第五章 きらいな男にヤラれるのはレイプって言うのよお兄ちゃん
夏の暑さは海野ゴーキを暗躍させていた。
ゴーキはスミレが生物の補習をうけているのを知っていた。補習はそれぞれの先生の裁量でおこなわれた。生物の教師はスミレの補習を一年の教室でやっていた。一年生で赤点を取った六人を集めてだ。生物教室は別館の一階にはいっていた。解剖などの実験をするつごうで一般の教室より広い。そのぶん冷房が効きにくかった。そのため本館一階の一年生の教室をつかっていた。三時間目の終わりだった。ゴーキはスミレの同級生の男子を指でまねいた。男子生徒はうたがいを持たずゴーキに寄ってきた。
「なんですか先輩?」
「おまえのクラスに大日向スミレっているだろ? あいつに伝えてくれ。きょうの補習は生物教室に変更になったってな」
男子生徒がうなずいた。男子生徒が背中を向けた。そのうしろでゴーキはニヤリと笑った。
昼休みが終わった。スミレは別館に足を運んだ。
「どうしてわたしは生物が苦手なんだろ? せっかくお兄ちゃんと遊べるチャンスなのにさ。お兄ちゃんいまごろ誰の家にいるのかしら? 妹のわたしにも誰のところに行ってるか悟らせないんだからたいしたものよね」
ひとりごとをつぶやきながらスミレは生物教室の戸をあけた。
グイッとスミレの手を誰かがつかんだ。スミレはそのまま教室内に引きずりこまれた。バシンッと戸が閉じられた。カチャリと戸のカギがおろされた。
「ぐふふ。前からおまえを狙ってたんだスミレ。やっと機会がきたぜ。ひっひっひっ。スミレ。たっぷり可愛がってやるぞ」
ゴーキがスミレにおどりかかった。スミレはことのしだいが理解できないでいた。
ゴーキの目は血走っていた。手がスミレの制服の胸元にかかった。セーラー服の胸が裂けた。赤いスカーフがはずれて白いブラジャーが現われた。ゴーキの指がブラジャーごとスミレの胸をもみつぶした。
「痛いっ! 痛い痛いっ! やめてっ! 放してっ!」
ゴーキの手が紺のプリーツスカートをまくりあげた。白の下着が露出した。ゴーキの太い指が下着の両端のゴムにかかった。引きちぎるように下着がずりさげられた。少女の翳りが見えた。淡い下萌えは下着に押さえつけられてこじんまりとまとまっていた。ゴーキがスミレの下着をスミレの足から抜いた。
ゴーキが自身のズボンのホックをはずした。ゴーキは最初からベルトを抜いていた。準備して待ちかまえていたわけだ。スミレが罠に落ちるのをいまかいまかと。ブリーフも脱ぎすてたゴーキがスミレの両足首に手をかけた。力まかせにスミレの下肢を裂いた。
猛る男性器の下にスミレの無防備な股間の全貌が見えた。黒い翳りの下に女性自身が丸見えになった。ゴーキがよだれを口の端からあふれさせながらスミレの局部を観察した。柔らかで桃色の肉割れが男をさそっていた。陰部の下には淡いセピア色をした肉の集束部も見えた。
「ぐへへ! たまらねえ! おれはスミレのすべてを見たぞ! 尻の穴までモロ見えだぁ!」
ゴーキはスミレの下腹部にのしかかった。乾いた男の肉がスミレの急所を蹂躙しにかかった。
スミレは必死で顔をふった。全身でも抵抗した。
「いやあっ! いやよぉ! いやなのぉ!」
しかし肥満したゴーキの体重で押さえつけられたスミレはのがれられなかった。ゴーキに組みしかれて両手をゴーキの力強い手で拘束された。股もゴーキの野太い下腹にこじあけられてとじられなかった。
ゴーキはスミレの顔中を舐めながらスミレのはじめての部位におのれをこすりつけた。スミレは歯をかみしめてゴーキの舌が口にはいらないよう努力した。スミレにできる精一杯のあらがいだった。
