小話 私は何も持っていない
今回は武藤君に告白した名無しの後輩ちゃんの今までの人生の独白です。
かなり根性悪いです。
生まれたときから全ては私の思い通りだった。
それなりに収入のある家庭に生まれ、しかもひとりっこ。親が高齢の時できた一人娘だったから欲しいものは何でも買ってくれたしやらせてくれた。もちろん何億とかは流石に無理だけど、私なら将来それくらい貢いでくれる人がいると思っている。
自分で言うのもなんだが私は男好きのするタイプの顔の女の子だしそれくらい可能だろう。
鏡を見ると両親のいいとこどりの顔が映る。母親似のぱっちり二重の大きな目と長いまつ毛に小さめのぷっくりしたピンクの唇に白い肌。父親から譲り受けた筋の通った鼻にシャープな輪郭に茶色めのフワフワの髪。
ちょっとカワイ子ぶっただけで簡単に男の子は落ちた。狙った男の子を見つめて目が合うとすぐに恥ずかしそうにそらすという行為を繰り返しただけで、数日後には告白してくる。
小学生の時は、きにくわない女の子がいたら男の子に「私、あの子嫌だな。」って囁くだけで瞬く間にその子は男の子からは虐められ、男の子に同じことをされたくない女子や嫌われたくない女子なんかに無視される。
暇な時なんかは適当にその役をローテイションさせたりしてた。
面白かったのは私と仲が良いと勝手に思い込んで、そのゲームに積極的に参加していた取り巻き女にそれをやったときだった。「嘘!なんで!なんで私なの?仲良しだったじゃない!私たち親友でしょ?」ほんとに思い込みの激しい女。
みんなの前でそう叫んだ彼女に内心爆笑する心を隠しおびえたように言う。
「えっ!?な、何言ってるの!?わ、私と森井さんが親友!?私そんなこと一言もいってないよ・・・森井さんはただのクラスメートだと思ってた。・・・森井さんおかしいよ・・・大丈夫?だってクラスの子に嫌なことして笑ってるんだもん。酷いよ・・・。」
彼女に味方するものなど誰もいない。
だって彼女に前のターゲットたちは「イジメ」られてたんだもの。
ほら、その証拠に前のターゲットたちの彼女に向けられる視線は凄いものだ。
彼女は自分が今までイジメていた子たちにやられたことをかえされるようになって、学校に来なくなった。
なーんだ、自分がやられたらすぐへばっちゃうんだ。つまんないの。
彼女が来なくなりゲームは新たなターゲットを見つけた。私はゲームをより面白くするために良いことを思いついた。
「ねぇ、安田さん?最近いつも一人でいるけどどうしたの?お友達と喧嘩したの?だったら私とお昼ごはん一緒に食べよ!」
「安田さん!次の移動教室一緒に行こう!」
「ねぇねぇ、美穂ちゃんって呼んでもいい??」
「美穂!体育の二人組一緒になろ!」
「家に遊びに行っていい?後、今度の休みうちにお泊まりしにおいでよ!」
嫌われ者で虐められている彼女に優しくしている私はみんなから「とっても優しいね」と言われた。
もうそろそろ潮時かな。
彼女がいないのを見計らい、あからさまにため息を吐く。すると「どうしたの?」とすぐ声がかかる。みんなが見守る中私はつらそうに言う。
「・・・・・・実はね、私疲れちゃったんだ。安田さん、友達いなくてかわいそうだから仲良くしてたけど、あの子ずっと私にくっついてるの。私はみんなと仲良くしたいのに、他の子とおしゃべりしようとしたらすぐじゃましたり意地悪するんだもん。やめてっていってもやめてくれない。」
そこで私は声を少し詰まらせうつむく。そうすると、彼女が教室に戻って来た時には教室の雰囲気は前よりもひどくガラッと一変する。
向けられる視線の意味に戸惑い、怯える彼女。みっともなくてすごく面白かった。
また彼女も学校に来なくなった。
小学校卒業後、近所の中学に入学した。
小学校の好き好き同士で終りやすい恋愛と違い、中学になると、付き合うという概念が当たり前になっていた。
最初は告白してきた先輩や同級生の中で好みの人と付き合っていた。
今付き合ってる人より、より好みの男が告白してきたらオッケーを出した後に彼氏に別れを告げた。
もちろん揉めないように適当な理由をつけて泣いて見せた。
それに付き合う時に、誰にも付き合ってることをばらさないでほしいと伝えていた。ばらしたら別れるという約束もしていたし。
なんだか一人じゃ飽きた私は、他の男の子たちとも同時進行で付き合うことにした。
同じ学校だと別の男の子と仲良くしてたらすぐばれるので、他の中学や習い事で知り合った男の子たちと付き合うことにした。飽きたら捨てればいいし、予備もいっぱいいるし。
高校生になると人の男をとるのにハマった。
恋愛相談してきた同級生を応援するふりをして、その人の情報を聞き出すとか適当なことを言いその好きな人に近づく。そして仲良くなって私になびくようにしたりした。
その子には、気持ちをはっきり伝えたほうが良いとアドバイスし告白させる。
勿論彼は私と良い感じになっていて、彼女と私を天秤にかけ当たり前のように私をとる。
その後そいつに告白された私は、彼女の前で泣いて見せる。良心の呵責に耐えきれずという感じに。
