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第5話 白髪の男...

 数時間かけて、飛空艇はシシリア王国に無事到着した。

 僕たちはビスケット隊長のあとを追って、王宮へと向かった。

 

 王宮に到着すると、僕はまずその大きさに驚いた。隅々まで手入れが行き届いているであろう広い庭園に、今まで見たことがないほどの巨大な建築物。

 奴隷のように暮らしてきた僕にとってはまさに正反対の世界だった。

 

 魔女に拾われたという不思議な成り行きとはいえ、まさか一国の王が住む王宮に足を踏み入れる日が来るなんて、埃まみれになって働いていた頃は想像もしなかった。


 しかし、王宮の中に入ると僕は思わず目を伏せてしまいそうになる。

 "惨劇"という言葉がこれほどに似合う場面を見たことがない。


 王宮に入ってすぐの大きなホールには、血塗れの死体が転がっている。パッと見た感じでも、10人以上。


「ひどい」

 ミラが呟く。


「くそっ、なんて事だ。私がいない間にこんな事になるなんて」ビスケット隊長が声を荒げる。そして、壁際に血塗れで座り込んでいる衛兵と思われる人の元へと歩いていく。しゃがんで覗き込んだ。おそらくすでに息はないだろう。


「何ヵ所も切り刻まれている」

 ビスケット隊長は立ち上がると、

「国王の部屋へ向かおう。その道中に生存者がいないか確認するんだ」


 ビスケット隊長のあとに続きながら歩いているが、未だに生存者は見つからない。

 その代わりにたくさんの衛兵達の死体。やはり皆、無数の切り傷があり多くの血を流している。


 生存者が見つからないまま、国王の部屋に着く。部屋の中にも2人の衛兵が倒れていた。国王を最後まで守り抜こうと、必死に抵抗したのだろうか。手には剣が握られている。


 ガタッ 物音がした。

 ベッドの下から?


 ビスケット隊長が皆を手で制して、ベッドの下を覗き込む。


「ひぃぃ、助けて。殺さないでー」

 甲高い叫び声が聞こえた。


「ビル爺。無事だったか」

 ビスケット隊長が言った。


「ひっ、はっ、ビスケット隊長」

 ベッドの下からもぞもぞと1人の老人が這い出てくる。


 その老人は、よっこいしょっと立ち上がる。もちろん、よっこいしょと言ったわけではないが、立ち上がる姿を見て僕がそう聞こえた気がしただけ。


 その老人はビル爺と呼ばれていて、国王の世話役らしい。恐怖のあまりずっとベッドの下に隠れていたようだ。


「ビル爺、一体何があった。国王は誰に拐われた?」


「はい、私は国王様と一緒にこの部屋にいたのですが、急に外が騒がしくなりました。そこら中から衛兵たちの叫び声が聞こえてきて、私と国王はベッドの下に隠れました。数分後には何者かが部屋の扉を開けて入ってきて、すぐに衛兵を亡き者に。そして、我々がベッドの下に隠れているのがバレていたのか、国王だけがベッドの下から引きずりだされ、そのまま連れて行かれました」

 ビル爺は項垂れたままそう語った。


「申し訳ありません。私は恐怖のあまり動く事ができませんでした」


「気にやむな、ビル爺のせいではない。それじゃあ犯人の顔は見ていないという事か?」


「はい、申し訳ありません」


 犯人が誰なのかわからない。犯人の顔を目撃したものはみんな殺された。それにこれだけの人数を殺したのだ。一体何人で襲撃して来たのだろうか。


「とにかく、他の場所も見て回って、生存者がいないかどうか。それと、犯人に繋がる手掛かりがないかどうか探しましょう」

 ミラが言った。


 僕は壁際で座り込むように死んでいる衛兵に目をやった。首のあたりを切られたのだろうか?血で全身が真っ赤に染まっている。

 何故だろう。僕はその衛兵から目が離せなくなる。

 するといきなり頭に激痛が走った。

 僕は頭を抱え込にながら、膝をつく。


(いたっ!急になんだ?頭が、割れるように痛い..なん..だ!意識が遠くなる)



 

 あれ?ここはどこだ?いや、ここは国王の部屋だ。しかし何か様子がおかしい。

 あの衛兵の死体はどこにいった。

 そして、今僕の前にいるこの男は誰だ?

