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 第十章 結婚式のあとは新婚生活なの エッチ三昧かしら?

 教会の控え室であたしはスミレちゃんに化粧を直してもらっていた。きょうはあたしとリョースケの結婚式だ。リョースケが生きていることを知っている者だけを結婚式に招いた。カケエ・スミレ・桜子の三人だ。

 あたしは声をひそめた。

「ねえスミレ。スミレとカケエがつき合ってるのよね? カケエと桜子がつき合ってるんじゃないんでしょう? どうなってるのあなたたち?」

「そうね。わたしとカケエがくっついたのを知って桜子がちょっかいをかけにきたわ」

「桜子はカケエの婚約者だものね。じゃスミレとカケエはうまくいってないの?」

「ううん。ちょっとちがうの。うまくいってると言うかこんがらがってると言うか」

「なにそれ?」

「桜子よ。桜子がわたしとカケエのあいだにわりこむの」

「邪魔するわけ?」

「いえ。それがそのう。そうじゃなくてね。その。参加しようとするの」

「参加? なにに?」

「いやん。そこは詳しく聞かないでよ。ああいう行為に参加するわけ。わたしはカケエが死ぬほど好きってわけじゃないから止めなかったんだけどさ。そしたらカケエも抵抗ないみたいでわたしと桜子を交互に抱くの」

「そ? それで? 三人でエッチしちゃうわけでしょ? スミレは平気なの?」

「うーん。それがさあ。なんだか自然なのよねえ。お兄ちゃんとエッチしてるところに桜子がわりこんだらすっごくいやよ。でもカケエと桜子はそもそもいいなずけでしょ? わたしの肩身がせまいのよねえ。わたしのほうがお邪魔かなって」

「でもスミレとカケエがつき合ってるわけよね?」

「かなあ? わたしまだお兄ちゃんが好きよ。カケエもイチズが好きだしさ。わたしもカケエも保留中って感じ?」

「なにを保留してるわけ?」

「決まってるわ。イチズとお兄ちゃんが別れるのをよ。だからわたしたちエッチはするけど愛し合ってるって感じじゃないの。それに桜子も変なのよ。わたしといっしょがいいみたい。いつもカケエがわたしと桜子を交互に愛するんだけどさ。わたしは男ふたりと寝てる気がするの。こないだ気をきかせて桜子とカケエをふたりっきりにしてあげたのよね。でもあのふたりってエッチしないの。ふたりともいっしょにいても別々のことをしてるわ。あれどういうんでしょうね? わたしがいないとあのふたりってキスもなしよ?」

「カケエって淡泊だから?」

「ううん。そんなことない。カケエもエロエロよ。おとなしい顔してても男なのね。わたしたちふたりを全裸で並べて見比べるのが好きみたい。よくやらされるわ。イチズにはちゃんと見せてもらわなかったってさ。まあお兄ちゃんと比べると力不足って感じはするわね。イチズもそう思うでしょ?」

「ごめん。あたしそういうのよくわかんない」

「嘘つけ。お肌つやつやのくせしてさ。女として絶好調って肌してるわよ」

「やーん。それほどでもぉ。じゃさ。典江さんはなんて? そんなふしだらなって?」

「ううん。典江さんはカケエと桜子がつき合い始めたってよろこんでるわ。でもね。桜子がつき合い始めたのはわたしじゃないかって気がする」

「そうなの?」

「ええ。桜子はわたしもカケエも見てない気がする。わたしたちをとおしてお兄ちゃんを見てるみたい。特にわたしにお兄ちゃんを映してる気がするわ。もっともわたしとカケエも見てる人は別にいるけどね。そういう意味じゃわたしたち三人はそっくりよ。カケエはイチズを見てるしわたしと桜子はお兄ちゃんを見てる。だからねイチズ。お兄ちゃんがいやになったらわたしにちょうだいね。いつでももらったげるわ。カケエのほうがよくなった時もそう言ってね。のしつけてゆずるからさ。桜子もお兄ちゃんを待ってるけどわたしが先約だからね。いらなくなったら先にわたしにちょうだいよ」