「けはは! スミレ! おれの女になれ!」
ズンッとゴーキが腰を送りこんだ。プチッと裂けるえもいわれぬ感触をゴーキはおぼえた。ぬるぬるとした女の肉がゴーキを包んでゴーキは勝利のおたけびをあげた。
「きけけ! やった! ついにおれはやったぞ! あのスミレをおれのものにしてやった! これがスミレの女かよ! たまんねえぜ!」
スミレは窒息しそうに苦しい。抵抗するどころか呼吸困難だ。涙が勝手にあふれた。胸が痛くて心臓が破裂しそうなほど鼓動が速い。太ももと太もものあいだも痛くてたまらない。全身が硬直して自分の身体ではなかった。それでも精一杯のあらがいをこころみた。だが台風に翻弄される木の葉のように非力な女の自分は無力だとさとらされた。ゴーキにつかまれている手の指が開閉をしただけだ。ゴーキに爪を立てることすらできなかった。
ゴーキは突き出た腹をゆらしながらスミレの未開の小径を掘り進んだ。肉層を痛々しく引き裂いて血にまみれる男でスミレの女肉をたのしんだ。
ゴーキの顔はまっ赤で加虐のよろこびに酔いしれた悪鬼を思わせる醜怪さだった。スミレの柔肉を蹂躙するごとに淫情がゴーキの芯を喜悦でふるわせた。極上の征服欲にあおられたゴーキがスミレの顔によだれを垂らしながらスミレの閉じた通路を踏みにじった。
スミレは激しく顔を左右にふって落ちるよだれからのがれようとした。だがゴーキのぶ厚いくちびるがスミレの顔をとらえて離さなかった。股を大きく広げられて下半身は陵辱を受けつづけている。顔にもゴーキがよだれを垂らす。スミレは生まれてはじめての恥辱にととのった美貌がぐちゃぐちゃだ。涙かゴーキのよだれかわからないほど頬が濡れた。
スミレにできたのは必死で歯を食いしばってゴーキの舌の侵入を阻止することだけだった。
ゴーキがスミレの口に舌をいれるのをあきらめた。かわりにゴーキの口がスミレの胸に向かった。ブラジャーを歯でずらせてスミレのまっ白な肉丘と桜色をした突起を舐めしゃぶった。スミレは嫌悪に顔をゆがませた。
その間にもゴーキの尻はとまらなかった。スミレの底に達するとスミレの女の根源が息をひそめていた。スミレの小さな宝箱だ。
「おうっ! これがスミレの蜜壷かよっ! きっもちいーいっ! おれの先っちょがスミレの大事なところを突きあげてるぜっ! 妊娠させてやろうなっスミレっ! おれさまの子を産めっ!」
ゴーキがスミレをしつこくこすり立てて横柄な腰の動きでスミレを屈辱のどん底に突き落とした。
スミレは悲哀の叫びを絞り出した。
「やめてぇ! そんなのいやーっ! 中に出さないでっ! あたしの中はいやーっ!」
ゴーキが勝利の快感に下半身をしびれさせた。肉のくさびで女体を串刺しにしている。最後に決定的なとどめの白いけがれを浸食させれば女は隷従するはずだと。
「くはは! うるせえよっ! かけてやるっ! おまえの奥にぶっかけてやるぞっ! くらえっスミレっ! おまえはおれさまのものだっ! 毎日股を開かせてやるぜっ! きれいなおまえの桃色肉を日々ながめてやろうなっ!」
ゴーキがスミレの下腹の上で尻を波打たせた。ドクッドクッとゴーキの腰がけいれんする。ゴーキのよだれがさらにスミレに降った。ゴーキがヒクッヒクッとスミレの内部で余韻をたのしむ。処女を踏みにじった愉悦に笑みが口の端をゆがませてやまない。
スミレは泣きつづけた。目を一度もあけなかった。淫らな笑みをうかべたゴーキの顔など見たくない。身体はかたく硬直したままだ。ゴーキが果てて離れたあともスミレの身体はのしかかられたかっこうのままだった。スミレの部分からゴーキのそれが流れ出してもスミレは身じろぎもしない。指一本動かせそうになかった。身体全体が岩石と化したようだった。
