第2話 強面騎士は団長から命令をされる
「まあ、そう簡単にいくとは思ってねえよ」
「事実でしょうが、それはそれで失礼ですよ」
団長の言葉に思わず反応してしまう。
たしかにその通りではあるが、もう少し部下を信じてくれないだろうか?
まあ、こういう方向性での信頼はないのかもしれないが──
「しっかりと次の策は考えてある」
「策ですか?」
元々考えていたのだろうか、準備が良いな。
だが、それが逆に不安を掻き立てる。
「エリスと結婚するのはどうだ? 俺で強面には慣れているからな」
「流石に10歳下の少女を嫁には貰えないですよ」
自信満々な提案を俺ははっきりお断りする。
エリスちゃんは団長の10歳になる実の娘である。
とても可愛らしい天真爛漫な少女であり、団長の言うとおり俺達みたいな強面を怖がらない。
年齢以外はかなり好条件である。
「娘じゃ不満か?」
「っ⁉」
団長に睨まれ、無意識に剣に手を伸ばす。
本気で殺されると思ってしまった。
「冗談だよ。いくらお前でも娘はやれん」
「それなら良かったです」
流石に本気ではなかったようだ。
まあ、エリスちゃんのことを目に入れても痛くないほど愛している団長が手放すとは到底思えない。
一生自分の元に置いておく可能性があるとも思っている。
「だが、お前が婚約者を見つけられなかったら、そのルートもあると思っておけ」
「・・・・・・わかりました」
団長の真剣な顔に頷くしかなかった。
婚約者捜しに失敗したら、俺は少女好きのレッテルを貼られることになるのだ。
流石にそれは避けたい。
どうにかしてパーティーで相手を見つけないと──
「あ」
「どうした?」
「そのパーティーって、いつですか?」
日程を聞いていないことに気づいた。
近いのであれば、すぐに準備する必要があるが──
「今晩だな」
「今晩っ⁉」
あまりにも早い日程に驚愕してしまう。
普通はもっと期間をあけるだろう。
「そうしないと逃げるだろう?」
「そんなことは──」
「同僚から誘われた女性との飲み会を逃げたことを知っているぞ?」
「なっ⁉」
過去の失態を告げられる。
どうしてそれを知っているのだろうか?
「たしか直前に体調を崩したんだったっけな? まあ、その日に訓練していたのは確認したから、仮病であることはわかっているが」
「・・・・・・俺が参加しても、場が盛り下がるだけなんで」
俺だって最初から逃げようと思ったわけではない。
だが、いざ本番が近づくにつれ、怖くなってしまったのだ。
俺の顔は他の騎士と比較しても強面なのだ。
最悪、女性達が怖がって、逃げ帰ってしまうかもしれなかった。
「騎士だとわかっているなら、相手の女性も強面だとわかっていただろう」
「・・・・・・参加者にシストがいてもですか?」
「あいつ目当て、ってことか。なるほど」
同僚の名前を告げると、団長は納得してくれる。
シストは別の隊の所属ではあるが俺の同期であり、かなりのイケメンである。
俺が剣を振っている間に女性を口説いているのが彼である。
不真面目を体現したような男ではあるが剣の実力は本物であり、俺と同じ副団長なのだ。
「引き立て役は願い下げですし、他の連中の邪魔もしたくなかったんです」
「それは考えすぎだと思うがな」
「助けた女性に悲鳴を上げられた俺なのに?」
「むぅ」
団長は言葉を詰まらせる。
以前、街中で暴漢に襲われていた女性を助けたことがあった。
暴漢達をたたきのめした後、倒れていた女性に手を差し伸べた。
だが、彼女は俺の顔を見た瞬間に悲鳴を上げた。
暴漢に襲われていた時よりも大きな声だった。
流石にショックだった。
あれ以来、助けた女性に声をかけるのは部下に任せている。
「まあ、あれはいきなりお前の強面が近づいてきたからだろう」
「それ、フォローのつもりですか?」
まったくフォローになっていない。
ただただ俺の顔が怖すぎると言っているだけだ。
団長は聞かない振りをする。
「ごほん。とりあえず、パーティーだったらいきなり近づくこともないから大丈夫だろう」
「そもそも俺に近づく人もいないでしょうけどね」
「お前の結婚相手を見つけるために参加するのを忘れるなよ?」
「・・・・・・はい」
念を押され、頷くしかなかった。
流石に一回だけで見つけるのは難しいだろうが、何度も失敗すればロリコンのレッテルを貼られることになる。
できる限りチャンスを逃さないようにしないと。
作中の結婚観はあくまでこの世界のものです。
現代なら未婚の人も多いですしね。
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