3話 会敵
「…さて、話聞いてもらえるかな?」
敵の姿は全く見当たらない。多分狙撃が主な攻撃なのだろう。おおよその位置はわかるが相手も移動している可能性は高い。ならばとりあえずこの場から移動をしよう────と移動を始めた次の瞬間。
ちゅどーん!!
足元に光の矢が来た。見られてるんですかそうですか。
「ならこうだ!!」
と、今度は反対方向に切り返し走る…とまた光の矢が来るのでここで正面に急な切り返し!
…が。
ちゅどーん!!
ギュイーンって感じに追尾された。これが計算内だったら怖すぎる。
「流石に追尾機能ついてるんだよな…?」
これが能力かぁ、と感心しつつもひたすら避ける。次第に3本同時とか撃ってきてる。こわい。
細かい動きにも必死で修正してくるので直前で避けるしかないのが本当に辛い。
なーんて思ってると相手も嫌だったようで。
「ちょこまかと動いているでないわ!!!」
キレられました。必死で生きていただけなのに。
「俺だって軽い気持ちで殺されてる暇ないんだよ!ヌカヅキが…友達が待ってるんだからな!!」
「ふん…ならばよく聞け!私の能力は『アクセス』!目標に正確に死をお届けする能力さ!わかっている通り追尾機能があるから逃げられんぞ!ゴキブリのようにちょこまかと逃げおって…通常ならば動いている輩でもあれだけ撃てば2、3発は仕留められるものを…しかし確実に葬ってくれるわぁー!!はははははは!!!」
「めっちゃ喋るじゃん」
よく見たらナイスボディの女の人だった。人間は追い詰められるとこんな風になるのか?
「しょうがない…相手してやるぜ!!」
ともらった本をポーチごと置く…と、本が出てきて勝手にページを捲り出した。いや魔導書かて。
開かれたページには
○「気狂い」の特徴
・自分の能力をはじめ口が軽くなり、多くを語る。
・目に十字の紋様が出現する。
・能力の威力が増大する。
と記載があった。
「…ということは?」
とふと女の人を見る。歩浜揚羽の視力はかなり高いのだ。
…薄めの黄色の眼に、赤十字より細めの、くっきりとした黒の十字があった。
また本がペラペラと勝手に捲られる。
ルール
4:プレイヤー内に「気狂い」を投入する。「気狂い」はプレイヤーを暴走状態にさせたものである。「気狂い」中、通常の記憶は一時的に消去される。
>>>2より、「死亡」した際「気狂い」は解除される。また、「気狂い」に殺された場合次回復活時に「気狂い」となる。
つまりこれでキルされたら次は自分が「気狂い」である。
追尾などという逃げられなさそうな能力を持っている以上、戦うほかないのだ。
「ほらほら!休憩は終わりだよ!!」
ちゅどーん、と攻撃が再開される。逃げられないが故にビルに向かって突っ走る。
「建物内から…?いいえ、壁をよじ登ってかしら?」
「正解だよ!!」
壁を駆け上がってみた。この「気狂い」さんによると他の人より速いらしいし自分でも元の世界より速く動けている感覚はあるので試してみたが上手くいくとは…
攻撃は避けづらいけどね。
「ならばこうよ![同時送信]!」
と言いながら放たれた矢はビルの両側から襲いかかってきた。猛ダッシュを企むと…壁からもう一本、光の矢が。
ドーン!!と言いながらビルに穴まで開ける大爆発が起こった。
「すり抜けられないなんて言ってないわん。ただ見せてなかっただ・け・よ♡」
煙が立ち上り、パラパラと瓦礫が崩れていく音が聞こえる。
「向こうでもドンパチやってるし…あ、あれはお仲間かぁ…でも横取りならいいかも」
ゴトン
鈍い音が聞こえた。ビルの崩れていく側から、中くらいの鉄筋コンクリートの塊が投げ込まれていた。
「痛いぞこの野郎…」
「い、生きてたのゴキブリ…しぶとさは一級品ね」
外から先ほど叫んでいた声が聞こえる。
「何度でも撃ち抜いてあげるわ!!」
構え、撃つ。
しかしその時には、揚羽は「気狂い」の懐に入り込んでいた。
「粉骨砕身…[アゲハ掌]っ!」
辺りに鈍い音が響き…「気狂い」は光の粒となり空に昇って行った。




