第七話 もつべきものは友達
戦争の長期化で戦況が一変したようです。
戦争がはじまって十日あまりたった。ヘイロネアから返事がくるまであと四日ほど。
「イルアスへ行っていた使者が首都付近まで来たとのことです!!一万五千の兵と救援物資と共にです!!」
「益々我らの有利だ!!神は我々に味方したか?」
兵士からの情報に会議室が沸き立った。考えていたより二日ほど遅れての援軍だった。
「ですが誘導するためのトンネルがまだ・・・」
「イルアスの兵にはヘイロネア軍を包囲するのを手伝ってもらえばいいので、その場で待機ということで。トンネルはあと一日二日で出来そうです。なんせ五万人近い首都の者たちが必死に休まず掘っているのです。」
会議室にいろんな案が飛び交いだす。
そんな中私は一人刀を前に考えていた。将軍たちが強いと恐怖したヘイロネア軍の剣の使い方や構えを前線近くへ見にいって驚愕した。それはひどく懐かしいものだった。
ほぼ確実に、私以外にこちらへやってきた日本をよく知る人物がいる。
日本、剣道、この世界へ来る前にいた場所・・・・・・でも彼は屋上へは入らなかったはず。
だけど、だけど、ホントに低い確率だけど・・・もし何か事情があって屋上へ彼が入ったのだとしたら?可能性としてはありえる。
私がここへ来たときのように、どこかへつながっている場所がいろんな所にあるのだとしたら。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「やめよう。下手な期待をして傷つくのは自分だわ。」
忘れたつもりでいた淡い感情がよみがえってくる。
なんとか自分にそう言い聞かせるが、わずかな期待は膨らんでゆくばかりだった。
「ご報告を!!ヘイロネアから十人ほどの人がこちらへ向かっているもようであります!!あと半日ほどでこちらへ到着するかと。」
兵士が会議室へ飛び込んでくる。
「和議の可能性が高くなったぞ。」
「いきなり仕掛けられたこちらからしたら、ある意味くやしいですな。」
皆が好き勝手しゃべり出すと、アーシャルバーが大きくわざとらしい咳をして注目を自分に集めさせる。
「和議の話し合いをするにあたって、そこに立ち会う者を選ぼうと思う。あちら側の人数にもよるが、両国とも三人づつで話し合おうと思うんじゃが。私の他誰が適任かのぅ。」
「アーシャルバー直々というのはあぶないのでは?」
「わたしが行かずに誰が行くというのだ。」
私も興味がある。ぜひ参加してみたいが、採用枠は残り二人だ。入れるかな?
「私としては、取引上手な宰相と参謀がよいのじゃが・・・どう思う?」
誰を残りの二人にするか選ぶために、声が次々と上がる中考える。
確実に私が話し合いが行われる部屋に入れる方法・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・あるじゃない。
「アーシャルバー、私、ぜひに話し合いの支給を担当をしたいのです。させてくださいますよね。」
有無を言わさぬようにニッコリと微笑んできめてやる。
ここでためらいがちに伺ったりしたら、「君は今までよくやってくれた。だが、ここからは戦争ではなく駆け引きだ。それに敵と同じ部屋に入るのだ。どんな危険なことがあるかわからない。この部屋で安全に過ごしていたのとは違う。支給は武芸に長けた男の使用人にまかせる。」とか言われて終わりだ。
ここは引かない方が良い。
「いや、だが「よろしいですよね、アーシャルバー。」・・・・・・よろしい。」
「ありがとうございます。私ほど適役はおりませんものね。なにせ本来の仕事は支給専門の使用人ですし、内部の事情もある程度わかっておりますから。あぁ、私、少し疲れてしまいましたので自室に戻って休憩させていただきますわね。失礼。」
他の大臣たちにも何か言う暇を与えずに、さっさときびすをかえして部屋を出ていく。
私が出ていった部屋には、ポカーンとしたおえらいさんが残された。
