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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第六章「降臨、天の使者」
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「降臨、天の使者」part10

 弁当のバスケットに始まりレジャーシートまで一通り片付けたので、帰る準備は整った。


「さて、そんじゃトールくんのお家へ行きましょうか」

「リーフ、さすがに馬に三人乗りは無理があるよね?」

「ああ、お構いなく。皆さんの馬の近くを飛んで行きますから。パタパタと」


 翼のサイズ的に『バッサバッサ』といった印象だが。


「自由に飛べるのは楽しそうだな」

「ルルちゃんも一緒に飛んでみますか?背中にどうぞ」


 そう言って天ちゃんはルルに背を向けてしゃがんだ。

 羽が飛び出るからなのか、シャツの背中には縦に一対のデカい穴が空いていた。そこから紫色の下着も見える。実はシャツが白いせいで出会った当初から透けていたのだが、もう少し恥ずかしがってくれないかな。絵画の中の天使みたいに全裸じゃなかっただけ安心するべきなのだろうか。


「い、いいのか?……では、失礼する」


 ルルをおんぶする形で立ち上がると先程同様、天ちゃんの背中から大きな翼が現れゆっくりと離陸した。


「そんじゃ、手前はとりあえず馬がいるところに先回りしてますんで、お三方はゆるりとお越しください」

「お、おおおお!た、高い。ひゃああっ!は、はやああァァい!!」

「なんか不穏な声が聞こえてくるぞ」


 あれは飛行体験に感動しているのか悲鳴を上げているのか、どちらとも判断し難い。


「いいなぁ、次はあたしも乗っけてもらおうかなぁ」

「怖そうなんで俺は遠慮しとく」

「あ、でも馬に乗れるのってあたしとリーフちゃんだけなんだよね」


 俺はまだ『乗れる』とは言えないということだろう。


「でしたらわたくしとルルさんが同じ馬に乗り、トールさんには独り立ちしていただきましょう」

「マジか。リーフ先生、案外厳しいな」

「ふふ、常に並んで歩きますから心配なさらないでください」


 想像よりずっと早く仮免期間が修了した。リーフに教えてもらったことをフル動員して無事に帰れるようがんばろう。


  ・・・・・・・・・・・・


「いぃぃやっほうぅぅ!!すっごおぉぉい!サイッコーに気持ちいいよぉっ!」

「お褒めに預かり光栄っす!まだまだ飛ばせるっすよぉ!」

「イェーイ!」

「あんな速度であれほど高くまで行って、なぜ楽しいと思えるのだ……。オリサ、只者ではないな」


 単に絶叫マシンとか好きなタイプの人種なだけだと思う。


「ルルさんは疲れてしまいましたか?」

「ああ。空を飛ぶよりいいが、馬も不安だ。わたしはやはり地面に足が付いていたほうが安心する」


 やれやれといった表情でため息をつく。俺もどちらかというとそのタイプなので気持ちはわかる。


「だが、今はリーフの腕の中なのでだいぶ安心だ」


 そう言ってルルは背後のリーフにもたれかかった。


「あら、お上手ですこと。うふふ。トールさん、一人での乗馬はいかがですか?」

「今のところは順調だね。馬に乗っているというよりは、乗せてもらってるって感じだけど」


 どうにも馬を操っている感じはしないんだよなぁ。


「それでいいのですよ。馬を意のままに操ろうなどとは考えてはいけません。上下関係をつくるわけではなく仲良くなる、そして乗せてもらう。それで十分なのですよ。わたくし達はこの子達に乗っているのではなく乗せてもらっているのです」


 まるで俺の心を見透かしたような注意だ。初心者が考えがちなことなのかもしれないな。


「わかった。忘れないように気をつける」



 帰りはあっという間だった。下り坂が終わり平坦な道にたどり着いたらリーフ指導の元で速歩(はやあし)の練習なんかもやってみた。やってみたというか、問答無用でやらされたというか……。

 高所恐怖症というわけではないけど、動く馬の上で尻を浮かせて(あぶみ)に体重を乗せるって思いの外怖いもんだ。初めはビビってしまったが、リーフ言うところの『乗せてもらう』を意識したら思いの外安定して歩くことができた。おっかなびっくり実行するのが一番危ないというのがなんとなくわかった。

 乗馬というものはなかなかおもしろいかもしれないな。もっと上手に乗りたい、長い距離を移動したい、そんな欲が芽生えたのを感じた。


「いやー、楽しかったぁ!」


 動物小屋に併設された放牧場に降り立ち、大きく伸びをしながらオリサは満足げな顔をしている。


「あれほど高く速く移動していたのになぜ楽しそうなのだ」

「え?楽しかったからだよ?」


 寝床に戻った馬たちに餌をやりつつ、オリサが不思議そうに聞き返す。本当に楽しかったんだろうな。ルルには到底理解できないだろう。


「トールくん、ちょっと大事なお話が」


 大きな羽が身体に吸い込まれたと思ったら天ちゃんが俺の下に駆け寄ってきた。


「な、なに?」


 オリサたちに聞かせないよう、俺の耳元に口を近づけて話しかけてくる。上空から見て何か異常でも見つけたのだろうか。


「さっきオリサちゃんを背中に乗せて飛び回ってたでしょう?」


 天ちゃんの吐息が耳にかかる。得も言われぬ心地よさが背筋をゾクゾクと撫でる。


「あ、ああ」

「オリサちゃん、キツく抱きついてきたからですね、へへへ、当たるモノが背中にギュギュッと当たって素晴らしかったです。羨ましいでしょう?オリサちゃんって着痩せするんすね。知ってました?想像以上のボリュームに感動しました」

「お前は何を言っているんだ……」


 どんな大事な話だろうかと緊張して損した。


「ねえねえ、知ってましたぁ?」

「うざ!知ってたわ!」

「さっきから何の話してんの?」


 大きな声で突っ込んだせいでオリサが会話の内容に興味を抱いてしまった。


「いま話していたのは、オリサさんが意外と……」


 リーフが参加してくる。まてまてまてまてまて!


「やめい、地獄耳!小声で話していたことは聞いても聞かなかったことにしなさい!」


 天ちゃんを見ればそれはそれは楽しそうに笑いをこらえている。まんまとハメられた。


「ねえ、あたしが意外となんなの?」

「オリサちゃんって意外と肝が座ってるなと思いまして。あんなに激しく飛んだのにずっと楽しそうでしから」

「うん、楽しかった!また乗せてね」

「ええ、喜んで。手前も大変『良かった』ですよ」


 そう言って自分の背中を擦っている。その辺りに押し付けられたんだぁ、へぇ……。そうじゃない!この天使、どうにも男臭いやつだな、まったく。


「着痩せするの知ってたんすね。えっち。どういう経緯で知ったか、あとで教えていただきましょうかね。ひっひっひ」


 神様とは違った意味でめんどくせえやつだ。

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