第1話 私は魔女、あなたは....
「おいっ、しっかり働け!だらしないやつだな全く」
建設作業場の見習いとして働いている僕は体力がなく、いつも親方に怒鳴られる。
全くさえない見た目の僕が怒鳴りやすいのか、毎日のように怒鳴られる。
怒鳴られるだけならまだいい。殴る、蹴るは当たり前。しかも、顔だけは殴らない。顔にアザが残ってしまうどうしても目立つ。
そうなると僕に対して暴力を振るっている事が王国の役人にバレてしまう。だから顔は殴らない。
頭は悪そうに見えるがなかなかずる賢いやつだ。
僕には家族はいない。ずっと1人で生きてきた。貴族の奴隷として、こき使われ罵られ、仕舞いには売り飛ばされ、別の場所でこき使われたりる。それの繰り返し。
この建設作業場にも、数週間前に売り飛ばされたばかりだ。一体何を作っているのかもわからず、重たい資材を運び、怒鳴られ、殴られる。そんな毎日の繰り返し。
しかし、王国管理の作業場なので衣食住は最低限保証されているのが、せめてもの救いだ。とりあえず、ここにいれば寝る場所もあるし、食べ物も貰える。
どうにか生きていく事はできる。
「おいナキ、また親方に怒鳴られてたな?大丈夫だったか?」
同僚のサクマに背後から声をかけられた。
歳は僕と同じ17で3年前からここで働いたいるらしい。
「あぁ、大丈夫だよ。いつものことだし。今日は殴られなかっただけマシだよ」
そう言うと、サクマは僕の肩をポンッと叩き、「まぁ頑張ろうぜ」と言って向こうの方へ行ってしまった。
この作業場で僕に気さくに話しかけてくれるのは、サクマだけだった。
サクマもこの作業所に来たばかりの頃は、よく怒鳴られ殴られていたらしい。
しかし、今はたまに怒鳴られることはあっても殴られているのは見たことがない。
新人に対しての通過儀礼みたいなものなのかと、耐えるしかないとそう思っていた。
その日の仕事を終えて、僕は与えられた宿舎の部屋に戻った。毎日過酷な労働なので、部屋に戻ると気絶したように眠ってしまう。
この日もいつものように、すぐ横になりウトウトしていると、
ドンドンドンッ
ドアを叩く音でハッと目が覚めた。
(誰だろう?こんな時間に)
僕はドアの前に立つと、誰ですか?と聞いてみた。
「おい、開けろ」
親方の声だった。
ドアを開けると親方と数名の作業員が立っていた。訪ねて来た理由を聞こうと思ったのだが、言葉を発する間もなく僕は顔を殴られた。
僕は後ろに倒れ込む。顔はまだ殴られたことがなかったので、少し驚いた。
「急に、なんで?」
「うるせぇ、お前絶対に許さねえからな」
親方のその言葉が合図だったかのように、数名の作業員が僕を部屋から引きずりだし、そのまま連れて行かれた。
作業場にある資材保管用の倉庫に連れてこられた僕は、数名の作業員と親方に何度も殴られ、蹴られた。
(一体、僕が何をしたっていうんだ...)
「てめぇ、俺の酒をよくも盗みやがったな」
(酒?なんのことだ?)
「しらばっくれるじゃねぇぞ!サクマの野郎がお前が俺の部屋から酒を盗んでるのを見たって言ってるんだよ」
親方はものすごい剣幕で怒鳴る。
「別に酒が惜しくてこんな事してるんじゃねぇ、物がなんであれ俺から盗みをはたらくってのが気に食わねぇ」
僕は親方と数名の作業員に殴られた続けた。その時に僕は思った。きっと僕はサクマに売られたのだと。
サクマは普段から盗み癖があるやつだった。酒や食べ物を盗んでは、僕に自慢するようなやつだった。
きっと自分の盗みがバレそうになって、僕に濡れ衣を着せたのだろう。
盗みを働くようなサクマでも僕は友達だと思っていた。なのに、どうして。
「親方、こいつどうします?こんなにボコボコにしちゃ役人連中に何を言われるか」
「ふん、作業員が1人減ったってヤツら気づきはしねぇよ。裏の山にでも捨てておけ」
僕はこの辺りまでの会話を最後に気を失った。
僕は目を覚ますと見覚えのない天井が。
辺りに目をやるも、知らない窓に壁、タンス、扉、そして裏山に捨てられたはずの僕は何故か知らないベッドで横になっている。
さらに、奇妙なのがあんなに暴力を受けたのにどこも痛くないし、怪我もしていない。
僕は体を起こし、記憶を辿ってみる。しかし、殴られて気を失ったあとの記憶はやはり思い出せない。
(あの後どうなったんだ?僕は裏山に捨てられなかったのか?)