そこでは、代理殿はとんでもなく腹黒いのではだとか、フィリシュ(この世界のタヌキのような生き物)のようだとか、雇う職場を間違えてるんじゃないかとか、あの笑顔は聖女の皮を被ったヴィクターン(この世界の伝説上のモンスター、魔物と訳せるものの王様。すなわち魔王)だとかなんとかいう言葉が聞こえたとか聞こえなかったとか。
部屋に戻ると同室の三人にいっきに囲まれる。
「どうゆーことよユーコ!!!いきなりこの部屋に戻ってこなくなったと思ったらアーシャルバーの権限を与えられただなんて!!城中その話題でもちきりよ。支給係の使用人がアーシャルバー代理になってこの戦争の中枢を担ってるって。」
可愛い可愛いルーベルがシャーシャー言いながら詰め寄ってくる。
「ルーは少し落ち着いて。・・・でもホントよ。私たちとても心配してたのよ。何があったのか話してくれる?」
ワニ顔のガルサが心配したように言ってくる。最初見たとき怖い顔、女かわかんないと思ってごめんなさい。
不思議っ子のシェイラーは何も言わずこちらを見続ける。こっちの方がよっぽど怖い。なんだかかなりご立腹のようだ。
「悪かったわ。でもとても急なことだったのよ、わかってちょうだい。まぁ、ここで立ち話もなんだから座りましょ。」
私がイスに座ると、三人は二段ベッドの下のベッドに腰かけた。
「簡単に言うと、今回の戦争って今までの戦争と違うでしょ。城壁だって敵兵が攻めて来た時のためのものじゃなくて、いろいろな意味があって一応作られてただけでしょ?でも今回それがとても役立つような戦争だった。要するに、はじめて国に攻め込まれた。だから何をしていいのか上の連中は何をしていいのかわからなかったの。」
「そこでなんでユーコに関係するのよ。」
「最後まで聞いて、ルー。・・・対応が遅れたから、首都の人たちだけで戦わなければならない。それにアーシャルバーは戦争による死をなるべ少なくしたいと考えていた。直接対決すれば、こっちが奇跡でも起こらない限り負けてた。だから城にこもって敵があきらめて帰ってくれるまで対抗することにした。だけど、籠るにしても何をしていいのかわからない。そこで居合わせた私が、たまたま自分の国で過去にあった似たような戦い方とかの知識を教えたの。そしたらアーシャルバーが私の知識に頼ろうってことで代理任命されて、色々助言したりしてたのよ。それに、一回だけど部屋にも戻ってきたのよ。(まぁ、仕事中にノート取りに戻った一瞬だけどね)」
「・・・危ないことなくて良かった・・・」
シェイラーがポツリとつぶやく。相変わらずその顔は無表情で何を考えてるのかつかむのに難しい。だけど心配してくれていたのはよくわかった。
「何もしらせなくてごめん。心配かけてごめん。それから、有難う。」
「何いってるの!!私たち友達なんだから当たり前でしょ!!」
照れたように言うルーベルの言葉に、慣れないことで知らずに緊張していたのかどっと疲れがでてきて、今さら体が恐怖に震えた。
頬を暖かいしずくが止まることなく伝っていく。
「・・・・うぅ~・・こわ、怖かったの・・・ヒック・・遠くからでも・・・ヒック・・たくさんの人が死んでいくのが・・・見えて・・・」
「そうね、怖かったわね。辛かったわね。いっぱい泣きなさい。」
嗚咽を漏らしながら話す私の言葉をきいて、ガルサが私の背中を優しくゆっくりとなぜてくれる。
シェイラーは無言で私の右手を、ルーベルが左手を握ってくれる。
「・・・・・・・・ありがとう。ホントにありがとう。」
私は十八年しかいなかった向こうの世界を懐かしんでばかりで、私を思ってくれるこっちの世界の人たちをないがしろにしていたのかもしれない。彼らのホントの優しさにきづけなかった。向こうの世界に、家族以外にこれほど私を思ってくれる人はいるだろうか。家族も悲しんでくれるだろう。だけど、それでもこれからを生きていくのだ。私のことを忘れはしないが、時間がたてばたつほど私を思う時間は少なくなる。それは私にも当てはまる。
帰ることができないなら、ここの人として彼らと生きていこう。向こうを忘れることはできないけど、私を大切に思ってくれる人はここにもいる。
彼らと向き合っていこう。私、ここで生きていく。