目的地まで
朝霧の立ち込める山道を、青年のレンとかつて『鉄拳のガイ』と呼ばれた武闘家が歩いていた。
「ガイさん、この先の町で補給できるんですよね?」レンが尋ねた。
ガイは髭をさすりながら頷いた。「ああ、確かアザミの町だったはずだ。結構栄えてる町でな、物資も情報も手に入るはずだ」
レンは感心したように目を見開いた。「ガイさんは本当にいろんなことを知ってますね」
「はっはっは!」ガイは豪快に笑った。「まあな。『鉄拳のガイ』と呼ばれた俺様だ。各地を転々としてきたからな」
「そういえば...」レンは少し躊躇いがちに言葉を続けた。「ガイさんがなぜ武闘家を引退したのか、まだ聞いてなかったですよね」
ガイの表情が一瞬曇った。「...まあ、それは長い話だ。いつか話すよ。それより、お前の剣の腕前はどうだ?昨日教えた技、覚えたか?」
レンは急に緊張した面持ちになり、「はい!練習しました。でも、まだ完璧じゃなくて...」
「よし、じゃあ町に着く前に軽く稽古だ!」
そう言って、ガイは道端の開けた場所に立った。レンも覚悟を決めたように剣を構える。
二人の稽古が始まって数分後、突然の悲鳴が聞こえた。
「助けて!誰か、お願い!」
レンとガイは顔を見合わせ、即座に声のする方向へ駆け出した。
茂みを抜けると、そこには一人の若い女性が倒れていた。周りには三人の男たちが、彼女の荷物を漁っている。
「おい、そこの馬鹿どもよ」ガイが大声で叫んだ。「良からぬことしてんじゃねえぞ」
男たちは驚いて振り返り、すぐに敵意のある目つきになった。
「邪魔すんな、爺さん。命が惜しけりゃさっさと消えな」
「へっ、言ってくれるじゃねえか」ガイが腕を鳴らす。「レン、お前は女性を守れ。こいつらは俺がやる」
レンは頷き、倒れている女性のもとへ駆け寄った。
「大丈夫ですか?」レンが声をかけると、女性はおぼつかない様子で目を開けた。
「あ、ありがとうございます...」
一方、ガイは三人の男たちと対峙していた。
「さあて、久しぶりにいい運動させてもらうかな」
ガイの目が鋭く光った。次の瞬間、彼の姿が消えた。
「なっ!?」
男たちが驚いた声を上げる前に、ガイの拳が炸裂した。わずか数秒で、三人とも地面に転がっていた。
「ふう、少し物足りなかったな」ガイが肩をすくめる。
レンは目を丸くして見ていた。「す、凄いです...」
女性も驚きの表情を浮かべていた。「本当にありがとうございます。私はミラと申します。この恩は必ず...」
「いや、礼は気にするな」ガイが手を振った。「それより、大丈夫か?怪我はないか?」
ミラは少し体を起こそうとしたが、顔をしかめた。「足を捻ったみたいで...」
「よし、じゃあ町まで送ろう」レンが提案した。「僕たちもちょうどアザミの町に向かっているんです」
ミラは感謝の笑みを浮かべた。「本当に親切な方たちですね。...もしよろしければ、町で食事でもご馳走させてください」
こうして、レンとガイは新たな出会いを果たし、アザミの町へと向かうのだった。彼らはまだ知らない。この出会いが、彼らの旅をどれほど大きく変えることになるのかを...。