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第六話 使者の帰還

毎度お馴染み急展開です。


矢文を放ってから、攻撃はピタリとやんだ。

その間に城壁の修理などの被害への対応に追われる。もちろんその間も兵を配置して気を配らせた。

首都の人口は二十万ほど。そのなかで兵士として活動できる年齢の男は三、四万いくかいかないか。

もし攻め込まれても、第二の城壁がある城へかくまってやれるのもわずかしかいない。

だから、城下町を守る第一の城壁をどうしても死守しなければならないのだ。


「使者の準備が整いました。」


「・・・わかりました。矢を放って下さい。」


「ハッ!!」


第二の矢文を放つように兵士に命じる。もしもの時のために十本ほど同じ内容の紙をつけた矢を放たせた。

内容は簡素に、今からそちらに使者をよこす。くれぐれも余計な真似はせぬように。

と、だけ書いたもの。


しばらくすると別の兵士から、ヘイロネア軍が手紙を受け取ったという旨の伝言がきた。


「城門は開けずに、・・・『縄梯子』ってなんて言うのかしら・・・縄で作った梯子で、城壁から使者を降ろしてやりなさい。」






それからが長かった。

六時間たっても彼は戻ってこない。イライラと部屋の中を動き回る。私の周りにいるおえらいさんたちも落ち着かないようでそわそわしっぱなしだ。

昨日から多人数が休まず掘り続けているトンネルは目的の山まではまだまだだ。このトンネルは使いたくないが、和議が受け入れられなかった時のために何があっても掘り続ける必要がある。


コルトは殺されてしまったのではないか。いや、それなら攻撃をしてきてもおかしくない。それとも何か裏があるのだろうか。


「矢文を放つわ。用意して。」


近くの兵士と文官に矢と手紙の用意をさせる。


「はい!何と書き記しましょうか?」


「・・・・・・使者の無事を確認させよ。それからいつまで待たせるつもりだ。もしこの和議が受け入れられなかった時には、こちらにも考えがある。再度通告する。我が国にも、貴国にいるような人物がいる。貴国も大きな犠牲をしかなければ、そうやすやすとは落とせぬと思え。ご英断のほどを。・・・と書いて。・・・できた?」


「はい!」


「第一の門へ行って放ってきて。」


城下町を守る城壁へ行かせて、報告を待つ。


「ヘイロネア軍受け取りました!!」


「御苦労。」


兵士にねぎらいの言葉をかけて、この国の参謀的役割の人たちと話し合う。


「これくらいの脅しをしないとやはり引かないでしょうか?」


「そうですね。軍事の中枢を担える、優秀な人物がいると匂わせるのは良い脅しでしょう。それは、しかけてきたヘイロネアが一番わかっているかと。七日ほどかけてじわじわ弱らせて、余裕で乗っ取るつもりが、思わぬ反撃に出られてかなり驚いていると思いますよ。少なくとも私なら驚きます。」


「ですが、あまりこちらにどのような人物がいるかという情報は知られたくなかったのも事実ですな。今後のことを考えると、という話ですが。」


「今は国の存亡がかかっております。今までの戦とは違うのです。未来のことを心配するよりも、今のこの状況を抜け出すことが第一です。・・・アーシャルバー代理のことについて、今後悩めるのならそれは幸いです。なにせ我が国が存続できているということですから。」


一応脅しのために私の存在をヘイロネアに伝えているが、本当は大したことのない小娘だ。兎に角、私みたいな小娘でも、あんたの国にいるような(いると仮定して)未知の知識を持った優秀な人物がうちの国にもいるんだよ~ということを、脅しでもはったりでも構わないから知らしめておくのが大事なのだ。


「失礼します!!使者殿の無事が先ほど確認できました!!テントの中から出てきて、大きく手を振ってまたテントに戻ったとのことです。」


部屋に飛び込んできた兵士の言葉に、皆安堵して溜息を吐いたり、隣の者と話しだしたりして少し騒がしくなった。


「皆の者!!使者の無事が確認されたところで、そろそろ私たちも遅い夕食を取らないか?もうすでに夢の刻寄りの星の刻を過ぎてしまったからな。それに使者が向こうにいる間は襲ってはこぬだろうし、まだ取引の途中のようだ。」


アーシャルバーが大部屋の人たちにもちかける。気を抜くわけではないが、みんなでご飯を食べようという。それには多くの者が賛同した。星の刻は大体八時から十時ごろのことだ。夢の刻とは十時から十二時のこと。夢の刻寄りの星の刻とは大体九時半過ぎということになっている。

