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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第六章「降臨、天の使者」
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「降臨、天の使者」part14

「はは。楽しそうに見て回っちゃって。仔犬みたいっすねぇカワイイんだから。ゆっくり見てくださいな」

「ありがとう!なるほど、ここにディスク入れればいいのか。ネットはそのまま使えるから、サブスクでも見られると。電源がここで、あ、プロジェクター動いた。へへへ。ここを押せばスクリーンが上がる、ふんふん」


 自分でも気持ち悪いくらいにへらへらと独り言を言っている。だが到底止められない。


「ふふふ。とにかく、邪魔しませんから今夜は思いっきり楽しんじゃってくださいな。つまり、そうっすね、トールくんが好きなアレっすよ。キミは流星だったりレーシングカーなんす。ゴダイヴァ夫人みたいに突っ走っちゃってください。生きてる感じするでしょ?アラァ(Ali)、アァ、アァ、アァイヴ(ve)


 一瞬何を言っているかわからなかったけど、今のは俺の好きなバンドの曲をネタにした冗談か。


「ああ。今の俺は体温200℃で空を突き破るぐらいに燃えてるよ」


 俺の返しを受けて天ちゃんがニヤリと笑う。


「ちゃんと伝わってなによりっす。エクスタシーに酔いしれましょうや。ハヴィングッタイム!ハヴィングッタイム!」


 気持ちよさそうに小気味よく歌い出した。やはりあの歌だったか。発音良くて羨ましいな。

 天ちゃんは軽い気持ちで冗談を言ったのだろうが、さすがに申し訳ない気がしてきた。とりあえず俺がリクエストしたものは出来上がったのだし、まずは風呂に入って休んでもらうべきだろう。


「天ちゃん、ありがとう。そろそろ上に戻ろうか」

「あら?もっとゆっくり確認してていいんすよ?」

「いや、昼から働き続けて疲れただろう?俺もちょっと疲れてるし、ここの確認は夕飯の後にでもゆっくりやるよ。今は天ちゃんにゆっくり休んでほしいと思って」

「あらー、本当に気にしなくてよかったのに、催促したみたいになっちゃったっすね。んじゃ、すんませんがちょいと休ませてもらいましょう」


 天ちゃんは今夜我が家に泊まるわけだし、何か不備があれば明日にでも言えばいいだろう。俺たちは部屋の出口に向かって歩き出した。それこそ映画館にあるような大きな扉を前にして俺は足を止め、手に入れたばかりのホームシアターを振り返って見る。本当に感動だ。


「気に入ってもらえたみたいでよかったっす。今度、手前も一緒に見させてもらいましょうか」

「ああ、もちろん歓迎するよ」

「キューブリックの遺作をこの大画面で!」

「それはダメだ」


 アレってたしか成人映画扱いじゃなかったっけ。どんな顔してオリサたちと座ればいいんだよ。


 天ちゃんの提案をバッサリ切り捨てて扉を押した、だが大きな扉は動かない。壁に手をついているかのようだ。


「ん?んん?」

「どうしました?」


 俺の様子を見て天ちゃんも不思議そうな顔をしている。おかしいぞ、この扉。重い、というか動かない。


「これ、なんか動かないんだけど。最初に2,3センチくらいは動いた感覚あったけど、急に重くなったというか引っかかったというか。なんだろう、なんか固まった感じがする」

「ちょ、ちょっと一緒に押しましょう。せーの、ふんんんんぬぬぬぐっ!あれ、ダメっすね……」

「どうしたんだろう?入ってきたときは問題なかったのに」


 先ほどは何も違和感なくスムーズに開け閉めできたが、二人で思い切り押したのに扉はびくともしない。


「あー……、すんません、トールくん、たぶん手前のせいっすわ……」

「はい?」

「あのですね、ずっと張り切って施設を作ってけっこう力使っちゃったんですよね。お家に着いた段階でリーフちゃんのご要望で何度も厩舎とか器具とかあとなんだっけ、でっかい冷凍庫、なんか動物の冷凍精子を入れてるとか、そんなものを用意してたわけですね。その影響で実は神様言うところのゴッドパワーが枯渇状態だったんす。で、この部屋の中に集中してたのもあって入口ドアはちゃちゃっと作った結果……、建付けが悪くて開かないんじゃないかなぁと。あの、地震でドアが歪んじゃって開かなくなるって防災の授業で勉強したでしょ?それをイメージしてください……」

「要するに、最初からだいぶ疲れてたけど頑張った。中の設備に集中したけどドアは粗末な作りだったから、一度開け閉めしたら歪んじゃった。結果、ドアが行くも帰るもできない状態になっちった。えへ。と。欠陥住宅やないかい!」

「ごめんなさいぃぃ!」


 いや、まあ、そもそも俺たちのために頑張ってくれた結果だから彼女を責めるのはお門違いも甚だしいわけで。


「いや、いいよ、ツッコんだものの気にしてないから。そんなになるまでがんばってくれてありがとう。ルルが気づいてくれたら何とかなると思うんだけど。とりあえず、それまで座って休んでようか」


 そう言ってそれぞれソファーに腰掛けた。身体が適度に沈み込む。なかなかの座り心地。寝転んだらすぐに眠くなってしまいそうだ。


「なんか本当にすんませんね。しょんぼりっすわ。もうちょい尊い存在でありたかったんすけど」

「そう?少しくらい失敗するほうが親近感が湧いていいと思うよ。ああでも、君の上司はもうちょっと威厳があったほうがいいだろうけどさ」


 たしか最初に会った時、彼女は神様に威厳がないことを嘆いていた。


「ああ、それはホントにそう思います。もう、なんであんなにお調子乗りなんでしょうかね、まったく」


 よかった。だいぶ落ち込んでいた様子だったが、共通の知り合いを肴にして元気が出てきたようだ。神様には悪いが。

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