第29話 強面騎士は予想外の場所に来る
「ふむ・・・・・・そんなことがあったのか」
目の前の男性が真剣な表情で呟く。
豪華な服を着て、立派な髭のある40代ぐらいの男性である。
その頭には金色に光る王冠が乗っている。
この国の王様である。
俺達が連れてこられたのは王城の中にある謁見の間だった。
「大変だったのう、イザベラよ」
「すぐに助けていただいたので、大事には至りませんでした」
「それなら良かった」
イザベラ嬢の返事に陛下は安心する。
侯爵令嬢ともあれば、陛下との交流もあるのだろうか?
結構、親しい感じがする。
「我が愚息が申し訳ないことをした」
一人の男性がイザベラ嬢に頭を下げる。
年齢は陛下と同じぐらいだろうが、どこか見たことのある顔だった。
「彼は馬鹿男の父親──つまり、現公爵です」
「ああ、なるほど」
疑問に思っている俺に気づいたのか、イザベラ嬢が説明してくれる。
道理で見たことがあるはずだ。
あの男が年を取れば、こんなダンディなおじさんになるのか。
いや、あの男の振る舞いからこんな風になるとは思えないな。
「いえ、気にしていませんよ」
「そんなことはないだろう。婚約破棄だけなら飽き足らず、恨みから誘拐事件を引き起こすなんて」
公爵は後悔した様子だった。
まあ、息子のしでかしたことを考えれば、当然の反応だろう。
本来なら、罵倒されても仕方がない。
だが、イザベラ嬢にはそんなことをする気は微塵もないようだ。
「顔を上げてください、公爵。むしろ私は感謝しているんですよ」
「感謝?」
予想外の言葉に公爵は呆けた声を漏らす。
恨まれているはずなのに、感謝されるとは思わなかったのだろう。
「おたくの馬鹿息子が私と婚約破棄をしてくれたおかげでウルス様に出会えました。そして、誘拐してくれたおかげでウルス様が私を受け入れてくれたんです」
「あの・・・・・・こんな大勢の前で言わないでください」
照れながら話すイザベラ嬢を諫める。
周囲の視線が俺に集中している。
俺よりかなり身分が上の人ばかりなので、ものすごく居心地が悪い。
「・・・・・・」
一人だけ明らかに敵意を向けている人がいるのだが、彼も関係者なのだろうか?
初対面のはずだが、この状況でどうして睨まれているのだろうか?
「さて、そろそろ本題に移ろうか」
「本題?」
陛下の言葉に俺は首を傾げた。
そういえば、ここに呼ばれた理由を聞いていなかった。
てっきり今回の誘拐事件について聞き取りをされるものだと思っていた。
俺もイザベラ嬢も関係者だし、公爵も加害者の父親である。
「連れてこい」
「かしこまりました」
陛下が衛兵に命令をすると扉の近くにいた衛兵が外に出た。
少しすると数人の同僚を連れて、この場に戻ってきた。
「離せっ! 俺を誰だと思っているんだっ!」
拘束された公爵令息がわめいていた。
あれだけ俺が殴ったのにもう回復しているのか。
意外と頑丈なのかもしれない。
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