、そう簡単に考え方は変えられそうにないです」
「まあ、お前もまだ若いから、仕方がない。だが、いつかそう思える日も来るはずだよ」
「来ますかね?」
「俺でも来たんだから、安心しろ」
不安げな俺を見て、団長は笑い飛ばす。
本当なのだろうか?
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