「ごめっ・・・ごめんなさい!!!ウっ・・・っ・・・私・・・耐え、耐えきれなくて。・・・・・彼に・・・宮内君に・・・宮内君に告白されたの!!!ヒックヒック・・・本当にごめんなさい!!!」
すると彼女は泣きそうな顔で、気にしないで、仕方ないよと言う。
うける。ホントはつらくて仕方ないくせに。私に仕組まれたって知らないで。
超うける。こいつマジ面白いわ。
その他にも、中学の時から付き合ってる学校で有名な高三のらぶらぶカップルの男の先輩に近づいて別れさせたり。
同じ部活の子の、他校の彼氏をその子経由で知り合いおとしたり。
同じ塾の子が先生とこっそり付き合ってることを知ると、先生に勉強の質問をすることから手始めに、二人っきりになるような空間をつくりじっくり時間をかけおとした。
他にも大学生の彼氏やらなんやら、たくさんの人のものをとった。人のものほどよく見えるふしぎである。
だから一度私におちると興味が無くなってしまう。しばらく相手してポイしちゃう。
振る理由はお友達、または先輩に対して悪くて仕方がない。こんなの耐えられない。ごめんなさい、別れよう。と言えば簡単だ。
次に目をつけたのは同じ部活の先輩だ。こいつは前から気に食わなかった。
だって私より人気なんだもん。
それに同級生がトイレで内緒話していた中に私と先輩を比べるものがでていた。
「あの子は確かに華奢で女の子らしくて可愛いよね。でもさ、高田先輩程じゃないんだよね。」
「わかるわかる!!!男が『この子だったら俺でもおとせるかも、付き合えるかも』って思える程度なんだよね。」
「そうそう。手に届きそうな可愛さなんだよね。そういうのが一番もてる!!でも高田先輩は女神すぎて見るのも触れるのも恐れ多いんだよね。高根の花すぎて自分なんか・・・って思っちゃうんだよね。」
今まで言われたことのない言葉に、はらわたが煮えくりかえるとはこういう気持ちをいうのかと思った。
それから私はあの女に苦痛を与えるため、可愛い後輩として近づくことにした。
そのおかげで彼女の思い人がわかった。
あんなタイプと付き合ったことないや。面白そう。凄く男らしいタイプだ。
あいつこういうのが好きなんだ。
まず手始めに私はなるべく彼に気づいてもらえるように、わざと高三の教室の廊下を通って彼を探す。
どこかですれ違ったら恥ずかしげに見つめてすぐそらす。
彼とよく目が合うので恐らく彼も気づいているはずだ。
だけどなかなか告白してこない。あの女を介して、彼とお近づきになれるように色々としたが上手いことかわされて駄目だった。
他にも接触を持とうと待ち伏せしたりしたが、なぜか全く会うことができなかったりした。
こんなこと初めてでイライラした。
なんで私の思い通りにならないのよ。
焦れた私は自分から初めて告白してみることにした。
絶対の自信があった。
だけど結果は好きな子がいるから無理だという。
ありえない。それはあの女?
ムカつくムカつくムカつく
その後、あの女と彼は消えてしまった。まるで神隠しみたいに。
一時凄い騒がれたけど、それももう忘れ去られてきている。
良い気味。私の思い通りにならないからよ。
当然の結果だわ。
「ねぇ、結局彼と寄り戻したのよね?」
「うん。なんかね、あの時はマジでどうかしてた。俺ホントサイテーだよ。でも今になって気づいた。俺本当にお前が好きだ。別れたくない。やり直そうって・・・」
「あんたそれで許したの!?自分の勝手な都合で振っといてなによそれ!!」
「私も何度も断ったよ。もう傷つきたくないし、それって勝手だよ。今の彼女と仲良くねって。」
「で?」
「でもね、ずっと一日に何回も言いに来るの。凄く真剣な顔して、俺は許してくれるまで、お前ともう一度付き合えるまで何度でも来るっていって聞かないの。なんか私もほだされちゃって。」
「へぇ~なんか凄いことになってるね。」
「うん。でも今、前付き合ってた時より幸せだし。ちょっと恥ずかしい言い方だけど絆が深まったっていうか・・・・・・うん、前より凄く大切にしてくれてるってわかるし・・・」
「へいへいお幸せにねーー!!ノロケはけっこうですよーー!!」
「ノ、ノロケじょないよー!!」
そんな話が休み時間の後ろの席から聞こえてくる。そういえば彼女の彼氏もおとしたんだった。
でも腹立つ。確かあの男は私が振った時はあっさり別れたくせに今の彼女には必死ですがりついたんだ。
そういえば、私、別れたくないって引き留められたことあったっけ?
今まで自分の別れ方がうまいんだと思ってた。
だけどホントに別れたくなかったらどんな理由を示されてもあっさり別れられないんじゃないかしら。
私別れたくないって言われたことない。
必死になってすがられたことなんてない。
みんな、そっかって言って去って行った。
アレ?おかしくない?私おとしたんだよね。
好きにならせたんだよね?
そういえば小学生の時の同級生はどんな目で私をみてた?
中学の時の彼氏たちはどんな目をして私を見てた?
どういうこと?
あれから色々考えた。
そして出た答え。
私、何でも持てる気でいたし持っていると思っていた。
だけど私、何も持っていなかった。
空っぽの手のひらを見つめて思う。
私、何も手に入れてない。