ゴーキがスマホを取り出してスミレを撮影した。胸も下半身も丸出しだ。ゴーキはおのれのものがあふれるスミレのその部分を特に念入りにレンズにおさめた。
「ひひひ。よかったぜスミレ。おまえ処女だったんだな。血が太ももに垂れてるぜ。おまえの初めての男はおれさまだ。一生忘れるんじゃねえぞ。おまえはこれからおれが毎日かわいがってやるぜ。ぐへへ。おれさまが脱げと命令したらパンツをぬぐんだぞ。おれさまにさからうとこの写真を学校中に貼りだしてやるからな」
ゴーキは美少女を征服したことで満足した。あしたからスミレを思うままもてあそべる。そうたかをくくった。ゴーキは誰かが来ないうちにと生物教室をあとにした。いま誰かに見られて事件になればあしたからの楽しみはおじゃんだ。
そそくさとゴーキは逃げだした。
スミレはゴーキが消えてわずかに身体が動くようになった。身体中が痛い。身体以上に心が痛かった。やぶられたその部分はジンジンと疼痛がつづいた。激痛というほどではなかった。がまんができる痛みだった。しかしそのにぶい痛みがスミレに現実を突きつけつづけた。ズキンと痛むたびに哀しみが胸を凍らせた。
スミレはすすり泣きながらゴーキが投げ捨てた下着をひろいあげた。のろのろと足をとおした。涙で手元がぼやけた。嗚咽がおさまらない。セーラー服の胸元はやぶれていた。ブラジャーは首までずりあがっていた。スミレは床にお尻をつけたまま時間をかけて服装をととのえた。
五時限目終了のチャイムがとつぜん鳴りだした。スミレはビクッとした。胸を押さえてスミレは立ちあがった。ゴーキがまた来ないうちにここから逃げるべきだ。そう思った。
生物教室の戸をすこしあけて外をうかがった。外には誰もいなかった。別館はしずまりかえっていた。補習の者たちはすべて本館にいるのだろう。
スミレは前後左右をビクビクとうかがいながら別館をでた。家までの道をどう帰ったのか憶えていない。やぶられた制服の胸を押さえながらうつむいて歩いた。そう思う。
家に帰るとリョースケが声をかけてきた。リョースケは台所で夕食のしたくをしていた。
「おかえりスミレ。きょうは早かったな? 六時限目の補習はさぼったのか?」
スミレはリョースケと目を合わせてドキンとした。すぐにスミレはうつむいた。リョースケにあわせる顔がなかった。スミレは風呂場に駆けこんだ。カバンを持ったままだった。服をぬぎ捨てて湯船に立った。湯船は空だった。スミレはシャワーを頭からあびながら湯のたまるのを待った。すこし落ち着くと身体を洗おうと思いついた。湯船をでてせっけんを身体中にこすりつけた。女の部分を何度も何度も洗った。にぶい痛みがヒリヒリとしたしびれに変わるまで洗った。洗い終わると放心したまま湯船に湯がたまるのを待った。ようやくたまるとスミレは湯船に頭までもぐらせた。このまま溺れて死ねたらどんなにいいだろう。そう思った。でも溺れて死ねなかった。すぐ息が苦しくなって頭を水からあげた。死ぬのは苦しいらしい。死にたいのに死ねない。そんなことを考えているとまた泣けてきた。思いだしたくない出来事を思いだした。いやだいやだと首を横にふった。ゴーキの血走った目がスミレの眼球に焼きついて取れない。
泣きながら湯船にいると吐き気がきた。スミレは洗面器に昼の弁当を吐いた。胃の中のものをすべて出してもえづきは止まらなかった。貧血を起こしそうに胸が苦しかった。このまま風呂で倒れるとお兄ちゃんに裸を見られちゃう。スミレはむりをして風呂をでた。バスタオル一枚を巻いた姿でトイレに洗面器の中身をすてた。青い顔のままさっき脱ぎ捨てた服のすべてをゴミ箱に叩きこんだ。
