決意
朝日が昇り始める頃、レンは村はずれの森で黙々と剣を振るっていた。新たな「勇者」が現れてから数日が経ち、村は祝祭ムードに包まれていた。しかし、レンの心は晴れない闇に覆われていた。
「はぁ...はぁ...」
汗だくになりながら、レンは剣を下ろした。その時、背後から声がした。
「レン、もうやめなさい」
振り返ると、両親が立っていた。父親の顔には疲れが見えた。
「何を言ってるんだ」レンは眉をひそめた。「俺がやめるわけないだろ」
「でも、もう勇者は現れたんだよ」母親が優しく諭すように言った。「あなたの夢は...」
「俺の夢じゃない!」レンは思わず声を荒げた。「俺こそが本当の勇者なんだ!」
両親は悲しそうな顔を見せた。レンは苛立ちを抑えきれず、剣を地面に突き刺して森の奥へと走っていった。
村に戻ると、人々の視線が痛かった。「あそこにいるのが偽物の勇者さ」という囁きが聞こえる。レンは歯を食いしばった。
その夜、レンは自室で荷物をまとめていた。「このままじゃいられない。強くなって、皆に証明してやる」
突然、外で騒ぎが起こった。窓から覗くと、村人たちが慌てふためいている。
「モンスターだ!魔王の手下が現れた!」
レンは剣を手に取り、こっそりと家を抜け出した。森の中で、巨大なオオカミのような姿のモンスターを見つける。新たな勇者一行がまだ到着する前に、レンは剣を構えた。
戦いは激しかった。レンは何度も吹き飛ばされ、傷を負った。しかし、諦めずに立ち向かい続け、ついにモンスターを倒した。
勝利の喜びもつかの間、体の痛みと疲労がレンを襲った。「まだ...まだ弱い」
その時、拍手の音が聞こえた。振り返ると、一人の男が立っていた。
「なかなかやるじゃないか、若い衆」
レンは驚いた。その男は、かつて武闘大会で名を馳せた武闘家だった。
「あんた...なぜここに?」
「引退して村を転々としてたんだ。お前の戦いぶり、見事だったぞ」
レンは気恥ずかしさと誇らしさが入り混じった気持ちになった。
「でも、まだまだだ。俺は...本当の勇者になるんだ」
武闘家は興味深そうにレンを見つめた。「ほう、それで?」
レンは決意を語った。村を出て、強くなる旅に出ること。そして、本当の勇者として魔王を倒すこと。
武闘家は笑みを浮かべた。「面白い。俺も退屈してたところだ。お前と一緒に行こうじゃないか」
夜明け前、レンと武闘家は静かに村を後にした。レンは両親に宛てた手紙を残してきた。
新たな冒険の幕開けだった。レンの心には不安と期待が入り混じっていたが、一歩一歩前に進んでいった。真の勇者への道のりは、まだ始まったばかりだった。