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13話 2日目・2度目 

フォン先生の授業時間が半分以上過ぎた頃、未だうまく課題に取り組めない人物がいた。


「どうしたら魔法の発動時間を短縮できるのでしょう?一つ目の課題は何とかできましたけどもう一つは……」


麗しい赤髪を靡かせる少女は、その魅了にお構いなしなのか、はたまた気に入らないのかどうかはわからないが、雑に髪を掻き乱し悩み事を抱えた様子だった。


この学園でただ一人の赤髪の持ち主、魔女と言われるミリスはジュンたちと同じくこの授業を受けていて、一人課題に取り組んでいた。


幼き頃から疎まれてきた彼女にとっては日頃から鍛えられた誠実で強靭な精神が備わり、何事も最後まで一生懸命取り組む姿勢がこの場でも表れている。


ー最後に……ミリスのこと可愛がってあげて。私は彼女の選択に従うー


「こうして会うのは2回目だな」


課題に取り組む彼女の背を見かけて俺は声をかけた。もちろんただ偶然彼女を見かけたから声をかけたわけではない。そう、先日出会った謎の少女が最後に残した言葉を思い出す。その真意が何なのか今は見当もつかないがそれを探るためにこうして彼女を探していたというわけだ。


「……っ!あなたは」


突然かけられた声に少し肩を上げ、驚いた反応を見せてくれた。魔女として蔑まれてきた彼女にかけられる優しい声が不自然に感じられたことに違いない。


「ジュンさんですね。まさか同じ授業を受けているとは思いませんでした」


「そうだな。クラスは違うから関わる機会はそれほどないのかと思ったが、すぐにまたこうして会えるとは嬉しいものだ」


「そう言ってもらえて私も嬉しいです」


ミリスは心からの笑顔を浮かべ、魔王を見つめた。彼女にとって初めてできた友達、彼に見せる顔は普段の孤独な彼女が見せることのない表情だった。


「何か悩んでいたように見えたがどうかしたのか?」


「まさか見られていましたか……?少し恥ずかしいです。実は今季の課題についてなんですが……」


次第に赤らむ顔を両手で隠した。完全に気を抜いていた様子を見られていたことによるものだ。彼女を見てくれる人なぞ、これまでどれくらいたのかは想像に難くない。だからこそ見られてはいないと思っていたところを見られて恥ずかしいのだろう。


それにしても今季の課題か。授業の初めにフォン先生が言っていたな。一つは遠く離れたところに設置された的を、魔法で撃ち抜くこと。そしてもう一つは魔法発動に時間を短縮することだった。


「そのことか。なら俺に相談するがいい。先ほどフォン先生の肝を抜くような結果を残してきたところだ。俺に聞くのが最善となるはずだ」


そう。フォン先生を打ち倒した俺がこの場で最も魔法に長けている。魔法にかけてきた年月を鑑みれば当然の結果と思えるが、それを再確認できた。


「そうなんですね。やっぱりジュンさんはすごいです。私の想像のずっと先を行っているのでしょうね……羨ましいです」


そこには憧れと寂しさの残穢を感じた。


「実は魔法の発動速度を上げたいんですけどさっぱりで。何かアドバイスがあれば欲しいです」


「そうか。ならばまずは術式を見せてくれ」


「はい、今準備しますね」


小枝ほどの細く小さな杖を握りしめる。魔法の発動速度を底上げさせる小道具だ。


なるほど。小杖に頼ろうとするとは本当に行き詰まっている様子だな。確かに発動時間の短縮には繋がるが、地力を上げなければ小杖を使う価値はない。


ミリスが小杖に魔力を込めると、うっすらと魔法陣が浮かび上がる。次第に色濃く現れ、それは綺麗な薄紅をした円を成した。古代文字が廻る陣は起動し、質量を持った光の玉を生み出す。


的へ向けられた光の玉は瞬時に放たれ、確かな速さで穿った。


速い。が、まだまだ足りない。


「魔法自体は悪くはない。ただ術式に無駄があるようだな。その魔法どこで教わった?」


「えっと……これは図書館で見た本からです」


「魔法書か。古代文字なぞ一介の人間が理解できるものではない。だから魔法の解読を行う人間のほとんどが誤認を起こす。いいか、魔法は本で読むよりそれを使いこなす者から教わった方が良い」


「その魔法を使いこなす人が書いた本とかはどうですか?」


「そう言う者は大概、本を書かないものよ。人が生涯で極められる魔法はそう多くはない。だからこそ、その切り札とも言われる魔法を易々と公には明かさない。本を書いたとしてもそれはその家系に伝えるためのものだろう」


俺も400年ほど前に魔法書を書こうと思ったことがある。だが随分と内容に困った。魔法は無限の可能性だ。何に焦点を当てるかにもよるが膨大な量になる。


得意の空間魔法は使い手が極めて少ない類だ。取得難易度の高さから術式が明かされたくらいでそう簡単に使えるものではないが、好ましくはない。


結局、書くほどの内容が決まらず断念した。


「そうなんですね。でも私は魔法を教わったことがなくて」


「なら俺に教われ。それが最善だ」


「あなたが軽く言ってしまう言葉に私は幾度と救われます本当に」


「気にするな。もっと勝手に動け。さて、話を戻すが先の術式には無駄がある。俺も古代文字は理解していないが感覚でこうすればいいのは分かる」


嘘だ。だがそうでも言っておかないと面倒だ。古代文字がわかるなら術式を解読できる最低限の位置を踏んでいる。すなわち、魔法発動前にその魔法の性質を読み取ることができる可能性が万に一つあること。