「お兄ちゃん。お風呂はしばらく使わないでね。わたし気分が悪くてもどしちゃった。臭いと思う」
「おいスミレ。なにがあった?」
スミレはリョースケの目を見なかった。だが問いかけるリョースケの声の真剣さにリョースケが怖い顔をしているのが見えた気がした。
「なんでもないの。なにもなかったわ。おねがい訊かないで。そっとしといて」
スミレは自分の部屋に閉じこもった。下着もつけないでバスタオルのままベッドに身を投げた。学生カバンは風呂場に置いたままだ。部屋の外にリョースケの気配をスミレは痛いほど感じた。リョースケが心配げに部屋の中の様子をうかがっているのが手に取るようにわかった。スミレは奥歯をかみしめた。手をにぎったり開いたりした。どうにかしてこの胸の苦しみを消そうとした。でも努力をしても努力しても押しつぶされる圧迫感が消えなかった。まるで万力で胸を締めつづけられているみたいだった。寝返りを打っても深呼吸をしても胸が苦しい。吐くものなど胃にないはずなのに吐き気がとまらない。涙が気づかないうちに頬を流れる。この苦しみをとめる方法はないのだろうか?
そのとき戸にノックの音がした。
「スミレ。大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわ! ほっといてよ!」
叫んでスミレは気づいた。胸の重さがズンと増したことにだ。
あれっと思った。わたしひょっとしてレイプされたのを悲しんでないの?
スミレは戸に目をやった。また胸がずっしり重くなった。重くて重くてたまらない。胸だけ切り離して捨ててしまいたいほどだ。
スミレは戸まで歩いた。バスタオル一枚の姿で戸をそっとあけた。リョースケが廊下にすわりこんでいた。長期戦のかまえだった。スミレの部屋の前から離れないぞという意志をスミレは感じ取った。スミレの胸の重さがのどにつかえるほどに膨張した。
「どうしたんだスミレ? なにがあった? おれに話してくれよ」
スミレは笑った。
「うふふ。わたしレイプされちゃった。処女じゃなくなっちゃったよお兄ちゃん」
リョースケはハッと目を見開いた。そうではないかと推測はしていた。ゴミ箱につっこまれたスミレのセーラー服は引き裂かれていた。下着には血と男の体液らしきものがこびりついていた。なにより物を大切にするスミレが服や下着をゴミ箱に叩きこむのがありえない。
「誰だ? 誰にやられたんだスミレ?」
スミレはリョースケの顔色をさぐった。
「言わない。それを教えたらお兄ちゃんそいつを殺すでしょ? わたしお兄ちゃんを殺人者にしたくない。だからないしょ」
「バカ野郎! そんなやつをほっとけるか! 誰だ! 誰にやられた!」
スミレはまっすぐな目でリョースケを見た。
「お兄ちゃんよ。わたしを犯したのはお兄ちゃん」
リョースケが眉を寄せた。
「おれ? そんなバカな? 嘘だろ? おれはここで夕食の用意をしてたんだぞ?」
「でもそうなんだもん。わたしを犯して処女を奪ったのはお兄ちゃんなの。わたしの初体験はお兄ちゃんよ」
スミレはバスタオルをはずした。リョースケに裸身をさらした。リョースケは目をそらせた。スミレはリョースケに詰め寄った。
「見てよお兄ちゃん。いまさら女の裸なんか見慣れてるでしょ? ちゃんと見て」
「だめだ。服を着ろスミレ」
「いやよ。だってわたしの服はゴミ箱にあるもの。わたしお兄ちゃんと初体験をするの。いまから」
スミレがリョースケの首に腕をまわして抱きついた。リョースケはスミレの口から顔をそむけた。