「だめえ! いらなくなんてならなーい!」

「言うと思った。ちぇ。残念」

「スミレぇ。あんたねえ。いいかげんにしなさいよね。いくら温厚なあたしでもそろそろ怒るわよぉ。もう絶対にリョースケの手をはなさないわ。あんたにも桜子にもあげない。あたしだけのよ。そもそも今日はあたしとリョースケの結婚式よ。おめでとうくらい言いなさいよね。あんたと桜子とカケエしか呼んでない式だけどね」

「うふふ。まだ誓いはすませてないもの。別れさせるならいまだ。ラストチャンスね」

 ラストチャンスはすぎたと思う。フェリーの上であたしとリョースケを会わせないのがラストチャンスだったろう。それにしてもだ。参列者三人がそれぞれセックスフレンドだぞ? なのにこれほどどんよりしている結婚式ってないんじゃない? お祝いの言葉はなくて恨み言ばかりだ。あたしは招待する人選を誤ったらしい。ふたりっきりでひっそりとあげるべきだった。

 式が終わって教会をでた。ブーケを投げようとしてハッと気づいた。

「あのさ。カケエと誰が結婚するわけ?」

 桜子が手をあげた。あたしはてっきり桜子がカケエと結婚するつもりだと思った。

「スミレはカケエに惚れてるの。わたしはカケエに惚れてない。だからスミレがカケエと結婚するわ」

 スミレちゃんが悲鳴をあげた。

「ええーっ! 勝手に決めないでよ桜子!」

 あたしも桜子につっこんだ。

「桜子はカケエに惚れてないわけ? じゃどうしてカケエとエッチするのよ?」

 桜子が答えた。

「スミレの男だからよ。わたしの惚れてるのはリョースケひとり。でもリョースケはわたしのものにならない。スミレはリョースケの妹。リョースケはスミレと寝た。わたしはスミレをとおしてリョースケと寝てるの。それにね」

「それに?」

「スミレは財産がない。わたしはある。わたしは円城寺病院なんかいらない。スミレがカケエと結婚しないとスミレは無一文の看護師よ。それはかわいそう。だからスミレがカケエと結婚すべき。そうすればスミレは院長夫人。めでたしめでたし」

「あんたはどうするの?」

「わたしはおじいさまの跡を継いで政治家になるわ。日本初の女性総理大臣を目ざすの」

「となるとスミレはあたしの義妹だから」

 あたしはカケエを見た。カケエがいやーな顔をあたしに向けた。

「じゃスミレちゃんと結婚するとぼくはイチズの義弟? かつてやっちゃった女の子がお義姉さんになるわけ?」

 スミレちゃんがカケエにつづいて渋い顔になった。

「うわっ。なんていやな関係でしょう。わたしとカケエが結婚したらよ。わたしたち義兄と義姉にそれぞれ肉体関係を持ってそれぞれふられた夫婦になるの? なんてみっともない構図よ? ねえカケエわたしたちみじめすぎないそれ?」

 あたしは無言でスミレちゃんにブーケを手渡した。三人しか出席者がいないのに投げるだけむだだ。

「幸せになってねスミレ。あたしの可愛い義妹いもうと

 スミレちゃんはむかっときたらしい。ひたいに青すじが浮いた。

「そう思うならお兄ちゃんをわたしにゆずりなさいよ! お兄ちゃんはわたしが幸せにしてみせるわ!」

 リョースケが苦笑いを浮かべた。あたしは肩をすくめた。

 あたしとリョースケは新婚旅行にでた。見送りはあたしのふたりの恋がたきとひとりの崇拝者だ。そしてあたしのとなりには愛する愛するわが夫だった。

 旅行後リョースケは九州の漁港で後継者のいない漁船を一艘ゆずり受ける手筈をつけた。過疎化をとめるため村で住宅も用意してくれるそうだ。あとは船舶免許を取得すれば漁師の一年生の誕生だった。

     ☆

 スミレはカケエの上で桜子と向きあっていた。

「どうしてわたしイチズに負けたの? わたしのほうが可愛いわよね? どう思う桜子?」

「答えは簡単よ。釣りダービーで一度も優勝できなかったのが敗因ね」

「それ女としての価値じゃないわ」

「リョースケにとって釣りは父の記憶なのよ。釣りでリョースケに勝てるのはお父さんだけだったから」

「なんで桜子がそんなこと知ってるのよ?」

「わたしがいろいろと訊くからでしょ。あんたたちエッチに夢中で訊かないもの」

「じゃなに? 釣りの腕で父に匹敵して母になってくれる女をお兄ちゃんは求めてたの?」

「たぶんね。わたしたちは女であって母じゃなかった。リョースケが胸からさわるってのも無意識で母を求めてたんじゃないかしら? イチズは最初女じゃなかった。リョースケはイチズに母を見たんでしょう」

