第一話 気になる貴方
1、誤字脱字がありましたらご報告お願いします。
2、作者はずぶのド素人です。
3、作者はびっくりするほどうたれ弱いです。取扱いにはご注意をお願いします。
最近気になる人がいる。
とはいっても『好き』ではなくてまだ『気になる』の段階だが、このままいけば確実に私は彼を『好き』になる。と、自分では思ってる。いや、やっぱりもう好きになってるのかもしれない。
短く切った黒髪に、いつもしわのよっている眉間。少し太めの意志の強そうな眉。その下の一重瞼の鋭い目、キュッと固く結ばれた厚めの唇。筋の通った高い鼻。男らしい輪郭に、がっしりとした首。
熱い胸板に長い手足。
男くさい彼はよく見ると整った顔をしているのに、せっかくの顔をいつも不機嫌そうにしていて、それに輪をかけて雰囲気が怖い。しかも無口。
だから他の女の子たちは彼の良さに気づいていないようだ。
かくいう私もその中の一人だった。だけどあるきっかけが、私に彼という存在を意識させはじめた。
「何してるの?」
「あぁ、高田か。」
高校三年の夏は、各部活の引退ラッシュだった。吹奏楽部だった私は、七月末の最後の発表会が終われば引退する。
引退する時期に差はあれど、夏休み前には皆受験モード全開。
でもそれまでは最後の発表を大切なものとしたいから、放課後も遅くまで残って練習していた。
まだ学校側がクーラーをつけてくれないので、七月の初めからは窓をあけて風がはいってくる廊下にでて練習していた。
その窓からいつも剣道場が見えた。
私がいる本校舎の位置からは、柔道場と剣道場が連なっていて中がよくみえる。
特に手前の剣道場は、重い鉄ドアを開けていれば奥まで見通せた。
やっぱり道場もクーラーがついていないみたいで、開けっ放しにされていて色んな怒声が飛んでくる。
その中で圧倒的に強い人がいた。
今年初めて同じクラスになった武藤君だ。
武道なんかやったことのない私でも、彼は他とは一線を引いた強さを持っているのがわかった。
まずなにより美しかった。
まっすぐにのばした背筋からユラユラと出ているかのように見えるオーラや雰囲気すべてが凛と澄んでいて綺麗だった。
遠目からでも、彼の周りのピンっと痛いくらいに張りつめた空気は感じられたし、彼の周りだけ時間が止まっているかのようだった。
なんでこの三年間気がつかなかったんだろう。それがとても悔やまれた。
「スゴイ・・・。」
「何がですか?」
いつも見ていたが、今日はうっかり声に出してしまったようだ。
「あっ、口に出してた?・・・ここから剣道場見えるでしょ。そこで、同じクラスの武藤君が練習してるんだけどね、桁違いに凄いのよ。ホントに強い人の戦い方ってすごくきれいなのね。立ち方からして違う。」
「もしかしてあの人ですか?今打ち合ってる右から三番目のひと。」
「そう、その人。」
後輩が目を細め窓から身を乗り出して聞いてきた。
「・・・・・・・ほんとだ。すごく綺麗。」
後輩のその言い方と、どこか夢を見ているような視線に何故だか胸騒ぎがして不安になった。
彼へ彼女の熱い視線を外させたくて、後輩を無理やり練習にもどした。
「ハイハイ、もう練習にもどるわよ!みんな散った散った!・・・十二小節目のアウフタクトから始めるよ。・・・1、2、3」
でもその一人の後輩の目が頭から離れなくて練習にあまり身が入らなかった。今思い返すと、彼女の目に怯えていたのだと思う。それにきっと私もあんな目で、彼を見つめていたんだろう。
練習が終わったあとすぐ、その子が私に話しかけてきた。
「先輩!聞きたいことがあるんですけど・・・。」
「何?」
なんだか嫌な予感がした。
「あの、先輩がさっき言ってた人って武藤さんって言うんですよね。」
「ん、あぁ武藤君。そうだけど・・・。それがどうかしたの?」
「いえ、ただ、武藤先輩って彼女とかいるのかなぁって。先輩同じクラスなんですよね。そういうの知ってますか?」
あぁ、私の馬鹿。どうして彼女に彼の存在をさとらせちゃったの。
いかにも男が好きそうな『俺がそばにいて守ってやらなきゃダメなんだ』っておもわせるような、小さくてか弱くて可憐で。
ゆるいカールのかかったフワフワの茶色の髪に黒目がちの大きな瞳に長いまつげ。白い肌にピンクの頬と唇、華奢な体。自分の魅力を理解していて、最大限に活かしてる。
そんな彼女を拒否できる男なんてそうそういない。
周りは気付かなくても私は彼女のしたたかな女の部分に気が付いていた。
女の敵になりそうな彼女が今までもめ事を起こさなかったのは、彼女がうまいことふるまってきたからだろう。その陰で何人の男女が泣かされてきただろう。
部活が一緒なだけのただの後輩が、一瞬にして『女』という生き物になったことを確信した。
「さぁ、知らないわね。でもいてもいなくても、もう受験だしきっと恋愛どころじゃないわよ。」
必死に言い繕う自分になんだか笑いそうになった。なんでこんなに必死なんだって。
「・・・そうですか。ありがとうございました。」
部活の休憩中、外に出て暇をつぶしていると、足は勝手に剣道場へ向かっていた。
しかもちょうど武藤君が道場からでて裏に向かうのがみえた。
思わずつけていくと、道場の裏にある水道の水を頭にかけている武藤君がいた。
