第25話 優秀な侯爵令嬢はピンチに陥る
イザベラ嬢視点です。
(イザベラ視点)
「ここは?」
目隠しを外されるとそこは見知らぬ部屋だった。
といっても、掃除されていない上に物が乱雑に散らばっている様子は部屋というよりも物置に近い。
一体、どこなのだろうか?
「はははっ、無様な姿だな」
目の前の男が私を嘲笑う。
たしかに誘拐されて、こんなボロ小屋で縛られている姿は情けないだろう。
だが──
「犯罪者に身を落とした元公爵令息に比べれば、まだ無様ではないですよ」
「なんだとっ!」
皮肉を込めて笑い返すと、ルーク様──元婚約者は激怒する。
なんで私はこんな男と婚約していたのだろうか。
まあ、貴族同士の政略結婚なので、仕方がないことだったが。
「まあ、今のお前が何を言っても意味はないがな」
「? どうしてでしょうか?」
意味が分からず、聞き返してしまう。
どうして彼は余裕なのだろうか?
「俺が何のためにこんなことをしたと思う?」
「私への復讐でしょう? あなた程度が考えることなど考えなくてもわかりますよ」
婚約破棄の一件以来、この男は評価が底辺にまで下がっている。
その原因の一端である私を恨んでいて当然だろう。
「残念ながら、間違いだな」
「は?」
馬鹿にされたような反論に思わずイラッとしてしまう。
何が違うのだろうか?
「たしかに俺はお前への復讐で誘拐をした。だが、それだけが目的だと思うか?」
「ということは、ウルス様へも復讐するつもりですね。ですが、この程度でウルス様への復讐になると思いますか?」
私以外に対象となるのはウルス様だけだとすぐにわかった。
だが、私を誘拐しただけでは彼への復讐にはならないだろう。
「お前、あの男と婚約しようとしてるんだろう?」
「ええ、それがどう関係するんですか? もしかして、婚約を破談にさせる気なの?」
「そんなもん、俺がどうこうしなくても結ばれることはないだろ。あんな底辺貴族が相手ならな」
「・・・・・・」
私は言い返せなかった。
先程断られたばかりである。
言っていることは間違っていない。
「俺の復讐はお前らの評価を下げることだ」
「私たちの評価ですか?」
「まず、お前は誘拐された時点でその純潔を疑われることになるだろう。たとえ、何もなくともな」
「まあ、そうなるでしょうね」
「そして、あの男は一緒に出かけていたお前をみすみす誘拐され、その純潔を奪われた愚かな騎士となる。騎士団の副団長というエリートらしいが、もう騎士団にいられなくなるだろうな」
「なるほど・・・・・・わざわざそのためにあそこで誘拐したわけですか」
説明を聞き、ようやく理解できた。
あんな祭りで人が多い中で誘拐をする意図がわからなかった。
木を隠すのなら森の中、と考えもしたが、ウルス様への評価を下げるのならあの場所が一番良かっただけのようだ。
「でも、私たちへの復讐のために自分の身の破滅させるつもりですか?」
「俺が破滅するだと? 馬鹿も休み休み言え」
「どういうことですか?」
「俺は公爵令息だぞ? 世間一般ではこんな犯罪を起こすことなど考えられないだろう」
「・・・・・・」
馬鹿だと思っていたが、ここまで馬鹿だとは思っていなかった。
今回の誘拐はゆきずりの犯罪か計画的な犯罪か考えられ、すぐに計画的な犯罪だと判断されるだろう。
そして、計画的な時点で何らかの恨みがあるのではと考えられ、すぐにこの男に白羽の矢が立つはずだ。
どうしてそれが思いつかない。
「どうして俺がこの男達と繋がりがあると思われる?」
「・・・・・・あの令嬢を通して繋がったわけですね」
たしかにこの男に誘拐をするような悪人と繋がる伝手があるとは思えない。
おそらく婚約破棄のときにいた令嬢に繋がりがあったのだろう。
だが、その令嬢がこんな悪人と繋がりがあると考える者は少ないだろう。
結果として、この男と実行犯が繋がったと考えられなくなるわけだ。
意外と考えているようだ。
「なあ、坊ちゃん」
「なんだ?」
誘拐犯の一人が話しに入ってくる。
男は少し嫌そうな表情を浮かべている。
あくまで道具として使っており、下に見ているのだろう。
相変わらずの偉そうな態度である。
「こんな綺麗な上玉を目の前にして我慢できねえよ。約束通り、俺達で好きにして良いんだよな?」
「・・・・・・そうだな。だが、最後は証拠が残らないように処分しろよ」
「わかってますよ」
「っ⁉」
二人の会話に私は身の危険を感じる。
だが、そんな反応も男達にはスパイスだったのか、嬉しそうな表情で手を伸ばしてくる。
「助けて、ウルス様」
私は目を閉じ、ヒーローの名前を呼んだ。
もちろん、彼が来るはずがない。
(バアアアアアアアアアアアンッ)
「「「っ⁉」」」
何かが爆発したような音が鳴り響いた。
壁が破壊され、部屋の中に砂埃が舞い上がった。
視界が晴れ、そこには一人の男性の姿があった。
「お前ら、誘拐の現行犯で逮捕する」
熊のような大男──ウルス様がニヤリと笑った。
その強面は本来恐怖を感じるものだが、私にとっては期待できるものだった。
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