「やめろスミレ! おれとおまえは兄妹だぞ!」
スミレはリョースケの顔を両手ではさんだ。リョースケの顔を自分に向けさせた。
「それは嘘よ。わたしとお兄ちゃんは兄妹じゃないわ。血はつながってないの」
「バカなことを言うな! おまえはおれの親父が浮気してできた子だ! ちゃんと血がつながってる!」
「でも嘘なのよそれ。お父さんがわたしのためについた嘘。わたしがお父さんの実の子だと信じこませるためについたの。わたしが肩身のせまい思いをしないようにね。お父さんは自分が悪者になってでも大切な人を守ろうとする人だったもの」
スミレはリョースケの胸にそっと顔を埋めた。さっきまでの胸の重さがきれいに消えていた。いまスミレの胸ははずんでいた。心臓は破裂しそうに高鳴っている。
リョースケの声がリョースケの胸からじかにスミレの耳をふるわせた。
「いや。おまえはおれの本当の妹だ。まちがいねえ」
スミレは甘え声で答えた。
「ううん。ちがう。お兄ちゃんは頭が悪いから気づかなかったかもしれないけどね。血液型がO型の父からAB型の子は生まれないのよ。この春テレビで解説してたわ。お父さんはO型だった。わたしはAB型よ。念のためにDNA鑑定もしたわ。わたしとお兄ちゃんのね。わたしたちに血のつながりはなかった。わたしたちは赤の他人なのよ。結婚してもなんの問題もないわ。ねえお兄ちゃん。お兄ちゃんはわたしと血がつながってないって知ってた。そうでしょう?」
しばらく黙ったあとリョースケがしぶしぶ口を開いた。
「ああ。そうだ。最初はおれもおまえが親父の子だと思ってた。おふくろが生きてた時に浮気しやがってとな。すねてたおれをカケエの親父が諭してくれたんだ。『リョースケのお父さんはリョースケを裏切る男かい?』ってよ。おまえも知ってるように親父は早朝から漁にでて夜は八時に寝ちまう。晩酌はビール一本だ。外に飲みに行く男じゃねえ。おふくろが生きてるあいだはずっとおふくろと船に乗ってた。考えてみりゃ浮気する時間なんかどこにもねえ。土日もおふくろと船の整備をやってたもんな。おれは何度か親父と文代さんを問いつめたこともあるんだ。本当におまえは親父の子かってな」
スミレはリョースケの胸から顔を離した。リョースケを見あげた。
「お父さんはなんて言ってた」
「まちがいなく親父が浮気してできた子だとよ。死ぬ時まで親父はそう言い張ってたぜ。親父もおれ同様あたまがいいほうじゃねえ。血液型なんて気づかなかったんだろうさ。文代さんはきっと気づいてたんだろうな。おれが問いつめるたびにうっすらと笑ってたよ。いまから思うと『そんなみえみえの嘘をついて』って顔だったな」
「ふうん。そうだったんだ。わたしだけがずっとだまされてたのね。むかつくなあ。もっと早くに知ってたら処女はお兄ちゃんにあげたのに」
スミレはリョースケの口に口を寄せた。リョースケがまた顔をそらせた。
スミレはリョースケをにらみつけた。
「こらお兄ちゃん! わたしが自殺してもいいの! わたし犯されたのよ! あんな初体験はやなの! お兄ちゃんとネットリ熱い初体験がしたいの! どうしてこんな純真で可愛い妹のくちづけから逃げるわけ! わたしを救えるのはお兄ちゃんだけなのよ!」
リョースケが眉をしかめてスミレを見た。
「いやスミレ。おまえとやるわけには」
「じゃわたしが死んでもいいのね? わたしすごく胸が苦しいの。レイプされて絶望してるのよ。このまま放置されたら死んじゃう。お兄ちゃんとエッチができなきゃ確実に死ぬ。妹の初体験を強姦ですます兄がどこの世界にいるの? ちゃんと和姦にしてよ。合意のエッチにしてちょうだい。一生忘れられない幸せな思い出に変えてよ」