十一時から一時に当てはまる光の刻に昼食を食べた後は何も口にしていない。そのことを思い出すと急激にお腹がすいてきた。流石に何か食べないとヤバい。気を張っていてご飯のことを忘れていた。

支給された夕飯は、パンっぽい平たくて丸っこいものと見た目がグロイ爬虫類に似た生き物を焼いたもの、それからコーンとかぼちゃを足して二で割ったようなポタージュに似たスープ。

私からしたら十分だったけど、ここのエライさんからしたら粗食だ。

危機的状況下で、食べ物をより大切に扱う必要があるからだ。もちろん誰も文句など言わない。

そのことを思うと、ここの政治家たちはホントに国民思いだ。








翌朝、目覚めてからすぐに会議が始まった。議題は武器の補充についてだ。

敵が攻めてこない間はもちろんチャンスとして利用する。この先のことを考える期間があるのだ。

使者を出したことで『攻められない時間』というものを手に入れられた。


「それでは会議を始めるとしよう。議題は武器の補充についてだ。・・・といっても、ユーコよ。お主はもう武器は補充できたと申しておったが?」


「はい。ヘイロネア軍が私たちにくれたではないですか。火矢以外の矢が放たれそうな場合は、木とスルロー(藁に似た植物)をぶ厚く編んだ盾で身を守れと命令しました。そしてその使い終わった盾の矢は抜いて持ってくるようにとも申しつけました。それにヘイロネア軍が引き揚げたわずかな時間内に、両国の死体を回収もさせました。敵も味方も死体は丁寧に扱わせておりますし、彼らの武器や防具なども今後のことも考え使わせております。・・・・・・・・・残念ながら、捕虜としてとらえることができたヘイロネア兵がいないので、あちらの情報を手に入れることはできていません。捕虜にするため生かしておこうと思えるほど弱くなく、命の危険を我が軍の兵が感じているからでしょうね。隣のイルアス国へ派遣した使者も、今日で派遣して四日目です。あと三日ほど耐えれば、イルアスからの援軍または支援物資がくるやもしれません。それに、武器を作るために、マフダ(鉄に似たもの)で作られた日用品などを寄付してもらうのはいかがでしょうか?」


矢の仕入れ方は・・・三国志をある程度知っている人ならわかっただろう。

マフダの寄付は、WW2の戦中に日本が国民から鍋などの鉄製品を差し出させたことから思いついた。

国民には悪いが、家にある鍋やフライパンその他もろもろのマフダ日用品を一つ提出してもらうことにする。


「うむ。なかなかの方法ですな。私はそんなこと思いつきもしなかったよ。ねぇ、みなさん?」


宰相が同意を求めると、大臣たち一同は何度か首を縦に振る。


「では武器調達は、代理殿の言うとおりにするということでよろしいですな。マフダは直ぐに、首都の者たちに理由を説明して提出させましょう。・・・・・・戦争を首都の者たちだけでこなすのは難しいですが、敵が到着する一日前に各町や村に使者を派遣したので、距離が近い町村の者たちは首都周辺に集まってきて敵軍を包囲しています。心強いことです。まっ、今は和議の最中ですし手出しはしませんがね。」


「宰相、気を抜くのはすべてが終わってからですよ。」


「わかってますよ、代理殿。戦は生き物ってね。」









「皆様!!!使者が戻ってまいりました!!!」


興奮しながら兵士が部屋に飛び込んでくる。戦争が始まって六日、コルトをヘイロネア軍に派遣して三日がたったころだった。


「!!!すぐこの部屋に通して!!!」


しばらくすると、少しやつれた顔をしたコルトが戻ってきた。


「ただいま戻りました。」


「・・・無事で何よりです。ほんとに無事に戻ってきてくれて有難う、コルト。」


私に続いて大臣たちがコルトへねぎらいの言葉をかける。


「・・・その言葉だけで十分でございます。私のことなど心配して下さるなんて・・・」


コルトは感動したのか、涙ぐみながらそう言った。


「疲れているところすまないが、結果報告を頼みたいのだが。」


「はい、アーシャルバー。」


コルトの報告によると、ヘイロネア軍の一指揮官である自分一人では決められない。そのため、ヘイロネアへこの和議の申し出について知らせるために、軍の何人かをヘイロネアへ向かわせたい。との要求をしているらしい。それが認められないのなら和議の話はなかったこととすると言って聞かないのだ。


