Q
何でそんなかなしそうな顔をするんだい?今さら。君は僕、全ての人を嫌いだと言ったじゃないか?あの憎しみに満ちた顔。傷は引き受けてきたのだけど今回は少しばかり無理があったね。水底に落ちていく体が重いー。
帝都、昼過ぎ。
三階建てのレンガ作りの建物。そこの一階にある「喫茶レトロ」
店には一人の客。日当たりの良いテーブルに座って新聞を読む若い男。茶色い癖っ毛にトレンチコートを着ている。
「チリン、チリン」入り口のドアが開く。「いらっしゃい」
「ちーす、美津さん」来たのは奇妙な格好の若者。若者というのは性別が分からないからだ。歳は10代後半だろう。右側半分の白髪をサイドテールにし、白いブラウス・ベストにリボン、スカートはフリルスカート。アーガイルチェック柄のタイツ。左側半分はミニハット、深い黒の髪色に同じ色の瞳。短髪である。上半分は同じなのだが下はグレーのパンツ。
「やあ、太宰」
茶髪の若者に話しかける。
「やあ、Q【キュウ】」
「所長は元気かい?」
「ああ」
「君はいつ見ても変わらないね」
「Qはいつ見ても不思議だね~ハハハ」
「僕は僕さ。それ以上でもそれ以下でもない」
そこに中年の男性客が入ってくる。
「チリン、チリン」
「いらっしゃいませ」
カウンターに座ると深刻な顔で「レモネードを一つ」と注文する。何故、深刻なのか?
それまで座っていた、太宰と呼ばれた男がおもむろに立ち上がり、客に近付く。
「どうぞお客さん。二階へ」
階段を上り付いていくと扉に「夏目探偵事務所」と書いてあった。「中へ」
案内されると奥の机に猫が座っていた。
「吾が輩が所長の夏目漱石である」
「ね、猫がしゃべった!?」
「私が探偵の四代目、太宰治です」
「四代目!?」
「助手のQです」
「さあ、お客さん。お話を聞かせて下さい」