「あっ。だからスカートめくりなんて幼いことを?」

「ええ。イチズといるときリョースケは小学生みたいなことばかりしてたわよ」

「桜子。あんたそこまでわかっててどうして手を打たなかったのよ? あんたなら釣りでお兄ちゃんに勝てたでしょう? 母の顔を作ることだったできたはずだわ」

「気がついたのがこないだだからよ。遅すぎたわ。イチズが現われなきゃ誰も気づかなかったでしょうね」

「お兄ちゃんがマザコンだって?」

「そう。イチズはね。リョースケに初恋の人に告白しに行けってけしかけたそうよ。リョースケは告白してみごと玉砕したってさ。それを聞いてわたし思ったわ。イチズには勝てないってね。ねえスミレ。ロクがどうしてロクか知ってる?」

「知らない。お兄ちゃんがつけたのよ。ロクって」

「六番目の家族だからロクなのよ。リョースケと両親。文代さんとスミレ。そして六番目に家にきた犬だから『ロク』なの。リョースケの欲しかったのは女じゃないわ。家族よ。わたしもあんたもリョースケに家族を与えられなかった。そこが敗因ね」

 そのとき女ふたりの下にいたカケエが抗議の声をあげた。

「おまえら。ぼくの上で世間話をするなよ。そもそもぼくとしながらリョースケの話ばかりじゃないか。ぼくはいったいおまえたちのなんだ?」

 スミレがカケエをなだめた。

「まあまあ。そう怒らないでよ。脳の血管が切れて腹下死しちゃうわよ? わたしカケエとはお友だちでいたいの。これからもいいお友だちでいましょうねカケエ」

「ねえスミレちゃん。きみはお友だちとこういうことするの?」

「カケエとはこういうことをするお友だちってことでひとつ」

 カケエは次に顔に乗る桜子に矛先を向けた。

「桜子もぼくとお友だち?」

「ううん。ちがうわ。わたしはスミレのお友だちよ。カケエとは赤の他人」

「赤の他人にそういうところを愛させるのかきみは?」

「カケエがスミレのお友だちだから仕方がないの。お父さんもおじいちゃんも気に入ってるしね。なによりまだ婚約者だわ。こういうことをしてもおかしくないと思うけど?」

「ぼくはなんだかとってもすっきりしない!」

「やーねえ。すねてるわ。カケエそろそろ大人になったら? 大好きなイチズの処女をもらったんでしょ? わたしたちを気にせずにイチズを思ってなさいよ」

「そ? そんなのでいいの桜子?」

「いいのよそれで。本当に愛してる男の上で全裸で世間話なんてできないもの。ねえスミレ?」

 スミレがうなずいた。

「そうそう。カケエもわたしたちに本気じゃないわ。わたしたちもカケエに本気じゃない。おたがいさまよね? だから気にしないで」

「わーん。ぼくは愛されてないんだぁ」

 スミレが桜子から顔を離してカケエにキスをした。

「ちゃんと愛してるわよ。お友だちとしてだけどね。でもさカケエ。あなたはわたしをどう思ってたの? お兄ちゃんの本当の妹だと思ってたわけ?」

「血はつながってないと思ってた。父さんがそう言ってたからね。リョースケは妹ができたってよろこんでたんだ。でもぼくは心配だったよ」

「なにが心配?」

「だってリョースケはあの頃すでにエロエロだったんだ。妹にもエロいことをしないかって」

「なーんだ。そんな心配かあ。それは当たらなかったわね。わたしはエロいことをして欲しかったのにさ」

「結局はそうなったんでしょ?」

「わたしが無理やりたのみこんでよ。しぶるお兄ちゃんを押し倒しただけね。泣きそうな顔してたわ。悪いことしたなって思った。でもお兄ちゃんを誰にも渡したくなかった。わたしにとっては幸せな記憶ね。お兄ちゃんには消し去りたい記憶でしょうけど」

