表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

ココミック星人シリーズ

【file5】ココミック・ラヴ

土曜の夜を越えて……日曜の朝はココミック

 どうして?


 どうしてケンジは電話に出てくれないの?





「どうしたんです? お嬢さん」


 カフェのカウンター席で涙が止まらないでいる私に、隣の席でアルコールを飲んでいた男性が声を掛けて来た。


『彼に……捨てられたみたいで……』


「信じられない! なんてヤツだ!」

 男性はわざとらしい口調でそう言うと、私を口説いた。

「こんな綺麗なお嬢さんを悲しませるなんて……! 慰めて差し上げます。ホテル行こうか」


『私、ココミック星人ですけど……』


 私が言葉を全部言い終わらないうちに男性は逃げ帰って行った。






 私が求めにいつまでも応じなかったのが悪かったの?


 身体だけが目当てだったの?


 それとももしかして、ケンジは気づいたの?


 私の正体に?


 ココミック星人は悪いことなの?


 私がその星の上に産まれたのがいけなかったの?


 どうしようもないじゃない!


 どうしてそのままの私を受け入れてくれないの?


 地球人のふりをして、あなたを騙してたのは悪かったと思ってる。


 でも、これは、愛では、なかったの?


 外見だけを理由にあなたは離れて行くの?


 信じてたのに……。




『ケンジぃ〜……!』


 私は夜の電柱の袂で吐いた。アルコールを飲みすぎて胃の中のものが全部下に降りて来て、下の口からオロオロと吐いた。上のお口からも下痢便がぶっしゅーと噴き出そうだったが、そちらはさすがにトイレまで我慢した。


 なんて気持ちの悪い身体。恨めしい、呪わしい。でもこの上下逆さまが私の身体。このままを愛してほしかった。


 スマホを取り出した。ダメだろうと思いながら、41回目の電話をかけてみる。


[はい]


 あっさり出た。


『ケンジ!』


[ロージー……。ごめん]


 謝らないで。


 私は彼に悲しい言葉を言わせたくなくて、隙間なく喋り続けた。


『ケンジ……。私が地球人じゃないって、気づいてしまったんでしょう? 私、子種なんていらない。あなたの側にいられたら、それだけでいいの。本当よ。セックスさえしなければ、私の身体が地球人と実は違うことなんて、どうでもいいでしょう? 本当の顔はパンツの中にあって、顔に見えるものが実はお尻だなんて、どうでもいいでしょう? お願い……。側にいさせて』


 私は涙で言葉が詰まってしまった。私のパンツはもうグショグショだ。その隙間に、電話の向こうから、知らない女の声が、『早く子種をくださいましっ』と聞こえてしまった。


 私のお尻がばっと上がり、彼に聞いた。

『……誰か、一緒にいるの?』


[あ……いや……]


『今の台詞……。私の同胞よね?』


[その……]


『浮気……してるの?』


[ごめん!]

 ケンジは遂に打ち明けた。

[俺……、おまえのことが好きなんじゃなくて、本当は、ココミック星人が好きだったんだ!]


 私は声を失った。


[たまらないよ、このフォルム! こんな綺麗な顔してるのに、本当はこれが顔じゃなくてお尻だなんて! 美しい髪は実は全部陰毛だなんて! 本当の顔はパンツの中にあって、しかもとても醜いだなんて! とんでもなく俺好みだ!]


 私の顔がぱあっと輝いた、もちろんパンツの中で。


[白状するよ! 実は俺、君がココミック星人だって最初から知ってたんだ! だから近づいたんだ。騙してたのは君じゃなくて、俺のほうだったんだ! ごめん!]


『許さない……』

 私は涙まみれのパンツをタプタプ言わせて、歓喜の表情に染まったお尻をぷるぷる震わせて、言った。


[見た目超美人なのに、実は、みたいなギャップがたまらないんだよ!]

 ケンジは私の話なんて聞いてなかった。それほどまでにココミック星人が好きなのね。


『許さない!』

 あたしは電話を勢いよく切った。


 あたしは立ち上がった。夜空に眩しくココミックの母星が輝いていた。そんなに好きだったんだ? なら、隠す必要もない。むしろ全開で本性を見せてやるわ。


 あたしはそれまで両腕だけで立っていたのを両足も地面についた。履いていたパンプスは脱ぎ、肛門にくわえた。知ってた? このほうが劇的に速く移動できるのよ?


 あたしは夜の街を、この星でカニとかエビとか呼ばれている生物のように、素速く走り出した。母星では【カビのように美しい】と形容される走り方だが、地球人から見たらとてつもなく気持ち悪いのだろう。


 待ってなさい、浮気相手さん。お尻相撲で追い出してやるわ!


 待ってなさい、ケンジ。あなたは私1人に子種を注ぎ続けるのよ。それこそ永遠に。あなたが大好きなココミック星人は私1人だけでいい!


 心に深くそれを刻み込んであげるわ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なんだこれは(なんだこれは) ココミック星人が当然存在しているものとして描かれる筆致がよかったです。 [気になる点] ケンジ、浮気相手の前で堂々とそんな電話をしてだいじょうぶか…?笑
[一言] かわいくておかしくてシュールで 1周回ってやっぱりかわいい!! この魅力 魅了されます!!(#^.^#)
[良い点] 星花 愛さまの割烹より参りました。 めちゃくちゃ面白かったです〜!! まさかココミック星人がそうだったなんて思いもしませんでした( *´艸`) シリーズという事はほかにもお話があるのでしょ…
2021/12/12 22:50 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