リョースケが頭をかいた。
「妹の初体験をおれがしてどうすんだよ? それにだ。おれはそんなにうまくねえぞ? 期待はずれに終わるだけだ。やめとけ」
スミレはリョースケに人さし指を突きつけた。
「いいえ。だめ。わたしの初体験はお兄ちゃんとなの。もう決定。誰がなんと言ってもだめ。きょうからお兄ちゃんの恋人はわたし。その他の女はみんな手を切って」
「おいおい。むちゃを言うな」
「しょうがないなあ。このエロ兄。女を処分するのは待ったげる。とにかくわたしを女にしてよ。本当にわたし押しつぶされそうなの」
スミレはリョースケのくちびるを奪った。リョースケは顔をそらそうとした。しかしスミレは泣いていた。レイプされたのは事実だろう。軽口でごまかしているがつらいのもまちがいなさそうだ。リョースケはスミレのキスに応えた。スミレは泣きながらリョースケの舌をむさぼった。ふうと荒い息を吐いてスミレがリョースケの顔から離れた。
「お兄ちゃんの嘘つき! キスだけであんなにうまいじゃない! わたしをお兄ちゃんの女の誰よりも可愛がってよ! でないとわたしは一生お兄ちゃんを許さない! 手を抜いたらかみつくわよ!」
リョースケが肩をすくめた。スミレはニコッとリョースケにキスを求めた。さっきまでの胸の重さはどこにもなかった。期待にスミレは甘い吐息をはずませた。これから最高の初体験が待っていると。
スミレはリョースケの服を脱がせた。幼いころいっしょに風呂にはいったがその面影はどこにもなかった。日々女と交わっているとこんなふうになるのかと感心した。
「でもお兄ちゃん。なんでここ大きくなってないの?」
「おまえ相手になるかよ」
「だめ! むりにでもして! でないとわたし自殺する! お兄ちゃんとできなきゃ死んでやる!」
リョースケが苦笑した。全裸のスミレをお姫さまだっこしてベッドにはこんだ。スミレにキスをして首から鎖骨へと舌を這わせた。スミレの胸を舌先でくすぐるとスミレが背すじをのけぞらせた。へそを舐めて口をさらに下へ移動させた。スミレがリョースケの髪の毛をにぎりしめて吐息をせつなく途切れさせた。
リョースケが手でおのれをふるい立たせるのをスミレは見た。スミレは下からリョースケに両手をさしのべた。
「来て。お兄ちゃん。わたしの初体験をお兄ちゃんのでして」
リョースケがそっとスミレに身体を重ねた。スミレの舌を吸いながらリョースケがスミレの根源をさぐった。男と女が交錯する予感にスミレは拍動を高ぶらせた。子宮がうずくのをスミレは幸福感とともにかみしめた。女として最大のよろこびがすぐそこに迫っていた。
リョースケがスミレの肉をかき分けたときスミレは死んでもいいと思った。人生のすべてを引き替えにしてもこの一瞬がとうとかった。リョースケの舌に舌をからめながらスミレは涙を流した。頬をつたう涙がいとおしくてたまらない。
「愛してるの! お兄ちゃんだけが大好き! わたしにお兄ちゃんのすべてをちょうだい!」
リョースケは苦しかった。愛する妹を強姦している気持ちだ。必死でおのれをふるい立たせるがこんなにつらい交わりははじめてだった。涙がにじんだ。スミレをレイプしたクソ野郎を殺してやると誓った。
スミレは歓喜の大波にのまれてリョースケを抱きすくめた。リョースケの脈打ちを肉体の芯に感じて黒髪をふりみだした。女に生まれてよかったとつくづく思った。熱い激情が一度は凍った胸を沸き立たせた。初体験でこんなに気持ちよくなっていいのかしらとうれし泣きに泣いた。淫乱娘と思われたらどうしよう? そう思いつつスミレは笑みくずれた。
