第4話 強面騎士は怪我した令嬢を気にかける
「立てますか?」
「ええ、はい・・・・・・っ⁉」
立ち上がろうとした彼女が顔をしかめる。
どうやら突き飛ばされたときに足を怪我したようだ。
「そこの君」
「は、はい」
「椅子を持ってきてくれ」
「か、かしこまりました」
近くの男性に指示を出し、椅子を持ってきてもらった。
「少し失礼しますね」
「え? きゃっ⁉」
断りを入れ、彼女を抱きかかえる。
短く悲鳴を上げられたが、怪我をした彼女自身が動くよりはマシである。
そっと椅子に座らせる。
「・・・・・・」
「何でしょうか?」
なぜか睨まれている。
いや、理由はわかっている。
見ず知らずの男に体を触られたのだから、怒るのが当たり前だろう。
「こういうことはよくされるんですか?」
「早急にすべきと判断したので、返事を待たずに運ばせていただきました。申し訳ありません」
俺は深々と頭を下げる。
彼女のためとはいえ、嫌な思いをさせたのは事実だ。
しっかりと謝罪すべきである。
「足を怪我した私の為にしてくれたんでしょう。なら、とやかく言うつもりはないわ」
「ありがとうございます」
「でも、今後は返事を待ちなさい」
「かしこまりました」
言われたことはもっともなので、素直に受け入れる。
いくら急いでいるとはいえ、しっかりと意思確認は必要である。
「貴様、何をやっている?」
男が偉そうに声をかけてきた。
公爵令息らしいから偉いはずなのだが、あまり怖くはなかった。
正直、騎士団の強面連中に睨まれた方がよっぽど怖い。
「冤罪をかけられた女性を救いに来た、ですかね?」
軽く笑みを浮かべ答えると、周囲から悲鳴が上がった。
いや、悲鳴はおかしいだろう。
いくら俺の顔が怖くとも、笑顔でそんな反応をされると思わなかった。
「冤罪だと? その女の犯した罪は事実だ」
男は反論してくる。
まあ、彼の中では彼女の罪は事実なのだろう。
いや、意中の女性と添い遂げるために、事実である必要があるのだろう。
だが、それが原因で冤罪が生まれるのなら、騎士としては放っておけない。
「そちらの令嬢が突き落とされたのはいつの話ですか?」
「は?」
俺の問いかけに男は呆けた声を漏らす。
そんな質問をされると思っていなかったのだろう。
だが、これは必要な質問である。
「おそらく突き落とされたときに足を怪我したのでしょう。その包帯が痛々しそうですね」
「ああ、そうだ。歩くのにも苦労しているから、俺が支えてやっているんだ」
令嬢の足には包帯が巻かれていた。
怪我していることが一目瞭然で、周囲の同情を買っている。
困っている女性を助けるのは紳士の嗜みかもしれないが、婚約者がいる男がするような行為ではないと思う。
「それで、いつ頃ですか?」
「1週間前だ」
「なるほど。それなのにもう立てるのですね」
「何が言いたい?」
俺の反応に男は怪訝そうな表情になる。
何を言っているのか分かっていない様子だ。
「突き落とされたのは狂言ではないのか、ということですよ」
俺ははっきりと指摘する。
彼女が立っている姿を見て、最初からおかしいと思っていた。
階段から突き落とされたのなら、うまく受け身をとっても1週間程度で完治する怪我にはならないだろう。
「貴様、何を言っている」
「彼女の話を聞かせて貰いましょうか?」
男を無視して、俺は令嬢に話しかけるために近づく。
「ひいっ⁉」
俺が近づくと令嬢は悲鳴を上げて後退する。
怪我をしたはずの足で、だ。
「やはり怪我は嘘だったんですね」
「う、嘘じゃないわ。実際に突き落とされて──」
「彼女が近くに来たタイミングで階段から転がったといったところかな? まるで彼女が突きとしたかのように偽装するために」
「なっ⁉」
図星だったのか、彼女はわかりやすく体を強ばらせる。
鎌をかけただけだが、まさか当たるとは思わなかった。
まあ、たかが令嬢が考えることなので、そこまで大したことではない。
「どうやら他の虐めの話も嘘の可能性が高いな。改めて調べた方が良さそうだ」
「っ⁉」
俺の言葉に令嬢は体を震わせる。
自身の嘘がばれることに恐怖しているのだろう。
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