第19話 強面騎士は自分の評価を聞かれたくない
「おう、嬢ちゃん。今年も来たか」
「当たり前でしょ。祭りは私の楽しみですから」
屋台の親父さんと親しげに話をするイザベラ嬢。
彼はイザベラ嬢が貴族令嬢であることは知っているのだろうか?
「おや、今年はお付きの二人と一緒じゃないんだな」
親父さんは俺の存在に気づいた。
お付きと言っているので、どうやらイザベラ嬢についてある程度は知っているようだ。
「ようやく春が来たか」
「えへへ、そうなんです」
親父さんの言葉にイザベラ嬢が嬉しそうな反応をする。
否定したかったが、そういう雰囲気ではなかった。
「しかし、まさか嬢ちゃんが【熊騎士】を彼氏にするとはな」
「【熊騎士】?」
聞き覚えがなかったのだろう、イザベラ嬢は聞き返した。
いつかは知られることだと思っていたが、まさかこのタイミングとは思わなかった。
「彼は第二騎士団の副団長様だろ?」
「知っているんですか?」
「もちろんだ。彼は有名人だからな」
「そうなんですか?」
興味津々な表情を浮かべるイザベラ嬢。
正直、あまり知られたくない。
知られたら絶対に引かれてしまう。
「熊のような強面で相手を威圧し、圧倒的な検挙率を誇る第二騎士団の副団長様なんて有名にならない方がおかしいだろう」
「たしかにそうですね。ですが、私の周りではあまり聞かなかったです」
「そりゃ、嬢ちゃんみたいなお貴族様の間じゃ有名にはならんだろ。副団長様はどちらかというと市井で活躍してるからな」
「そうだったんですね」
意外にもイザベラ嬢は引いていなかった。
いや、まだ引くほどの情報が出ていないだけか。
「副団長様が見回りをしてくれているおかげで、この辺りの治安はかなり良くなったんだよ」
「見回りだけでですか?」
イザベラ嬢は少し驚いた様子だった。
たしかに見回りをすることで犯罪を減らすことはできるかもしれないが、そこまで言うほどとは思えなかったのだろう。
そんな彼女の反応に親父さんはニヤリと笑う。
「そこが【熊騎士】様の凄いところさ。ある日、集団で万引きしていた若造を一瞬で制圧したんだ」
「大活躍ですね。でも、そんな犯罪が起きるほど治安が悪いのでは?」
「治安が良くなったのはその後だ。反抗しようとした若造共を一睨みしただけで震え上がらせ、改心させちまったんだ。それ以降、そいつらは犯罪することはなくなった」
「それほど怖かったんですね」
そのときのことは覚えている。
俺としては人の迷惑になることをするなと説教をしようとしただけだった。
だが、まさか睨んだだけで若者達が土下座するほど怖がるとは思わなかった。
「もうしません」と口にして、まさか言葉通り改心してしまった。
「その結果、この辺りじゃ犯罪をすると【熊騎士】に食い殺されるなんて噂になって、犯罪がめっきり減ったわけだ」
「風評被害が酷いですけどね」
治安が良くなったのは騎士として嬉しいことだが、まるで俺が人を食う化け物のような扱いになっている。
だからこそ、イザベラ嬢に知られたくなかった。
「しかし、まさか嬢ちゃんと【熊騎士】様がくっつくとは思わなかったな。だが、幸せそうなら良かった。よし、これは俺からの祝いの品だ」
親父さんは屋台に並んでいた肉が刺さった串を持ち、イザベラ嬢に手渡した。
祝いの品としてもおかしいし、貴族令嬢に渡すものでもない気がする。
「ありがとう、おじさん」
だが、イザベラ嬢はあっさりと受け取った。
その慣れた手つきから彼女がよく食べていることがわかった。
串に刺さった肉、美味しそうですよね。
異世界の料理は思い浮かばなかったので、それっぽい肉にしました。
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