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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
プロローグ & 第0章「最後の一人の地球人」
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「最後の一人の地球人」part8

「えっと、はじめまして。馳透です。これからどうぞよろしくお願いします」

「では、わたくしから失礼いたします」


長身で金髪碧眼(へきがん)の美女が、胸に手を当て会釈をしながら他の二人に確認した。二人も静かに頷く。

あ、縦に頷くのはみんな肯定なんだな。


「はじめまして。わたくしはエルフ族のリーフです。この世界のことはまだ何もわかりませんので、どうぞいろいろお教えください。こちらこそよろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いいたします」


 エルフ?ファンタジーの代表例だ。確かにそう言われてみれば流れるブロンドヘアーの隙間から見える耳の上端は人間より少し尖っているようにも見える。よく漫画で描かれるような極端な鋭さではないが、やはり人間とは身体の構造が少し違うのだろうか。疑問に思ったが、あまりジロジロ見るのは悪いと思い目をそらした。


「次はわたしだ。わたしはルル、ドワーフ族だ。これからよろしく頼む」

「こ、こちらこそよろしく」


 だから背が低いのか!話し方は外見と正反対だけど。

 ドワーフといえば鍛冶や宝石の加工に長けるイメージがある。ファンタジー作品だけの話かと思ったけど、真っ先に地面を気にしていたのも種族的に気になるのかもしれない。

 あと、昔見た映画ではドワーフは女性でも髭が生えてるって言ってたけど、この子は違うらしい。よかった。


「んじゃ最後はあたしね。あたしは『常磐色ときわいろのオリサ』。魔法使いだよ。よろしくね!」

「ああ、よろしくね」


 『常磐色』?どういう意味だろう。この元気娘は人間ではなく魔法使いらしい。だから杖を持っているのか。

 そして、魔法使いは頭脳労働がメインでもっと物静かなイメージを勝手に抱いていた。だめだな、これは偏見だ。気をつけなければ。どんな魔法が使えるのだろうか。早く見せてほしいところだ。


「これでお互いに自己紹介は済んだな。あとはそなたら自身ですべきことを考えるといいだろう。もう社会も経済も法も罪も罰も無いと言って良い。わしはそなたらのことを遠い地より見守っているぞ」

「あ、あの」


 俺は気になることがあり手を上げた。


「ちょっといいですか」

「なんじゃ?」


 俺は神様のローブの袖をつまんで移動を促す。


「ごめん、ちょっと待ってて」

「承知しました」

「わかった」

「へいへーい」



 三人娘から離れた、声が届かない程度の位置へ誘導。


「あの、神様」

「なんじゃね」


 どう言えばいいのか。ここは隠さずストレートに聞くのが一番いいか。異世界からの来訪者たちが全員女性ということで頭に浮かんだ疑問を、俺は神様に正直に告白することにした。


「結局の所ですが、あの、俺はですね、彼女たちと、ですね。あの、子どもを、その、つくれば、いいのでしょうか」


 言ってしまった。恥ずかしくなってしまい、次第に小声になっていくのが自分でもわかった。視線も神様の足元の辺りに沈んでいく。

 でも実際問題、子孫を残さなければこの世界も神様も終わりなわけだし。

 大学で彼女ができる可能性も永遠に0になってしまったわけだし。

 わけだし、わけだし。

 しかも転移してきた人々は美女三人ときたもんだ。まさかのハーレム。もともとそんなことを望むようなチャラチャラした人間ではなかったが、この状況は多分そういうことなんじゃないだろうか。神様もきっとそのつもりで女性だけを呼んだのだろう、きっと。

 一人だけ、子作りとか考えたらいろいろヤバそうなちびっ子もいるけど、そのあたりはどうなってるんだろう。希望的観測すぎるだろうか。いいだろう、このぐらい考えたって。

 なんか俺、さっきから異様に早口で考え事をしているような気がする。やっばい、今の俺、どうしようもなく気持ち悪いな。いや、いいでしょう、お年頃だし。

 こちとら十八年間彼女なしの童貞だ。


『せいてきなことを

 かんがえたって

 いいじゃないか

 どうていだ

 もの

      とをる』


 視線を落としたままの俺は神様から『左様』の声が耳に届くのを待っていた。


「……え?」

「え?」


 神様の足元に落ちていた視線を上げ、お互いひどく困惑した表情で見つめ合ってしまう。


「そういう年頃なのはわかっておるが、お主は何を言っとるんじゃ?この状況でさかるとは逞しいもんだが……」

「え?」

「言ったろう。お主はこの世界で彼女たちと生きるのだと」


 それは聞いている。間違いなく。


「あの、でも、いずれ俺は死にますから子孫を残さないと、俺が死んだときこの世界もなくっちゃいますよね」


 病気知らずで元気に生きても平均寿命で考えればあと七十年弱。さっき10億年を誤差と言っていた神様には瞬きぐらいの速度ではなかろうか。


「まぁ……そうだな」

「だから、女の子を三人も転移させて、子孫を残して、当面の間この宇宙の消滅を防ぐのが目的じゃ?」

「あー……」


 これは、どう見ても欠片ほどもそんな考えはなかったご様子だ。


「あれ。てっきり『産めよ、増えよ、地に満ちよ』的な感じなのかと」

「とりあえず言っておくとだな、君たちは異種族なので子どもは残せないぞ」


 死んだ方がマシなぐらい恥ずかしい早合点(はやがてん)をしていた。俺ダサすぎ。


「いやいやいや、せっかく彼女たちを呼んだのにそんなことで死なれたら困るぞ」

「じゃ、じゃあ、俺と同じ人間の女性を異世界から呼び戻すとかすればよかったんじゃないですか?」

「え!」

「え?」


 このじじい、本気で驚いた顔をしてやがる。


「お主、天才と言われないか?」

「ぶん殴っていいすか?」

「まあ、異なる世界の神たちが手伝ってくれたとはいえ、今しがた彼女らを呼び寄せるのにわしも力を大幅に使ってしまったからな。他にもいろいろなところで力を使っているし。人間を呼ぶにしても当分は無理じゃろう。それでは少年よ、辛い状況ではあるが絶望せずにがんばるのだぞ。ヘストン似のこの神様が遠い地から見守っておるからな。頑張っていればたまには見に来る。では、さらばだ」


 そう言って神様は大いに慌てた様子で光の粒子となって天に消えていった。

 こうして、俺の『普通』の日々は唐突に終わりを告げた。


元ネタ集


・「せいてきなことを かんがえたって いいじゃないか どうていだ もの      とをる」

ご存知相田みつをの詩『つまづいたっていいじゃないかにんげんだもの  みつを』

ご遺族様がお怒りならばすぐに消す所存です。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] コンビニで、人がいない事以外には不便?は無いようです。 電気、ガス、上下水道は、なぜか使える世界なのかな? この様子なら、更新はされないけどネット上の情報は見られる仕様かも知れない。 …
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