エントス大陸23
帰り道もフロレスタ森林だ。
『風景が木しかないのも意外に落ち着きますね。血や臓物、腐った匂いが無く、唐突に攻撃が飛んでくることも無いし、嗚咽音や悲鳴も無く…』
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
『おっと…悲鳴はありますね。』
「…血の匂いも、君の服に」
誰かが悲鳴をあげながら近づいてくる。
「ぞごのびどだずげでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
『え?』
流石の”ヌル”も唐突過ぎて唖然とする。
そしてその声の主…その男は4人の後ろに隠れる。
「え?え?」
サラミとハムは困惑している。
一応武器を構える。
「そこによぉ、なんかでかいやつがいるんだよ!」
「でかいやつ…とは?」
…ドズドスドスドスっと音がする。
そして視界に入る。
15mくらいある大蟻の群れだ。
見た目はキモ怖だが殴っても蹴っても無害だ。
というか、人間を助けたりと人間の言語は理解できないようだが人間には友好的だ。
…女王大蟻に攻撃しない限り。
攻撃したな、こいつ。
工兵が最前線に素早く構築する前哨基地。
重戦車の師団。
蟻酸の散布機の航空師団。
戦場に居る指揮官の素早い指揮。
そして全員が死を恐れない。女王蟻を守って敵を殲滅する事しか考えない。ある意味怖い集団だ。
工兵はブロンズ冒険者になりたての近接物理職の人に相当する。
重戦車はあと一歩でゴールド冒険者になれるシルバー近接物理職の人に相当する。
蟻酸の散布機は遠距離魔法職だけで構成されたブロンズ冒険者チーム6人に相当する。ヴァーテックスは近接物理職しかいないから倒すのは不可能に近い。
指揮官は熟練のプラチナ冒険者2人に相当する。
まぁ…要約すると…絶望的な状況だ。ちなみにウッド冒険者からダイヤモンド冒険者までは1クラスの差で150人の差があると言われている。要するに単純計算をするとアイアン冒険者と指揮官とはサラミとハム5億人x2倍以上差がある。
“ヌル”は息を吹くだけで木っ端微塵になるただの大きな蟻としか思っていない。
だが助けない。
この男も彼らも助ける義理がないからだ。
だが1つだけ助かる方法がある。
この男を見捨てる事だ。
「ハム!ベコ!”ヌル”さん!行くぞ!」
助ける為に蟻に戦いに行くのではない。
逃げる為に蟻から反対の方向に逃走だ。
「でも…!」
「でもじゃない!あれには命を捨ててどう足掻いても勝てねぇ!」
「頼むよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!助けてくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
男がハムの足を右手で掴む。
「見捨てないでくれよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「なっ!」
「くそっ!」
サラミが男の左目をレイピアで刺す。
だが男は手を離さない。
離したら生存率が0.0000000000000000001%が0%になるのが簡単に分かるからだ。激痛の中でも分かるくらい。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ハム!この畜生の腕を切れ!死ぬぞ!」
「だずげでぐれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!お願いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「う…」
大蟻が近づいてどんどん大きくなってくる。音も大きくなる。そして心臓の鼓動も恐怖心も大きくなる。
「ハム!早く!急げ!」
「頼むよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ッ…ごめん!」
<下位蛮族化>と叫んで発動させる。
———ゾンビや獣の骨より硬い
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ハムに返り血が飛ぶ。
「よし!逃げるぞ!」
そしてサラミとハムはベコと”ヌル”は大蟻が居ない方に走る。ハムは無言だ。それに、ハムは思った事が一つある下位蛮族化を使ったのにいつもより走るのが遅い。
ベコと”ヌル”は男の前に残る。
サラミとハムは気づいていない。
逃げる振りをしたからだ。
そして男が左手で”ヌル”を掴む。
「あっ…!ああ!我が…神…よ!私を助けに来てくださ…
男の声が止まる。
“ヌル”が男の額をを小鳥を触るに人差し指と中指で優しく触れた。
そして男の頭が木っ端微塵になる。
残った男の胴体を”ヌル”が投げる。
胴体は兵隊蟻を超えて女王蟻の目の前に落ちる。
全ての大蟻の動きが停止する。
そして3mくらいの巨大な氷砂糖らしきものが2人の前に飛んできた。
その後大蟻達は前哨基地の巣穴に帰る。
恐らくコロニーに直結しているのだろう。
…前哨基地とコロニーが直結してるのはダメじゃない!?
「…ヌル…どうして殺したの…?」
『こいつが森林お散歩の邪魔をしたから。こいつの持ってる剣と同じのが女王蟻に刺さっていたから。君はなんで残ったの?』
「…君が残ったから」
『うーん。よくわからない理由だけど2人に早く追いつかないと。』
“ヌル”は巨大な氷砂糖を空間収納にしまう。