☆
スミレは文代の病室の戸を叩いた。どうぞと文代が声をかけた。入室したスミレはいきなりたずねた。
「ねえお母さん。本当のことを教えてよ」
文代はスミレの顔をじっとながめた。真剣な目をしていた。その時がきたかと文代は観念した。
「どんな本当のこと?」
「わたしとお兄ちゃんよ。わたしたち血はつながってないんでしょう? 他人よね?」
やっぱりと文代は思った。いつかそう問われるとの覚悟はあった。
「他人じゃないわ。兄妹よ。スミレの言うとおり血はつながってないけどね」
「じゃわたしの本当のお父さんは?」
文代は一瞬だけためらった。でももう隠してもしようがない。
「ごめんなさいね。賭け事の好きな最低な男だったわ。わたしは若かったからそんな男をかっこいいと思ったの。あなたが二歳のとき酔っぱらい運転で自損事故よ。あっけなく死んだわ。いま思うとあんなバカのどこがよかったのかしら?」
「わたしそのバカの子ども?」
「ええ。本当にごめんなさいね。そのバカとこのバカの子ども。あなたの成績が悪いのはそのせいなの。敦史さんの子ならもっとましだったのにね」
「ふうん。じゃあさ。その敦史さんとはどうやって知り合ったの? お兄ちゃんが言うには知り合う機会がなかったって?」
「きっかけはささいなことよ。わたしはこの島のスナックに流れてきたの。あなたは幼稚園児になってたわ。わたしは男なんかもうこりごりだったの。でもスナックしか働ける場所がなかった。わたしには保証人もなかったからスナックの二階を借りてたわ。わたし夜な夜な男たちに愛想をふりまいた。当時は円城寺病院の典江さんが飲食店に文句をつける前だったの。だからこの島の飲食店はホステスだらけだったわ。客の男たちの中に網元がいてね。わたしに目をつけたのよ。わたしはていねいにことわったわ。だけどしつこくつけまわすのよね。出勤前にあなたと公園で遊んでるときだった。まだ日が高いのにねちっこく言い寄るの。わたし泣きそうになった。幼稚園児の前でエッチな提案をされるのはたまらなかったわ。そこにとおりかかったのが敦史さんだったわけ」
「助けてくれたの?」
「ええ。あなたと遊ぶふりをして網元を追い払ってくれたわ。敦史さんは奥さんを亡くしたばかりだったの。でもそのときはそんな関係になるなんて思ってもみなかった。わたしはスナックの女店員で敦史さんは夜遊びをしない人だった。わたしと敦史さんには接点がなかったの。敦史さんから見たわたしはあなたと遊ぶ通りすがりの母親にすぎなかったわ」
「じゃどうしてそんな関係に?」
「夜スナックに網元がきたのよ。どうしてもおれのものになれって迫ったわ。ならないとこの島を追い出すってね。あなたが事故に遭うってほのめかされもしたわ。網元は考える時間をやるっていったん会合にでかけたの。スナックのママは網元ともめるのがいやで網元のものにならないなら出て行けって」
「スナックを追い出された?」
「ええ。その夜のうちにね。わたしにはおカネも家もなかった。行くあてもない。あなたをかかえて夜の闇にほうりだされたの。フェリーはあしたの朝までなかった。あなたは泣きじゃくってどうしても泣きやまない。民宿に泊まったら網元にすぐ見つけられるに決まってた。わたしはあんな卑劣な男につかまって犯されるのはいやだった。でも狭い島で逃げも隠れもできない。泣くあなたにつられてわたしも泣いたわ。もう死ぬしかない。そう覚悟したの」
「でも死ななかったのよね? そのあとどうなったの?」
