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第十話:おやすみ

あれからどれくらいの時間が経っただろうか。おそらく1、2日程度だろう。病室の窓辺には、薄曇りの空から微かに陽光が差し込んでいた。春の終わりを告げるその光は、どこかぼんやりとしていて、まるで時間までもがゆっくりと流れているようだった。


ベッドの上、俺は呼吸を整えるたびに、肺の奥で針を刺すような痛みを感じていた。それでも、あの日の外出を悔いてはいない。むしろ、七海とあの時間を過ごせたことが、何よりの宝物になっていた。ただ、もう俺はこれ以上生きられないだろう。それが分かっているから俺は七海に声をかける。


「……七海」


横に座っていた七海が顔を上げる。少し腫れた目が赤く光っていた。七海も分かっていたのだろう。俺の体調が優れないことなんて。


「……怜人君」


彼女の声は震えていた。それを聞いただけで、胸が締めつけられる。言葉を発するたびに体は辛かったけど、どうしても伝えたかった。いや、伝えなければならなかった。


「俺、さ……あの日、転校してきたときから……七海と出会って、どれだけ救われたか……言葉じゃ足りないよ」


七海は目を見開いて、小さく首を振る。


「やめて……そんなふうに言わないでよ……」


「本当なんだ。俺、最初はただ、残りの日々を静かに過ごすつもりだった。誰にも期待せずに、誰にも関わらずに……そうやって終わるはずだった。でも、七海が手を伸ばしてくれて、俺の中にあった真っ暗な夜に、小さな灯が灯ったんだよ」


七海の手が、そっと俺の手を握る。その温もりが、たまらなく愛しくて、そして、どこか切なかった。


「後悔なんて、何一つないよ。七海と出会えて、好きになれて、ちゃんと気持ちを伝えられて……俺は、幸せだった」


七海は唇を噛みしめ、涙をこぼしながら首を振る。


「ダメだよ……そんなこと言わないで……私、まだ……怜人君ともっと一緒にいたいのに……!」


声を荒げたその瞬間、彼女は肩を震わせて泣き出した。嗚咽が病室に響いて、俺の心を強く揺さぶる。


「……七海、泣かないで。俺、こんなに愛されてるんだなって……思えるだけで、もう十分なんだよ」


「……足りないよ……全然足りないよ……怜人君と、もっともっと話したい……手を繋いでいたい……ずっと、一緒にいたいのに……!」


俺は、彼女の手を少しだけ強く握った。残された力を振り絞って、笑みを浮かべる。


「きっと、また会える。だから……最後に一つだけ......お願いしていいか?」


「......うん、分かった......何でも言って......?」


「......最後にさ......笑顔を......見せてくれないか?お互い笑顔でさ......別れたいんだ」


七海は最初驚いたようだったがやがて...


「うん!おやすみ......怜人君」


と泣きながらも俺の為に不器用ながらも笑顔を向けてくれた七海に対し、


「ありがとう......七海......大好きだよ」


と俺は返すのだった。七海が顔を伏せたその瞬間、俺の意識はふっと遠くなった。痛みも、重さも、何も感じなくなっていく。ただ、七海の涙のぬくもりだけが、最後に残った記憶として、胸の奥に刻まれた。

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