始まったばかり
東の森へと向かうレンたちの一行。深い緑に覆われた森の中を進んでいくと、周囲の空気が徐々に重くなっていくのを感じた。
「この森、なんだか不気味だな」ジンが周囲を警戒しながら言った。
「ああ」ガイが同意する。「魔物の気配がする。みんな、気をつけろ」
レンは無言で頷き、右手を剣の柄に添えた。ミラも杖を握りしめ、緊張した面持ちだ。
しばらく進むと、森の奥から悲鳴が聞こえてきた。
「誰かいるぞ!」レンが叫ぶ。
一行は声のする方向へと駆け出した。木々の間を抜けると、そこには巨大なトロールが村人らしき人々を追い詰めている光景が広がっていた。
「くそっ、間に合うか!」レンが剣を抜く。
その時、別の方向から矢が飛んできて、トロールの腕に刺さった。
「あれは...」
振り向くと、そこにはアッシュたちの一行がいた。
「レンくん!」アッシュが驚いた様子で声をかける。
「アッシュ...」レンも驚きを隠せない。
しかし、状況を打開する時間はない。トロールが怒りの叫びを上げ、両者に襲いかかってきた。
「みんな、散れ!」レンが叫ぶ。
二つの冒険者グループは、まるで息の合った動きで戦闘態勢に入る。
マックスとガイが前線でトロールの攻撃を受け止め、エリナとミラが後方から魔法攻撃を繰り出す。サラは回復魔法で味方をサポートし、ジンは素早い動きでトロールの足元を攪乱する。
そしてレンとアッシュ。二人は無言のうちに息を合わせ、トロールの両脇をそれぞれ攻撃していく。
激しい戦いの末、ついにトロールは倒れた。
「はぁ...はぁ...やった」アッシュが息を切らしながら言う。
レンも深く息をつきながら頷いた。二人の視線が合う。そこには互いへの認識と、わずかながらの敵意が混ざっていた。
「ありがとうございます!」助けられた村人たちが両グループに駆け寄ってくる。
「私たちの村は、このトロールに何度も襲われてきたんです。でも、勇者様とその仲間たち、そしてもう一組の勇敢な冒険者の皆さんのおかげで...」
村人の言葉に、レンの表情が一瞬曇る。アッシュはそれを見逃さなかった。
「あの、レンくん」アッシュが声をかける。「君たちも魔物退治に来たの?」
レンは少し躊躇ってから答えた。「ああ...まあな」
「そうか。じゃあ、一緒に調査を続けない?」アッシュが提案する。「二つのグループで協力すれば、もっと効率的に...」
「悪いが断る」レンがきっぱりと言い切った。「俺たちには俺たちのやり方がある」
アッシュは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んだ。「わかった。でも、また会えたらいいな」
レンは無言で頷き、自分のグループに向かって歩き出した。
その夜、二つのグループは別々に野営をしていた。レンは一人、焚き火の傍らで考え込んでいた。
「どうした?眠れないのか?」ガイが隣に座る。
「...アッシュのことを考えていたんだ」レンが静かに答えた。「あいつは本当に勇者なのか?それとも俺が...」
ガイは深くため息をついた。「レン、お前は強い。だが、真の勇者とは強さだけじゃない」
「どういう意味だ?」
「心の強さ、仲間との絆、そして何より...自分自身を信じる力だ」ガイが真剣な表情で言う。「お前にはそれがある。だが、まだ完全には気づいていない」
レンは黙って夜空を見上げた。遠くの方で、アッシュたちの陣営の明かりが小さく揺れている。
「俺は...俺の道を行く」レンが静かに、しかし力強く言った。「アッシュとはいずれ、決着をつけなければならない」
ガイはレンの肩を叩いた。「その時が来たら、お前は何を選ぶんだ?」
レンは答えなかった。その答えは、彼自身まだ見つけられていなかった。
森の向こうでは、アッシュも同じように夜空を見上げていた。彼もまた、レンのことを考えていた。二人の運命は、これからどのように交錯していくのか。それは誰にもわからない。
ただ一つ確かなのは、彼らの旅が、まだ始まったばかりだということだった。