「ぼくとは?」

「ごめん。カケエが強烈に好きってわけじゃないの。だからカケエとしても自分で慰めてるのと変わりないわ。そこそこ楽しんでるって感じなの。でもカケエはきらいじゃないわよ。お兄ちゃんほど熱烈に愛せないってだけで」

「もういいよ。わかった。どうせぼくは印象に残らない男だ」

「まあまあそう言わずにさ。印象に残らなくても子どもは残せるって」

 桜子が真下を向いた。

「わたしはリョースケの子も欲しいわ。イチズにたのみこんで精子だけもらおうかな」

 スミレは桜子の腹を指さした。

「ええーっ? そんなのずるーい。わたしにも分けてよ桜子」

 カケエがふくれた。

「なんだよそれ。それなら最初からリョースケの子を産めばいいじゃないか」

 スミレはよしよしとカケエをなだめた。

「すねないの。ちゃんとカケエの子も産んだげるからさ。第一子はカケエの子ね」

 カケエがあぜんとした。

「じゃ第二子はリョースケの?」

「ええ。第三子はまたカケエの子でいいわよ」

「第四子は?」

「あら? そんなに産ませる気? そうねえ。第四子はイチズに産んでもらったら?」

「そんなあ。イチズがぼくの子を産んでくれるはずないだろ?」

「わからないわよ。あんがい産んでくれるかもね。カケエと恋人や夫婦にはなれなくてもカケエの子どもなら欲しいかもよ?」

「どういうことだよそれ?」

「だってカケエって安定型だもの。お兄ちゃんは破滅型でしょ? 子どもも破滅型だったら母親としては困っちゃうわ。だからわたし第一子はカケエの子でいいの」

「そういう理由かい? ぼくが好きだからじゃないんだ」

「ほよ? カケエってわたしに好きになってもらいたいの?」

「そうだよ。ぼくはスミレちゃんに好きになってもらいたい。ぼくだって愛して欲しい」

「わかったわ。愛したげる。お兄ちゃんの次にね」

 カケエが泣き顔に変わった。桜子とスミレが交互にカケエにキスをした。世話のやける坊やねえという顔で。

     ☆

 桜子がスミレと円城寺家の親子三人を温泉にさそった。女湯と染めぬかれたのれんをくぐって脱衣場で裸になった。桜子とスミレでカケエの母の典江を大浴場へと押す。湯煙の中で岩風呂につかっているふたつの頭が見えた。カケエとその父の守秀院長だ。気づいた典江が足をとめてスミレをにらみつけた。 

「わたくしをだましたのねスミレさん! ここは混浴じゃないですか! ふしだらな!」

 スミレは顔をしかめた。入口の注意書きを読まなかった典江さんが悪いんじゃないと。入口にはこう書いてあった。脱衣場は男女に分かれてますが湯船は混浴ですと。

 桜子が全裸で前をタオルで隠す典江の背中を押した。

「まあまあ。おばさま。きょうはわたしから話がございますの」

 しぶしぶ典江がタオルで身体を隠しながら湯につかった。男ふたりは典江たち女から顔をそむけている。

「それで話とはなんなのです桜子さん?」

「スミレのことですわ。スミレとカケエは愛し合ってます。スミレをカケエの奥さんにしてほしいのですわ」

「でもね。わたくしはスミレより桜子さんがいいわ。スミレはどうもねえ」

「おばさま。わたしはカケエの婚約者です。だけどカケエの彼女ではありませんのよ」

「あら? では桜子さんは誰の彼女なの?」

「わたしはスミレの彼女ですわおばさま。カケエと関係を持つのはカケエがスミレのいい人だからですのよ」

「ええーっ? そ? そんなことになってますの? ふ! ふしだらな!」

「ふしだらか淫らかは置いといてくださいませね。とにかくカケエとスミレを別れさせるのであればわたしはスミレとまいりますわ。カケエの結婚相手は一から捜してくださいねおばさま」

 ううむと典江が思案をめぐらせた。カケエとスミレを結婚させるのは気が進まない。だが桜子にその気がないなら無理じいはできない。

「花兄。あなたはどうなんです? スミレと結婚したいの? それとも桜子さんと?」

 とつぜんふられたカケエが目を白黒させた。

「ぼ。ぼくはそのスミレと」

「でもあなたは桜子さんとも関係してるんでしょう? 桜子さんも花兄と関係を持ってる。それはどういうことなんです?」

 桜子が割ってはいった。

「わたしはカケエを愛してません。カケエもわたしを愛してません。でもカケエはわたしの裸を見るのが好きですわ。男は愛してない女の裸でも見るのは好きみたいですわよ。男にとって愛するのと裸を見るが好きなのは別ですわ」

