プロローグとして語るには重すぎる
また、この夢だ。
厳密に言えば夢じゃない。
これは俺が実際に体験した現実だ。
「ず、ずっとあなたのことが好きでした。つ、付き合ってください」
放課後。学校の校舎裏。なかなか生徒の目が届かない場所。
そんな誰でも聞いたことのある定型的なセリフをその少年は目の前の女の子に向かって告げていた。
勇気を振り絞って、何とか口にできた言葉は思いのほか静かな空気が流れる中に大きく響いた。
何の飾り気のない純粋なその言葉は、余計にその少年の素直さを意味していた。
目の前の女の子はというと、
そんな純粋な言葉を聞いて、恥ずかしそうに頬を赤らめた後、一拍を置いて答える。
「はい。こちらこそよろしくお願いします……!」
ああ、幸せとはこういうことを言うのかと。
幼き少年であった俺は実感した。
そんな過去の俺に心底腹が立った。悔しくて、苦しくて。吐き気さえあった。
なんて単純なんだと。
幼き日の俺を呪う。
この先の展開なんて想像にたやすい。
いや、想像したくもないし、夢だと思いたい。
でもこの結果が俺の人生を狂わした。
可能ならば、この瞬間の過去に戻りたい。
そして俺は幼き少年をぶん殴って、言うんだ。
「ふざけんな!」 と。
叶わないよ、分かっている。
できるわけないさ、理解している。
たった一つの後悔。それが今の俺の心をむしばんでいる。
確実に、ゆっくりと。
もう俺の心が正常になることはもうないんだろうな。
まあ、そっちのほうが都合がいいか。
知らないより知っているほうがもう同じ過ちを繰り返さずに済む。
いいさ、このまま俺はずっと女性恐怖症のままさ。
だから、もう恋愛とか友情とかもうこりごりなんだ。
目に見えないつながりなんて信じているほうが馬鹿らしい。
目で見えないのに、見てわからないのに。
勝手に期待して、勝手に裏切られて、勝手に傷ついていく。
あほじゃないか? そんな期待できない、信じるに値しないものに縛られているくらいなら、いっそのこと捨ててしまおう。
俺はいつも一人だ。
寂しいとか苦しいとか言ってられない。
言ってしまったら負けのような気がして、俺は望んで一人になる。
だから早く大人になりたい。全部自分で責任を負える、今の俺が求める存在。
だから、誰も近寄るな。俺を気に掛けるな。
俺はもう形のない絆ごっこには疲れたんだ。
このまま俺を忘れてくれ。
卑屈になる。自虐が冗談じゃなくなる。
心が痛い。でも気にしない。
俺が望んだことだ。自分で決めたことだ。
だからこれでいい。
俺の意志は固かった。
絶対に揺るがない自信があった。
だからこそ、俺は親父からの電話の後に携帯をへし折りそうになった。
俺の理想が現実から遠ざかった。