第29話 強面青年は公爵令息の真の目的を知る
「さて、ルークよ。年貢の納め時だな」
陛下が鋭い目つきで公爵令息を睨み付ける。
そこには一切の容赦が無い。
それは公爵令息も理解していたのだろう。
「そうですか。死刑でも何でもしてくださいよ」
「ほう、あっさりとしているな」
反応が予想外だったのか、陛下は驚いていた。
だが、その驚きは良い意味ではない。
まったく反省の色がないから驚いていたのだ。
現に陛下の手には力がこもっているのがわかった。
「俺の目的は達成しましたから」
「目的だと?」
陛下は首を傾げている。
たしかに誘拐事件は起こったが、結果的には失敗に終わっている。
目的を達したというのは、負け犬の遠吠えに聞こえる。
「俺の目的は復讐だと聞いているでしょう?」
「ああ、そうだな。そのためにイザベラを誘拐し、ウルス副団長の評判を落とそうとしたのだろう」
「それだけだと思いますか?」
「何?」
それ以外にあるのだろうか?
一体、彼は何を考えているのだろうか。
「イザベラは誘拐された時点で実行犯に乱暴されている。それがどういう意味を持つかわかるだろう」
「「「っ⁉」」」
男の言葉に全員が驚いていた。
言っている意味が分かったのだろう。
だが、俺にはわからなかった。
イザベラ嬢は縛られている以外には大した外傷はなかった。
何かされる前に救ったはずだが・・・・・・
「私が誘拐された際に男たちに弄ばれた──という体で話を勧めたいみたいですね。そうすることで、貞操が散らされたと私の評判を下げようという魂胆です」
「・・・・・・なるほど」
ようやく理解が出来た。
貴族は基本的に純潔主義であり、それは高位であるほどその思想は強い。
侯爵令嬢である彼女が犯罪者に乱暴されたと噂されれば、彼女と結婚しようとする者はよほどの物好きでないとまず現れない。
それが例え真実でなくとも、誘拐されたという事実が嘘を真にしてしまう。
馬鹿な割に考えているようだ。
「まあ、別に問題は無いですけどね」
「何?」
イザベラ嬢の反応に男は驚く。
いや、今度は俺を含めて全員が驚いていた。
自分の評判が貶められようとしているのに、まったく気にした様子がない。
「ウルス様がすぐに助けに来てくれたから、私は誘拐犯に何もされていないわ」
「それはお前の言い分だろう? 自分の評判を下げないために、嘘をついている可能性がある」
イザベラ嬢の告げる真実に男は反論する。
証拠がない限り、どちらの言い分が正しいかは判断されない。
その場合、誘拐された事実があるイザベラ嬢の分が悪い。
だが、彼女はまったく焦っていない。
「別に信じてもらわなくて良いわ。ただ一人、絶対に信じてくれる人がいるもの」
「はっ。証拠の示せないお前を信じる奴がどこにいる」
男が馬鹿にしたように反論する。
たしかに証拠がない以上、普通は信じられないだろう。
一体、誰がイザベラ嬢を信じるのだろうか?
「ここにいるわ」
「え?」
彼女は俺を指さした。
いきなりの出来事に驚いてしまう。
たしかにイザベラ嬢のことを信じているが、まさかここで指名されるのは予想外だった。
「彼は私のことを受け入れてくれたの。たとえ、ほとんどの人が私を信じてくれなくても、彼だけは信じてくれるわ」
「そいつが信じたからといって何になる? 所詮は田舎の領地すら継げず、騎士団に入るような奴だろう」
男は俺のことを多少調べていたようだ。
たしかに彼の言うとおりである。
俺が信じたからといって、イザベラ嬢の力になれる気がしない。
「あなたのしたいことは私の令嬢としての価値を貶め、その幸せを奪うことでしょう? 残念ながら、私はもう幸せを掴んでいるわ」
「何を言って・・・・・・」
「私、彼と婚約するの。だから、今さら価値を貶めたって意味は無いわ」
「なっ⁉」
イザベラ嬢の宣言に男は驚く。
まさか自分の作戦がまったく意味がなかったと思っていなかったのだろう。
「っ⁉」
ちなみにもう一人驚いている人物がいた。
イザベラ嬢の父親だった。
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