「なにを馬鹿なことを!!!誰がそのような見え透いた嘘を信じるとでも?思っているより落とすことができず、首都の周りに召集された我が国の兵士たちがいるのを知っているから、この和議の案を利用して援軍を呼ぶつもりだ!!!アーシャルバー、このような要求を受け入れてはいけません。」


「・・・将軍の言うとおりやもしれんの。他の者、何か意見はあるか?」


みんな同じことを思ったのか、誰も口を開かない。

もちろん将軍の言うことも一理ある。だけど、ヘイロネアの言い分もわかる。

和議についてはもちろん国のトップへ知らさなければならない。

向こうもこれほど落としにくいとはおもわなかったし、周りもじわじわ囲まれてきている。首都の私たちも囲まれているが、ヘイロネアを召集された地方の兵士たちが囲みだしている。つまりは、ヘイロネアからすればさみこまれているということだ。こちらは不利から一転有利になっていた。


「あの・・・」


「なんだ?ユーコ、申してみよ。」


「今私たちは有利な状況となっています。あちらをなめてるわけでも気を抜いてるわけでもありませんが、ヘイロネアへ送らせてみては?もしもの為に、各地からどんどん集まってきている兵士たちをこの国とヘイロネアをつなぐ通路の付近に忍ばせていますよね。彼らにこう司令しましょう。通るのがヘイロネア兵ならゲリラ作戦を決行。ゲリラ作戦については説明しましたよね。ちゃんと決断を聞いてきた、またはこれからこちらにきて決断を下す権利を与えられた数人が通った場合はゲリラ作戦はなしで。物資や兵士を運んできたヘイロネア側の友好国が進行してきた場合もゲリラ作戦でしっかり弱らせてもらいましょう。」


「とのことだが皆はどう思う。」


アーシャルバーの問いかけに、財政担当の大臣が答える。


「私は代理殿の案を推します。このまま行かせずにいれば、包囲軍を我々は制圧できるでしょう。時が味方したのです。ですがその制圧には多くの犠牲を払うことになるでしょう。なぜなら、制圧できるかもしれませんが、奴らは先ほど遠目から見てもわかるとおり我々の知らない剣の使い方をする。我が軍の兵より格段に強い。一人に五人ほど必要なぐらいだ。きっと我々も大きな被害を出しての勝利となろう。・・・ですが!!!それでは意味がありません!!アーシャルバーはなるべく被害を出したくないからと城にこもるという決断をなされた。勝っても多くの者が傷つきます。城にこもった意味がありません。ここは一つ、和議にかけてみるのも一興かと・・・。ダメならダメで、最後の手段として多大なる犠牲の上での勝利を勝ち取りましょう。」


「大臣・・・。」


年老いたカエルそっくりの大臣が、私の意見に賛同してくれた。


「・・・私も代理殿の意見に賛成をいたします。犠牲を出さなくて済む方にかけるのがこの国のためかと・・・・・。」


「私もです。」


「私も。」


次々とみんなが賛成を表明していく。将軍もしぶしぶだが賛成してくれたようだ。


「では、ユーコの案が採択ということでよろしいですな。」


アーシャルバーが机を囲む面々をぐるっと見渡し再度聞く。


「それでは矢文を放たせよう。」


この矢文にも脅しの言葉を添えつける。

もし軍を連れて戻ってきた場合は、城を包囲している軍も援軍として送られてきた軍もただでは済まないと思え。こちらはもう和議をする必要などなくなっているが、アーシャルバーのご慈悲により貴国に許しがでているのだ。こちらにも打つ手など他にもいくつも用意してあることを、何度も忠告申し上げる。


矢文を放ってからしばらくすると、五人の兵士がヘイロネアへ向けて出発したとの報告が来た。




この時点でヴィーリンガルート国(首都クロウィグ)の被害

死者:八千三百九十二人

重傷者:五千六百三十三人

軽傷者:一万二千八百一人

行方不明者:百九十五人

建物:第一の門の城壁

農作物:首都周辺の畑、森

家畜:被害なし







話数がある程度のところまできたので、更新速度を落としたいとおもいます。

ヘタレ作者でごめんなさいm(_ _)m

因みに、

ヘイロネア軍をかこんでいる召集された兵隊さんたちへの指令は、伝書鳩的システムで、躾けられた空飛ぶ生き物に書簡をくくりつけて送っています。遠い距離だときついですが、首都を少しこえたところぐらいまでなら正確に運んでくれます。

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