第7話 強面騎士は会場から立ち去る
衛兵達がやってきたので、男を差し出した。
何をやったのかを説明したので、しっかり裁かれるはずだ。
これで安心である。
「「「・・・・・・」」」
問題は周囲の視線である。
ある意味慣れ親しんだ視線にため息が出てしまう。
「あの」
「ん?」
いきなり声をかけられる。
振り向くと、イザベラ嬢がいた。
足を怪我しているのに無茶をする。
「ありがとうございました」
「はい?」
いきなりの言葉に首を傾げる。
どうして感謝されているのだろうか?
「助けてくださったことです」
「ああ、なるほど。騎士として当然のことをしただけですから、気にしないでください」
当たり前のことをやっただけだ。
感謝されるほどのことではない。
だが、相手はそう思っていないようだった。
「助けていただいたのは事実です。何かお礼をさせてください」
彼女はぐいぐい近づいてくる。
近づいてくるのに合わせ、俺も後ろに下がってしまう。
「っ⁉」
「大丈夫ですか?」
怪我した足が痛んだようで、彼女は顔をしかめてしゃがんでしまう。
無茶をしたのは彼女だが、逃げようとした俺にも一因があった。
心配して声をかける。
「だ、大丈夫です」
「・・・・・・どう見ても、大丈夫そうじゃないですよ」
強がる彼女に思わず反論してしまう。
そこまで高くない室温で額に汗をかいているのは暑さのせいではないだろう。
「失礼します」
「え・・・・・・うっ⁉」
怪我をしているだろう足に軽く触れると彼女は悲鳴を上げた。
こんなに痛みがあるのに立ち上がるなんて本当に無茶をするな。
「じゃあ、恩を返してもらいますね」
「な、何をしましょうか?」
俺の言葉に嬉しそうな表情を浮かべる。
だが、彼女の期待に添うことはできないと思う。
「安静にして、その怪我を治してください」
「へ?」
予想外の言葉に彼女は唖然とした表情になる。
「貴女のような女性が怪我で苦しむ姿は見ていて辛いです。だから、早く回復して俺を安心させてください」
俺は優しく頼み込んだ。
彼女の回復を確認する手段はないが、そこは問題ではない。
再び前に進めるように願うだけである。
「いや、そういうことじゃ・・・・・・」
イザベラ嬢は何か言おうとしている。
だが、俺はそれを無視して立ち上がる。
「彼女の親族か友人はいますか?」
集団に声をかける。
俺にすら優しく声をかける彼女が一人ぼっちであるとは思えない。
集団の中から申し訳なさそうに令嬢達が現れた。
「彼女の世話は任せても良いですか?」
「わ、わかりました」
一人の令嬢が緊張した面持ちで答える。
俺を前にすれば、こういう反応が正しい。
悲しい話ではあるが、もう慣れてしまった。
「この度はお騒がせして申し訳ありませんでした。私は退出しますので、皆様はお楽しみください」
謝罪の言葉を紡ぎ、頭を下げる。
俺が起こした騒動ではないが、関わってしまったのも事実である。
俺の存在が会場の緊張感を作っており、この場に長くいるのも良くない。
「あの、お名前だけでも・・・・・・」
イザベラ嬢はまだ俺に声をかけてくる。
彼女は侯爵令嬢であり、俺のような末端貴族の三男程度が話すことすらおこがましい。
もう会わない方がお互いのためである。
「名乗るほどの者じゃないですよ」
彼女に一言告げ、俺は会場を後にした。
建物から出るとすでに真っ暗になっていた。
そのまま一人寂しく家路についた。
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