ガチャッ
扉が開くと女の子が入ってきた。
「あら、やっと目が覚めたみたいね」
とても透き通るような声の女の子。年齢は僕と同じくらいだろうか?少し幼さが残る顔立ちの美少女。ピンク色の髪をなびかせて僕の方へ近づいたきた。
「んーー、その様子だと体の方は問題ないみたいね。よかったよかった」
その女の子は僕の目をじーっと見つめながら言った。
「あの、ここはどこですか?僕はなぜここに?怪我もしてないし、一体なにがあったんですか?」
「あーもう、質問が多い。だけど、ひとつひとつ教えてあげる」
女の子は白くて綺麗な足を組んで椅子に座ると僕がここにいる経緯を話始めた。
「まずあなたは、山の中でボロボロになって気を失ってたの。それを私が見つけて拾ってあげたわけ。そして、ここは私の屋敷ね。あなたが捨てられてた山よりもさらに奥にあるから、人は全く寄り付かない場所。あなたの怪我を治したのはその子よ。治癒が専門なの」
女の子が指を指す方を見てみる。
「その子?誰もいませんけど...」
「おい、どこを見てる、クソガキ」
ん?下の方から声がする。僕が下に目を向けると、そこには服を着たウサギがいた。少し大きめのウサギって感じ。しかし、二本足で立っている。
「えっ、ウサギ?喋ってる?君が僕の怪我を治してくれたの?」
「そうだよ、ウサギが喋るのがそんなに珍しいか?言っとくが俺は命令されたから治しただけであって、お前みたいなクソガキは嫌いだからな」
可愛い見た目をしてかなり毒舌なウサギ。
「こーら、そんなふうに言わないの。この子の名前はムース。私はムーちゃんって呼んでる。口が悪いんだけどとっても優しい子よ。この屋敷の執事。あっ、私の名前はミラ。あなたの名前まだ聞いてなかったわね」
「僕はナキです。ミラさん、ムースさん助けてくれてありがとうございます」
僕は頭をさげて礼を言った。
「なんだ、ちゃんと頭下げて礼を言えるじゃねえか。ガキにしては上出来だ」
やっぱり口の悪いウサギのムース。
「それで、エルフレアはなんであんな山の中に?」
僕は作業場で起こった出来事をミラとムースに説明した。
「なるほどねー。なんであなたはやり返さなかったの?力はあるはずなのに」
「やり返せるわけないじゃないですか。僕は1人で相手は数人いたし。力だってあるわけないし」
「あなたやっぱり自分でも気付いてないのね」
「気付いてない?何をですか?」
「あなたの中に魔人の力が眠ってるってこと。私は一目見てすぐに気付いたけどね」
「はっ?まじん?僕の中に?」
「そうよ。あなたの魔人の力、引き出してコントロールできるように私が教えてあげる。だから、あなた私の執事になって」
話が見えない。まじんのちからって何?いきなり執事になれって。でも、ここで執事になれば住む場所も困らないし、食うにも困らないかも。僕は足りない頭をフル回転させて考える。
「ずいぶん悩んでるみたいだけだ、あなたどうせ行くとこないんでしよ?」
僕の考えを見透かすようにミラは言った。
確かに行くとかなんてない。とりあえずここで執事として働くしかない。
「わかりました。ここで執事として雇ってください。こんな美人の執事になれるなんて光栄です」
僕は上段っぽく言ったつもりなのだが、
「急にびび美人なんて、いい言うんじゃないわよ。このバカ」
ミラは顔を真っ赤にして言った。
この人、褒められるのに慣れてなさすぎでしょ。ものすごく照れてる。
「とにかく!あなたが執事になる事は決まりね。さてと、じゃあナキの体もすっかり回復したみたいだし、行きましょ」
ミラが椅子から立ち上がる。
「へ?行くってどこに?」
「決まってるでしょ。あなたをボコボコにした連中と、あなたをそいつらへ売ったサクマって奴に仕返ししに行くのよ」
「ちょっと待ってくださいよ。仕返しなんて、返り討ちに合うだけですよ」
「大丈夫よ。私強いから。だって私、魔女だもの」
魔女?魔女って確か500年以上前に滅んだんじゃなかったっけ?
「私は魔女、あなたは魔人。ふふ、最高の組み合わせでしょ?」
イタズラ好きの子どものように笑うミラを見て僕は可愛いと思ってしまったのと同時に、魔女に関わってしまった事への後悔が頭の中を巡っていた。
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