「ふと思い出したのよ。昼間わたしを助けてくれた男の人をね。この島でたったひとりだけわたしの力になってくれそうな人の気がしたわ。あたしはせっぱ詰まってその人の家を探したの。幸運なことにわたしのお客さんの中に敦史さんを知ってる人がいたわ。人相を口にするとすぐ家を教えてくれた。泣くあなたの手を引いてわたしは敦史さんの家の戸を叩いたの。出てきた敦史さんにわたしは切りだしたわ。ひと晩だけ泊めてくれってね」
「お父さんはなんて言ったの?」
「それがね。『結婚しよう』だって」
「ええっ? そんなのあり? それあとどうしたの? まさか抱き合ったとか?」
「バカね。もちろん笑っちゃったわよ。わたし毎夜そのセリフを誰かしらから聞かされてたもの。毎晩毎晩そんな男たちをさらりとかわすのがわたしの仕事だったのよ」
「じゃ笑い飛ばしただけ?」
「ううん。ごめんなさい。笑ったあとつい『うん』ってうなずいちゃった。『ええ。わたしをもらってください』って」
「だめじゃんそれ!」
「そうなのよ。肉体関係どころかキスすらしてない人だったのにね。昼間に公園であなたを遊んでくれただけの人よ。だから出会いとかってものじゃなかった。ほんの行きずりの人だったの。網元にからまれなければそんな関係になるはずのない人だったわ。事情も説明しないうちにプロポーズされちゃってね。わたし気づいたときには敦史さんに抱きついてポロポロ泣いてた」
「じゃその夜のうちにお父さんのものに?」
「ううん。その三日後。婚姻届けを役所にだしたあとが初夜よ。それまで敦史さんはわたしにふれなかったわ。ただ家にかくまってくれただけなの。リョースケはあなたを本当の妹みたいに面倒みてくれた。どうしても泣きやまなかったあなたがリョースケにからかわれて笑ったわ。あのときからあなたはリョースケが大好きになったのよ。わたしはこここそ自分の家だって感じたわ。リョースケは可愛い男の子でね。いたずら者だったんだけどさ。こんな息子が欲しいなって切実に思ったわ。わたしあとになって敦史さんに訊いたの。どうして結婚しようなんてってね」
「お父さんはどう答えたの?」
「酔ってたからだってさ。わたし嘘だと思ってなおも問いつめたわ。でも『酔ってたせいだ』としか言わなかった。わたしは『きみにひと目惚れした』って言ってほしかったのに」
「本当のところはどうなの? お父さんがお母さんにひと目惚れだったの?」
「わたしはそう信じてるわ。わたしも敦史さんにひと目惚れだったかもね。あらあら。こんなことまで話すつもりじゃなかったのにね。スミレ。あなたリョースケと関係を持ったでしょ?」
「いいっ? なによいきなりそれ?」
「だって女の目をしてる。スミレも女になったのね。だからわたしにリョースケと血がつながってるかを確認にきた。すでに実の兄妹じゃないと気づいてたんでしょう? 事後承諾よね。でもねスミレ。お兄ちゃんにわがままを言っちゃだめよ。なったことは仕方がないけどね」
「それどういう意味?」
「あなたとリョースケは兄妹だって意味よ。恋人にも夫婦にもなれないわ」
「嘘! わたしとお兄ちゃんは愛し合ってるの! ラブラブよ! 誰がなんと言っても離れない! 結婚だってできるんだから!」
「たしかに結婚はできるわ。でもそれであなたたちが幸せになれるとは思わない。まあいまのあなたになにを言ってもむだかもね。わたしだってバカな男の子どもを産んだもの。いつかわかる日がくるわ。そのとき泣かないように心づもりだけはしておきなさいね。それがあなたに贈る最後の母の言葉だと思うわ」
文代はスミレの頭をなでた。文代の入院は一週間になろうとしていた。これまでにそんな長い入院はなかった。