第6話 記憶と現実の狭間....
「.....キ......ナキ....ナキ、しっかりして」
ミラの声が聞こえて、僕は現実に引き戻される。
咄嗟に首元を触った。
切られてない。血は出ていない。
「あれは、何だったんだ?」
「急に頭抱えて苦しみ出して、倒れ込むからビックリしちゃったよ。大丈夫?頭痛いの?」
ミラが心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「いえ、大丈夫です。ちょっとフラッとした
だけで、もう大丈夫」
僕は2人の衛兵の男達の死体を再度、目で確認した。
1人は胸の辺りを何かで貫かれたような傷がある。そして、壁際な男。首元から大量の血が流れた跡がある。
2人ともあの時僕が見た光景通りだ。あの時の光景が鮮明に思い出される。
左手、髪の毛。
僕は壁際の男の左手を確認した。
やっぱりだ。左手に白い髪の毛を握りしめている。あの時、僕がとっさに掴んだ白髪の男の髪。
みんなに知らせるべきか?しかし、なんて言えばいい?でも、この白髪が犯人を突き止める手掛かりになるだろうか?
悩んでいると、
「隊長!!生存者、見つかりました」
ビスケット隊長の護衛の男が声を荒げて言った。
「なに?見つかったか。怪我の具合はどうだ?話を聞けそうか?」
「はい、怪我はしておりますが命に別状はなさそうです。言葉もはっきりしていて、会話も可能かと」
「そうか。さっそく話を聞きにいこう」
ビスケット隊長は護衛と一緒に行ってしまった。
「ナキどうかしたの?私たちも行きましょう」
「えっ、あっ、はい!行きましょう」
とりあえず今はまだあの白髪の男の事は黙っておこう。
ビスケット隊長達のあとを追うと、座っている1人の衛兵が見えた。
命に別状はないと言っていたが、かなりの深傷に見える。
「隊長、申し訳ありません。我々では全く歯が立ちませんでした」
「傷が深そうだな、無理するな。とりあえず治療を優先させろ」
「はい、すいません。しかし、ひとつお伝えしたい事が」
「なんだ?」
「敵は、国王を連れ去ったのは、白髪の男の2人組です。髪型は少し違いましたが、髪の色、全く同じ香り、おそらく双子だと思われます」
衛兵は傷が痛むのか、苦しそうに言った。
白髪の男の?やっぱりそうなのか?僕が見たあの出来事は現実に起きた事だった?
「そうか、わかった。詳しい話は傷の手当てのあとに。町の医療班がもうすぐ到着するはずだ」
ビスケット隊長は、よく生き残ってくれたと衛兵を慰めた。
「カイル、コイル、医務室まで運んでやれ。この状況じゃ医務室が使えるかもわからんがな」
「はっ」と2人が同時に返事をした。
ビスケット隊長についていた護衛の2人はカイルとコイルという名前だったのかと、僕は思った。
「それにしても、たった2人でこれだけのことを?」
ミラが口を開いた。
「そうですね。これだけの人数をたった2人で」と僕は言ったが、もし僕が体験したあの出来事が現実に起こった事で、あの白髪の男が2人のうちの1人なら、ありえると思った。
あれは人間でない。衛兵を殺したあの攻撃と常人離れした怪力。
話すべきだろうか。しかし、どう説明したらいいのかわからない。
「殺された衛兵達も決して弱いわけではない。厳しい訓練を乗り越えてここまで来ている。敵は恐ろしいほどの強敵のようだ」
ビスケット隊長が言った。
「それに、なぜ国王を連れ去ったのかしら?何か心当たりはありませんか?」
「わからん。国王という立場である以上、誘拐、拉致されるという危険は常に付きまとう。王宮を襲撃して連れ去るなど、聞いたことがない。敵国の陰謀という可能性もゼロではないかもしれん」
「敵国?クルハラですか?」
「いや、あの大国のクルハラがわざわざこんな回りくどい事をするとは思えない。可能性があるとしたら、隣国のローズマリー」
花の国ローズマリー。シシリアと共に大国クルハラの支配に抵抗している国。
「シシリアとローズマリーの関係は良好ではないのですか?」
「ローズマリーも我々と同様にクルハラと敵対してはいるが、敵の敵は味方というわけではない。シシリアとローズマリーも互いに牽制しあっていて、決して良好とは言えない」
「そうですか」
ミラは下を向いてしまった。