 いや、違う。今目の前いるこの人はさっき死んでいたはず衛兵の男だ。

 なぜ生きている?

 

「国王様とビル様はとりあえず、ベッドの下に隠れてもらった」

 衛兵の男が僕に向かって言った。

 

 僕はこの状況を理解できず、言葉を返す事ができない。


 すると衛兵の男は

「緊張しているか?怖いよな。お前はまだ衛兵になったばかりだからな。俺だって怖いさ」

 ふっと笑みを浮かべたが、衛兵の男が手に持っている剣をぐっと力を込めて握りしめるのが見てわかった。


「万が一ここに来たとしても、命を賭して国王様をお守りせねば」

 今度は衛兵の男の顔に笑みはない。


 ぐわぁぁー!ダン、ドン、ドン

 悲鳴と共に激しい衝撃音が聞こえた。


 すぐそこまで、敵が来ている?

 僕は鼓動が早くなるのを感じる。


 コツ、コツ、コツ、コツ

 足音が近づいてくる。


 ドアノブがかすかに動く。

 衛兵の男が剣を構えた。それを見て、僕も反射的に構える。


 しかし、扉は一向に開かない。

 立ち去ったのか?


 ドォォン!

 轟音と共に扉が破壊され、その扉が衛兵の男に向かって飛んでいく。

 衛兵の男は飛んできた扉がぶつかり、そのまま扉の下敷きになってしまった。


 僕は部屋の入り口に目をやった。そこには、白髪の男が立っている。体格は細く、とても扉を吹き飛ばせるほどの怪力があるようには見えない。


「ねぇぇキミたち、国王ここにいるんでしょ?出せよ。ねぇねぇ」

 白髪の男が言葉を発すると同時に、衛兵の男が扉を跳ね除け、「うわぁぁ」と雄叫びを上げながら、白髪の男に斬りかかる。

 

 しかし白髪の男は剣を片手で受け止めて、そのまま刃先を掴んだ。


「ぐぅぅぅ、この化け物め」

 衛兵の男は力を込めて剣を押すがびくともしない。


「死ねよ」

 そう言い放つと、白髪の男のお腹の辺りから触手のようなものが生えてきて、衛兵の男の体を貫いた。

 体を貫通した触手の先は鋭い刃物ような形状をしていて、その切先から血が滴り落ちる。

 衛兵の男から力が抜け、まるで人形のようにその場に崩れ落ちた。


 死んだ?殺された。こいつは一体誰なんだ?こいつが国王誘拐の犯人?この状況もなにがなんだかわからない。一体どうなってるんだ。


 白髪の男がこちらに顔を向ける。

 人を殺す事に一切のためらいがないような、冷たい眼差し。僕はその眼差しに耐えきれず、白髪の男に斬りかかる。

 しかし、先程と同じように片手で剣を止められる。白髪の男が僕の首に手をやり、そのまま持ち上げた。


 ぐはっ....あっ..苦しい...


 僕は苦しさにもがきながら、白髪の男の髪を掴んだ。


「てめぇぇ、僕に気安く触れるんじゃあねぇぇ」

 白髪の男は怒り狂ったように僕を壁に向かって投げ飛ばした。

 僕の左手にはさっき掴んだ白髪の男の髪の毛が握られている。


 ダメ...だ 殺され...る

 

「じゃあな、お前も死ねよ」

 白髪の男がそう言った瞬間、何かが物凄い速さで僕の目の前を通り過ぎた。


 すると、僕の首元から大量の血が噴水のように溢れ出す。

 斬られた、首を斬られた?

 すでに体に力が入らず全く動くことができない。


 このまま、僕死ぬのか?


 意識...が...


 だんだんと闇の中に落ちていくように、目の前が暗くなり、僕は死んだ。

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