「そ! そんなふしだらな!」

「おばさま。そもそもおばさまは不正直すぎますわ」

「不正直? わたくしがですか?」

「はい。おばさまはドスケベなのですよ。でもそれをはっきりとあらわせない。だから淫らなものを攻撃するのですわ。屈折してるだけなのです。あなたはふしだらになりたいのですわ」

「ウ! ウソよ! そんなことはありません!」

「いいえ。カケエはあなたにそっくりです。親友のリョースケがエッチなことをするのがうらやましい。でもカケエは勇気がなくてリョースケみたいなことはできない。その結果が屈折して淫らなことが大好きになってる。カケエのほうがリョースケよりドスケベですわ。おばさまも自分の欲望に正直になったほうがよろしいでしょう。ほら。おじさまをごらんになって。おばさまのそういう部分が見たいって目をしてらっしゃいますわよ?」

「あなた! そんなふしだらな目でわたくしを見てはなりません!」

 守秀院長が首をすくめた。

「まあまあ。おばさま。人間はふしだらな生き物ですわよ」

 桜子が典江の右足をかかえあげた。スミレが左足だ。典江は股を裂かれるかっこうになった。

「きゃーっ! なにをするんですかあなたたち!」

 典江が恥ずかしさに顔を両手でおおった。その部分は隠せずに出しっぱなしだ。桜子とスミレでその部分をさらに解剖した。守秀院長とカケエがおおっと身を乗り出した。スミレがバカと無音で口を動かした。気づいたカケエが苦笑した。

「スミレ。ぼくが出てきたところを見せつけるなよ」

「あら。見たくなけりゃ目をつぶってりゃいいじゃない。どうして目をあけてるのかなあ。しっかり見たあとでそんな優等生的な発言をされてもねえ。カケエのエッチ」

 桜子が守秀院長を典江の前に招いた。

「さあおじさま。おばさまはあなたにおまかせいたしますわ。おばさまをたのしませてあげてくださいませ。本日は貸し切りにしてあります。他人は来ません。えんりょなくがんばってくださいませ」

 尻ごみする守秀院長の背中をカケエが押した。桜子とスミレに脚をつかまれているとはいえ典江は抵抗していない。その気があるのだろう。守秀院長と典江がふたりだけの世界にはいった。桜子とスミレが典江を離れてカケエに寄った。

 スミレがあきれ顔をカケエに向けた。

「あのさ。カケエがスケベだって知ってるけどね。実の母のそれでこんなんになるのはちょっとねえ。あまりにも見さかいがなくない?」

「だってぼ。ぼくは」

「ま。いいけどね。カケエもヤッちゃう?」

 スミレがカケエのひざに乗った。桜子がカケエの横に立った。カケエが桜子に指を這わせた。

「ところでさ桜子。なんでこんなことをたくらんだんだい?」

「スミレが典江さんにいじめられないようによ。わたしとカケエとの結婚を期待されてもこまるしね。典江さんの欲求不満をなんとかしとかないとスミレがかわいそうでしょう? スミレはわたしの義妹みたいなものだからね」

「じゃぼくはきみの義弟なのか?」

「そうよ。リョースケがわたしのものにならないからカケエはリョースケの代わりね」

「そんな背徳の関係でいいのか?」

「わからないわ。でもわたしはいまの関係も気にいってる。カケエの屈折したスケベっぷりも好きよ」

「ほめられてるのかバカにされてるのかわかんないんだけど?」

「そこは個性ってものね。カケエはリョースケになれないしリョースケはカケエになれない。カケエはむっつりスケベでいいんじゃないの?」

「ぼくはむっつりじゃない!」

「はいはい。まあのぼせないうちに終わりにしなさいね」

 話が終わったと見たスミレがカケエにキスをした。父と息子がそれぞれ吐き出して気まずい顔で大浴場をあとにした。典江は守秀院長に抱かれた肩をふりほどかなかった。桜子のもくろみは成功と言えた。


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