「何してるの?」
水を首にあてて体温を下げているのはわかったが、教室では話かけにくかったので何か話すきっかけが欲しかった。
「あぁ、高田か。」
彼がびっくりしたように言った。かといっても表情はほとんどかわらず、目を少し見開いただけだが。
それよりも、水に濡れた彼を近くで見て、彼に名前を呼ばれ、かれの視線に射抜かれ、心臓が止まるかと思った。
背中にゾクゾクとした悪寒がはしり、いやに興奮している自分がいた。
高揚感というやつだろうか。
「まだ学校クーラーついてないだろ。だから防具着てると熱がこもるんだ。倒れないためにこまめに体温下げる必要があるんだけど、そのために首に水かけてんだ。高田は?」
「・・・・・・・・・」
「・・・?・・・高田?」
「あぁごめん。武藤君がこんなにしゃべってるの初めてみたもんだから。」
そういうと武藤君はハッとしたような表情をして、両手で顔をおさえズルズルとその場にしゃがみこんでしまった。こころなしか耳が赤い。
でも私が言ったことは確かで、彼は仲の良い友達と一緒でも、「あぁ。」とか「いや。」とか、多くて一文話す程度なのだ。
「!!!武藤君!大丈夫?どうしたの?」
いきなりしゃがみこんだ武藤君にびっくりして駆け寄るが、武藤君は「いや、いい。大丈夫だから心配するな。」といい顔をこちらにむけた。
「座れよ。中腰疲れるだろ。」
目で自分の隣を指し示す武藤君の言葉に従い、そろそろと隣に腰をおろす。
彼との距離30センチ。
どうしよう私、心臓破裂して死んじゃったら。
「私は部活の休憩中。外で暇つぶしてたら武藤君が水かぶってるのがみえたから・・・。」
「高田は吹奏楽だったよな。トランペットだろ。」
「!!・・・よく知ってるね。」
彼が私のことを少しでも知っていてくれてるのはとても嬉しかった。
「あ、あぁ。まぁな。ほら、あの、最近よく廊下で練習してるだろ。それでだよ。」
「確かに。ここからあそこ見えるもんね。私の所からもこっちよく見えたよ。私、武道とかよくわからないけど、武藤君がすっごく強いのは遠目からでもわかったよ。」
「あ、有難う。俺も、ここまでお前の吹いてる音楽聞こえてきたけどさ、その・・・上手いと思うよ。俺みたいな素人がいうのもあれだけどさ。」
「クスッ、何この褒めあい。なんか恥ずかしいよ。フフッ。」
それから武藤君と私は、武藤君の後輩と私の後輩が探しに来るまでずっと話をした。
部活の事、受験について、将来の夢、家族のこと、好きなもの嫌いなもの。それに彼のいろんな面を見れたのがうれしかった。楽しい時間はあっという間だった。
「高田!!」
部活に戻ろうと歩きだしたとき、武藤君に後ろから呼び止められた。
「?・・何?」
「あ~あの、さ。お前さえよければその、なんだ、これから部活の休み時間いろいろ話さないか?あっ、嫌だったら別に全然かまわないんだ。ただいろいろ相談していければ凄くいいんじゃないかと思って「いいよ。」そうだよな。嫌だよな・・・って、え?」
「だから、いいよって。時間もあるし。・・・私も話たいし。」
「ホントに!?」
「ホントに。こんなことなんかで嘘いわないよ。」
それから彼とは、ほぼ毎日決まった時間に道場裏に集まって2、30分話して解散するというつきあいになった。私と彼だけの秘密の時間。
彼と話している間はとても落ち着いたし、しゃべらない間があっても、とても心地よい無言の空間だった。
教室では特に話さなかったが、ふとした瞬間に目があったりすると優しく笑いかけてくれた。
それからは放課後が、部活が、部活の休憩時間がとても待ちどうしく感じられた。
放課後部活に行こうとすると、あの後輩が教室の外にいた。
まさかと思った。
だれか探しているようだ。
「あの!武藤先輩。今時間とれますか?」
「・・・少しならとれる。で、それが何?」
「いえ、あの・・・ここでは少し言いにくいことなんで、場所を移しませんか?すぐすみますんで。」
行かないで
「わかった。」
そう言うと、武藤君は彼女についていってしまった。
私に引き留める権利なんてないけど、行かせたくなかった。
気がついたら、彼らにばれないように後ろから追いかけていた。
西階段の踊り場にたどり着くと、彼女はそこで足を止めた。
私は二人にみつからないように、上の階の壁に張り付いて耳をすませた。
「突然すいません。・・・・・・・・あの、私、武藤先輩が好きです!!私と付き合ってくれませんか!!」
「・・・・・・・・・・ごめん。」
聞こえないように大きく息をはいた。いつの間にか呼吸することさえ忘れていたようだ。
「な、なんでですか!!!私じゃだめですか!先輩のタイプの女の子になります!」
「・・・好きな・・・好きなこがいるんだ。だから君の気持には応えられない。」
「・・・それって・・・誰なのか教えてもらえませんか。」
「・・・それは・・・」
武藤君の答えを聞く前に、駈け出していた。
走って走って走り続けて、過呼吸になるんじゃないかと思うほど走り続けて、屋上に飛び込んだ。
屋上に飛び込んだつもりだったのに気がついたら薄暗い森の中だった。
「・・・・・・・・・ここ、どこよ・・・・・・・・・」
別の小説書いてる途中なのに、これも書いちゃいました。
更新はまったりとお待ちください。