交差
アザミの町に到着したレンたちは、ミラの提案で「黄金の鴨」という宿屋に投宿した。
「ここの料理人が凄腕なんです」ミラは嬉しそうに説明した。
夕食時、彼らは町の噂話に耳を傾けていた。
「ねえ、聞いた?勇者様が魔物の群れを倒したんですって!」
「すごい!さすが預言の勇者様ね!」
レンは箸を止め、耳を澄ました。
「勇者の話か...」ガイが髭をさすりながら呟いた。
その時、宿の扉が開き、4人組が入ってきた。先頭を歩く少年の姿を見て、レンは息を呑んだ。
勇者アッシュとその仲間たちだった。彼らも「黄金の鴨」に宿泊するようだ。
レンは複雑な表情を浮かべた。一方、アッシュは疲れた様子で仲間と話していた。
「今日の戦いは厳しかったね」アッシュが言った。
「でも、あなたの判断が的確だったから、みんな無事だったのよ」サラが優しく答えた。
アッシュは微笑んだが、どこか不安そうだった。
――翌朝、レンたちは町の市場で買い物をしていた。突然、悲鳴が聞こえた。
「泥棒!誰か捕まえて!」
一人の男が、商品を抱えて必死に逃げていく。レンは即座に動いた。鍛錬した足で追いかけ、見事に泥棒を取り押さえた。
「さすがだな、レン」ガイが感心した様子で言った。
その時、アッシュたちもその場に駆けつけた。
「大丈夫ですか?」アッシュが商人に尋ねる。
レンとアッシュの目が合った。一瞬の緊張が走る。
「君が...捕まえたの?」アッシュが驚いた様子でレンに問いかけた。
レンは無言で頷いた。
「凄いね。君の名前は?」アッシュがレンに尋ねる
「...レンだ」
「僕はアッシュ。よろしく」アッシュが手を差し出す。
レンは少し躊躇ったが、結局その手を取った。
一方、捕まった泥棒は「待ってくれ!」と叫んだ。
「俺には事情があるんだ。聞いてくれ...」
泥棒の名はジンといい、彼の話を聞いたレンたちは、彼の置かれた状況に同情した。
「なあ、レン」ガイが提案した。「こいつを仲間に入れてみないか?」
レンは迷ったが、ジンの目に決意の色を見て、最終的に同意した。
アッシュたちはこの一部始終を見ていた。
「アッシュ、私たちも行かないと」マックスが声をかけた。
「そうだね...」アッシュは少し残念そうにレンたちを見た。「また会えるといいな、レン」
レンは黙って頷いた。
その日の夕方、レンたちは町を出る準備をしていた。
「次はどこに向かうんだ?」ジンが尋ねた。
「噂によると、東の森に魔物が出るらしい」ミラが答えた。「調査に行ってみない?」
一同が同意し、東へ向かうことに決めた。
一方、アッシュたちも町を出ようとしていた。
「アッシュ、大丈夫?」サラが心配そうに尋ねた。
「うん...ただ、さっきの青年のことが気になって」
「レンって子?確かに強そうだったわね」エリナが言った。
「うん。でも、なんだか悲しそうな目をしていた...」
アッシュは空を見上げた。預言の勇者として人々の期待を背負う彼の心には、レンへの共感と、自身の役割への不安が渦巻いていた。
二つの冒険の一行は、それぞれの道を歩み始める。彼らの運命が、再び交差する日は近い...。