第20話 強面騎士は令嬢からの話を断る
中心から少し離れている開けた場所で俺達は休憩していた。
やはり祭りは人通りが多く、少し動き回るだけで体力が削られる。
俺はまだ大丈夫だが、イザベラ嬢の体力も考えないといけない。
「本当に祭りの常連なんですね」
「意外ですか?」
「たしかに意外ですね。でも、悪いことではないと思いますよ」
「なら、良かったです」
俺の反応にイザベラ嬢は安堵する。
もしかすると、令嬢らしくないと言われたことがあるのかもしれない。
貴族の中には対面を大事にする者もいるので、彼女の行動を良しと思わない者もいるだろう。
だが、そういう者の目を気にして、自分のしたいことができないのはおかしい。
「意外と言えば、ウルス様は庶民に人気なんですね」
「人気、と言えるのでしょうか?」
おそらく行く先々で声をかけられたことでそう思ったのだろう。
たしかに俺のことを知っている人は多い。
だが、それが人気ということはないだろう。
「みなさん、感謝していましたよ。ウルス様が見回りをするようになってから、目に見えて問題が減ったようです」
「それは騎士としてありがたい話です」
俺のおかげで治安が改善できたのなら嬉しいことである。
強面が役に立つ数少ない状況だ。
「やっぱりウルス様は思った通りの人でした」
「はい?」
イザベラ嬢の突然の言葉に呆けた声を漏らしてしまう。
一体、何が言いたいのだろう。
「やっぱり私と婚約してくれませんか?」
「・・・・・・俺には恐れ多いことです」
彼女の提案を拒否してしまう。
別に彼女のことが嫌いだからではない。
むしろ好ましいと思っている。
だからこそ、彼女の迷惑になるようなことはしたくないのだ。
「ウルス様は自分のせいで私に悪評が立つことを気にしてくれているんですよね?」
「それは・・・・・・」
真正面から聞かれ、答えに詰まってしまう。
正直には答えづらい。
「わかっているから大丈夫です。まだ出会って間もないですが、ウルス様の優しさは理解できているつもりです」
「ありがとうございます。なら、まずは自分のことを考えて──」
「考えた上で、ウルス様と婚約したいです」
「・・・・・・」
イザベラ嬢の考えは硬いようだ。
だが、実際はそう簡単な話ではない。
「この婚約の話はご家族にお話しているのですか?」
「はい?」
俺の質問にイザベラ嬢は驚いたような表情を浮かべる。
少し予想していたが、彼女は暴走していたのかもしれない。
「貴女のような素晴らしい令嬢が婚約破棄されたとなれば、新たな婚約者に名乗り出ようとする令息もいるはずです。当然、俺なんかよりよっぽど好条件のね」
「そんなの関係ありません。私はウルス様と婚約したいんです」
「そう思っていただけるのはありがたい話ですが、ご家族──侯爵様はそう思っていないのでは?」
貴族同士の婚約は家同士の繋がりという側面もある。
貴族の当主となれば、そういうことを考えないといけない。
俺なんかよりも他の令息の方がマシだと普通は考えるだろう。
「では、お父様が認めてくれたら、私と婚約してくれますか?」
「そうなったら、俺も観念して受け入れますよ」
侯爵が認めたのであれば、俺に逃げ道はない。
だが、認められることはないだろう。
今の俺に侯爵令嬢と婚約できるような魅力はまったくない。
普通の親なら、確実に拒否するはずだ。
「さて、どうしようかしら?」
「?」
しかし、なぜかイザベラ嬢は余計にやる気を出していた。
どうしてなのだろうか?
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