大陸を1つの国にする、とミラは言った。しかし、隣同士の国でさえ、敵対し合っている。その現実を目の当たりにしてしまったのだ。
「国王を殺さずに連れ去ったという事は何かしらの目的があるはず。すぐに国王の身が危なくなるということはないはずだ。まずは、情報を精査せねば。こんな場所では休まらんだろうから、君たちは町の宿で少し休んでいてくれ」
そう言うとビスケット隊長はどこかへ行ってしまった。
「とりあえず、宿に行って休みましょう」
「そうですね、そうしましょう」
町へ行くと国王誘拐、王宮での惨劇はすでに噂になっているようで、あちこちで聞こえた。
宿に到着したのだが、部屋が1部屋しか空いていないと言われた。
「そんな、どうにか2部屋確保できませんか?」
「今日はちょっと無理ねー。大丈夫よ、ベッドは2つあるから」
いや、そういう問題じゃ。
「いいじゃない同じ部屋で」とミラが即決してしまったので、2人でひとつの部屋に泊まることになった。
部屋に入るなり、
「はぁー疲れたー」と言ってミラはベッドに大の字になってうつ伏せに倒れ込んだ。
確かに疲れた、あんな事があったから余計に。
「ねぇナキ。あなた、あの時、何かあったの?」
ミラの急な問いに僕はドキッとした。
「あの時って?いつの事ですか?」
「国王の部屋であなたが倒れ込んだ時よ。あの時ね、ほんの一瞬だけど、あなたから物凄く強い魔力を感じたの」
やっぱりミラは何かに勘付いている。ミラになら話しても大丈夫だと思う。今、思い返せば、あの時見たものは殺された衛兵の記憶だったのだと思った。
しかし、不可解なのがあの記憶の中で僕の意識のもと行動していたことだ。
記憶の中の世界と現実の世界の区別ができないほどにリアルだった。
話そう、ミラには。
「ミラさん、実はあの時、衛兵の記憶を...」
と言いかけた時に違和感に気付く。
ミラが止まったまま動かない、まるで時が止まってしまったかのように。
数秒してから時が再び動き出したように、
「ねぇナキ。あなた、あの時、何かをあったの?」とミラが言った。
あれ?さっきと同じ質問?
どうなってる?
「実はあの時、僕は殺された衛兵の記憶が..」
まただ!またしても、ミラは時が止まったように動かない。
そして、
「ねぇナキ。あなた、あの時、何かあったの?」
また同じ質問を繰り返す。
これは、時間が戻っている?僕があの時の記憶の世界の話をしようとしたから?
他人には話せないってこと?僕はどうなってしまったんだ!これも魔人の力?わけがわからない!
「ねぇナキ、どうかした?」
「いや、なんでもないです。あの時も何もなかったですよ。本当にちょっとフラッとしただけで」
「そう、それならいいんだけど」
その日は、そのまま2人とも眠りに落ちた。
翌朝、僕たちは宿を出て王宮へ向かった。
王宮の中は入ると、僕達の存在に気付いたビスケット隊長の護衛の1人が慌てた様子でこっちへ走ってくる。
確かに、この人はコイルだ。
「ミラ様、ナキ様、気をつけてください。敵がまだこの王宮に潜んでるかもしれない」
「どういうことですか?」
「昨日の夜、医務室で治療を受けた生存者の衛兵が何者かによって殺された」
「なっ?!」
殺された?
「今朝、様子を見に行ったら、殺されているのを発見しました」
「その遺体を見せてもらえませんか?」
ミラの急な問いかけに、コイルは一瞬目を見開いたが、
「え、ええっ、構いませんよ」と言って案内してくれた。
医務室に入ると、3つ並べられたベッドのうちの真ん中のベッドにその遺体はあった。
胸の辺りを貫かれたような跡、あの時と同じだ。やはり、あの白髪の男がまだこの王宮内に潜んでいるのか?
ミラもその遺体をジッと見つめて、時折観察するように顔を近づけたりしている。
僕も少しだけ遺体に近づいてみたその時、
(いたっ、頭が、痛い!また、あの時の...)
意識が...
パッと目を開けると、そこには天井が見えた。僕はいつ間にかベッドの上に寝ている。
違う!これは、あの衛兵の記憶の世界だ。
また来てしまったのか?
この記憶の世界は、現実と区別ができなくなるほどに、やはりリアルだった。
まるで、記憶と現実の世界の狭間に迷い込んでしまったように。
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