予言の夜
薄暗い部屋の中、ろうそくの揺らめく光に照らされて、一人の青年が黙々と剣を振るっていた。レンという名のその青年は、汗で濡れた前髪をかき上げながら、深く息を吐いた。
「もうすぐだ...」
レンは窓の外を見やった。今夜は聖なる夜。精霊が眠る森で、村人たちが神の創造した星に向かって祈りを捧げる特別な夜だった。そして、レンにとっては特別な意味を持つ夜でもあった。
「レン、まだ剣術の練習しているのかい?」
ドアが開き、レンの父親が顔を覗かせた。
「ああ、もう少しだけ」
「そうか...」父親は少し複雑な表情を浮かべた。「でも、もうすぐ祈りの時間だ。準備しておくれ」
レンは黙って頷いた。両親は彼の夢を応援してくれていたが、最近では少し心配そうな様子を見せることが多くなっていた。
外に出ると、既に多くの村人たちが森へと向かう途中だった。レンは深呼吸をして、その列に加わった。
森に着くと、村人たちは円を描くように並び、星空を見上げ始めた。レンも空を見上げた。そこには、神が創造したという美しい星が輝いていた。
突然、空に一筋の光が走った。
「流れ星だ!」誰かが叫んだ。
しかし、その光は消えることなく、どんどん大きくなっていった。
「あれは...隕石?」
村人たちの間に動揺が走る。レンは息を呑んだ。これこそが、彼が待ち望んでいた瞬間だった。
隕石は轟音とともに近くの草原に落下した。村人たちが恐る恐る近づくと、そこには小さなクレーターが出来ていた。そして、その中央に一人の少年が立っていた。
「預言の書に書かれていた通りだ!」村長が叫んだ。「勇者が現れた!」
歓声が上がり、村人たちは少年を取り囲んだ。レンの両親も喜びの表情で駆け寄っていく。
しかし、レンだけはその場に立ち尽くしていた。彼の頭の中で、様々な思いが渦巻いていた。
(なぜだ...俺こそが...)
レンは拳を握りしめた。彼は知っていた。自分もまた、聖なる夜に隕石が降った日に生まれたことを。そして、自分こそが預言の勇者だと信じて、これまで懸命に修行を積んできたことを。
村人たちの歓声が遠くに聞こえる中、レンは静かに決意を固めた。
(俺が本当の勇者だということを、必ず証明してみせる)
レンは村人たちとは反対方向に歩き出した。彼の新たな旅が、今始まろうとしていた。