それを明かすことの意味は魔界でも人間界でも変わらないだろう。


もっとも、魔法の性質を瞬時に理解することはほぼ不可能ではある。せいぜい見たことある魔法を発動前に理解する程度でしかないがな。


「もう一度術式を出してみよ」


俺はミリスにそう促した。彼女はすぐに先ほどの魔法の術式に魔力を込め、顕現させた。


「ここの術式を削除してみろ」


ミリスの見せる魔法陣の一部に指を指し示した。


「ここですか?わかりました。とりあえず消してみますね」


ミリスは服の中からあるペンを取り出す。


見た目は単なる羽ペン。だがこれは魔法の術式を構築するのに必要な羽ペンだ。非常に高価なものであるがこれがあればオリジナルの魔法を創れたり、魔法を改変することができる。多くの者にとっては必要のないものではあるが、一級魔法使いは持つのが普通とされている。


「こんな感じでよろしいでしょうか?」


ミリスが改変した術式を見せた。日頃から術式を弄っているのか、出際が良い。


「普段からしているのか?」


「え?……あぁ術式のことですか。はい、暇な時は時々しています」


「そうか。俺と同じだな。では今一度魔法を使ってみろ」


「はい、いきます」


もう一度術式の起動を試みる。神秘的な光が辺りの明暗を際立たせるが如く、魔法陣が出現する。先ほどと大層変わった様子はないが、確実に異なる点が一つだけある。術式が形を為す速度だ。瞬時に光の玉が生成されたのだった。


「嘘っ……」


明らかな驚きを顔に表し、その言葉が漏れ出た。光の玉は爽快に目標の的を打ち抜き、減衰されながらもさらに向こうへ放たれたのだった。


物足りなさは感じるが手の周りには上出来だ。そう、やったことはほんの一工程しかなかったのだから。


「まさかこんなに変わるなんて……とても信じられません!一体どうしてここまで変わるんでしょうか?」


「消した術式は、放出魔力を一定に制御するためのものだ。使いやすさは増すだろうがかなり古い術式だった。処理時間がかかりすぎてそれが魔法を繰り出すまでの時間遅延につながっていたのだろう」


現代魔法ではあまり組み込まれない特殊な術式だ。古い文献から見つけた魔法だからだろう。もっと処理の軽い術式でその目的を果たすものなら今の魔法にもみられるが、どちらにせよそれらは魔法の行使がままならない初心者向けのものにすぎない。我々一級魔法使いには無くて何も問題ない、むしろ無い方が好ましいものでさえある。


「そうだったんですね。よくそこまで理解できていますね。私には到底考えが及ばないところでした。ジュンさんと話しているといつも勉強になることばかりです」


ミリスは目を輝かせながらそう言った。普段から術式を組むのを趣味としているからなのか今の術式改変にはとても興味を持ったように思える。


「しかし、何だか疲労感がどっときたような気がします」


脱力感が彼女に絡みつき、瞼を重くさせた。


「いつもと魔力放出の勝手が違うから想定以上の魔力を使ってしまったのだろう。課題も終わったことだし、そこで休憩するとしよう」




*****




昼下がりの校庭、俺とミリスは日光で輝きを増した芝の上に座り、息を抜いた。


「何とか課題を解決できて安心しました」


「それはよかった。また何かあれば聞くといい」


「ジュンさんも術式を組むのが好きとおっしゃってましたが疲れたりしないんですか?」


「意図した強力な魔法でもない限り余程なことでは疲れたりはしない。俺は魔力量が人より多いからな。しかし、それはミリスも同じだろう?」


「そうですね。私はこの学園の中でさえも魔力は多い方だと思います。魔力値で言うと大体8,000です。それにしてもよく気がつきましたね。もしかして鑑定眼を持っているのですか?」


鑑定眼とは主に対象の魔力量や得意とする魔法の元素を解析できる眼だ。一般的に人間界、魔界問わず珍しい眼ではあるが、この学園では五人に一人が持っているものだとか。


しかし鑑定眼の欠点は魔力を隠蔽する魔法があれば簡単に封じることができるところだ。もっとも、より上位の鑑定眼にもなれば話は別ではある。


「いや、俺は鑑定眼を持っていない。何となくそうじゃ無いかと思っただけだ」


「魔女ってことが関係しているのかもしれません」


魔女か。その昔、魔族から魔法を授かったとされる人族。確かに、その可能性はあるかもしれない。魔力量も遺伝することがある。


ー最後に……ミリスのこと可愛がってあげて。私は彼女の選択に従うー


また、以前会った少女の声が脳裏で再生される。


さてそろそろ本題に入ろう。


飾りをつけるのは好みでは無い。だからこう聞くとしよう。


「ミリス」


「はい、なんでしょう」


「お前は他の魔女と関わりがあるか?」




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