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第二話 名前を呼んで

「う・・そ・・・何これ。どこよここ。」


荒い息を整えながらあたりを見回す。

さっきのことが一気に吹き飛ぶようなできごとにしばらくフリーズしてしまった。


「あっ!そうだ、携帯・・・・・・・・ダメ、圏外だ。」


とにかく、なぜこうなったのかとかを考えるのはあとだ。

今はこの森を出て、人に会わなければならない。話はそれから。

皮鞄とサブバックを抱えなおすと適当にまっすぐ歩いて行く。

ここがどこなのか地理的感覚もないし、方位磁石もない。それにここで助けをまっても、きっと誰もこないだろう。それなら自分から行動に移すしかない。

孤独で泣きそうになる自分を叱咤して歩き続ける。


森の中は、屋久島の千年杉のような木々が空に伸び、あまり地面まで光が届かない。

木と表現しているが、今まで見たことがないものだ。幹と呼べる部分も全部緑なのだ。しかも全部同じ種類。

もしかしたら、自分が物凄くちっちゃくなったんじゃないんだろうかと思う。

でも葉っぱの間から木漏れ日がキラキラしていて、それは綺麗だ。

動物にも全く会わない。逆になにか生き物がいてくれた方が落ち着くのに。


腕時計を見ると、五時間近くたっていることに気づいた。

道理で足が痛いはずだ。歩くたびに足の裏が刺されたように痛む。


「足がだるいな。でも、ここで休んだら立ち上がる気がしないよ。」


でも水分補給のために、水筒のお茶を。当分補給のために飴を一つなめながら歩くことにした。

五時間もたてば、だんだん暗くなってきていた。

携帯のライトを使えば見やすいのかもしれないが、なるべく携帯の充電は無駄にしたくない。

どこまでいっても同じ風景。体もまた悲鳴をあげだす。


よろよろと大きな木の根元に座り込む。


「・・・・・・・・無謀だったかも。」


無駄に動いたことに後悔する。

この森が、どんだけ広いのかわからないくせに動いてしまった。


「ハァ~、これからどうしよう。人間って、ほんとに悲しい時、苦しい時とかって泣けないんだな。泣く暇さえ与えられない。とりあえず、気分転換に荷物整理でもするか。でも荷物持ってたのはラッキーかな。」


独り言を言いながら鞄を漁る。


「えっと、皮鞄の中は数学と現社と世界史日本史の教科書にノート。英単語帳に筆箱にメモ帳、電子辞書。サブバックの中はっと、お弁当箱に水筒入ったお茶と昼休み買ったペットボトルの炭酸ジュース。化粧ポーチに鏡。タオルハンカチ。携帯に定期に折り畳み傘。家と自転車の鍵。・・・・・・後は大量の食べかけたお菓子か。飴に、ポテチ二袋に板チョコ三枚にソフトキャンディー二つ。他にもあるな。持ってきすぎて重かったけどこれもラッキーね。」


夏用のセーラー服にカーディガンだけの姿だと少し寒い。スポーツタオルを肩にかけ、皮鞄を枕に眠ることにする。

疲れのためか、家族や友達、武藤君のことを考える暇もなく眠りにつけた。










目が覚めても風景は昨日のままだった。


「・・・ホントやだ。」


筋肉痛とだるさでボロボロの体を引きずりながら歩き出す。


そんなことを八回くらい繰り返した。

お菓子も、飲み物もとっくに底をついていた。


「・・・・ハァ・・ハァ・・・お風呂・・入りたい・・・」


朦朧とした意識の中でそう思った。

それから先は覚えてない。













気がついたら変な化け物みたいな奴らに囲まれていた。


「いやああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


疲れた体に鞭を打って走ろうとするが、足がガクガクして逃げられない。

ファンタジーの世界から抜け出てきたような奴らに迫られ、とらえられる。

何かしゃべっているがわからない。


私終わった。


その中の全身緑色の肌をした大男?のような人に担がれ恐竜のような生き物に乗せられる。

暴れまくるが全く歯が立たない。


「いやいやいやあぁー!!!放してよーー!!」


恐竜が走り出すと揺れがひどくて、暴れたままだと男の腕から落ちそうになる。

大人しくするしかない。

唇をぎゅっとかみしめ恐怖に耐えた。ひとりぼっちの孤独も嫌だったが、これもかなり嫌だ。


緑男の顔を見ていると、それに気づいたのか男が不思議そうな顔をしてきた。


「・・・これから私をどうするつもり?」


男に聞いてみるが、返ってきた言葉はまったく聞いたことのないものだ。

特殊メイクか何かだと思っていたが、どうやらもとから緑の肌らしい。

他の人?たちも少しだけ見えたが、二足歩行の狼のような奴が中世やファンタジーの住人のような服をきていたりする。


ここは地球でさえないのかもしれない。


そう思うと、自分のおかれた状況と森の中一人耐えた恐怖を思い出し、ここに来てから初めて泣いた。


「うぅ~ヒック、ヒック・・・・お母さんお父さん助けに来てよぉ~ヒック・・ううぅ、武藤君こわいよぉ~私一人ぼっちだよぉヒックヒックう~・・」


急に泣き出した私にびっくりしたのか、緑の男は私の後ろで慌てているようだ。

それに気づいた他な奴らが、恐竜を止めギャーギャーしゃべり始めた。

どうやら緑の男に対して怒っているようだ。


「へ、何?仲間割れ?」


後ろを振り返ると、オロオロとして慌てている緑男と目があった。

すると男はそろそろと私の頭に手を伸ばして、いーこいーことナデナデしてきたのだ。


びっくりしすぎてポカーンとしてしまった。

意外過ぎて涙も引っ込んだ。


この人たち、見かけはモンスターみたいだけどほんとはやさしいんじゃないかと思った。

私を助けてくれたんじゃないかって。


「私の名前は高田優子。わかる?優子。た・か・だ・ゆ・う・こ」


自分を指さして言う。


「タカ・・タユ・・・コ」


「そう!そう!ユーコ。言ってみて。ユーコ。」


「ユーコ」


「そう!あなたの名前は?」


今度は緑男を指さして言う。


「ラグ。ラーグ。ラグ」


彼は自分を指さしてラグといった。


「らぐ?」


「ラグ」


「ラグ」


私がそう言うと彼は嬉しそうに笑った。

私もつられて笑った。


自分名前を呼ばれるのがこんなに嬉しいことだとは思わなかった。嬉しすぎて、また涙が出てきた。

泣いた私にまたオロオロしだすラグは私が泣いたせいでまた周りから責められてた。


それが面白くて、泣きながら笑った。


あけましておめでとーございます!!

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