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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第六章「降臨、天の使者」
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「降臨、天の使者」part4

「ここがゴール?」

「正確には、ゴールはこの後行くお寺だけどな。ここに馬を繋ごうか」


 かつての世界では週末に首都圏や近隣の地域からも観光バスが来るほど賑わっていた駐車場は、今やただの開けた空間が広がるのみだ。ポツンと建つ薬膳中華料理店の建物がなんとも寂しい。ここの料理美味かったなぁ。もう食えないのか……。リーフに手伝ってもらって練習して、また食べられるように頑張ろうかな。

 リーフは俺やルルが馬から降りるのを手伝い、一足先に下馬したオリサは手際よく持参した牧草や水を準備している。


「よく頑張ったわね。ありがとう」


 そう言って嬉しそうに馬を撫でるリーフの姿は神話から出てきた女神そのものだ。


「楽しそうだな」

「うん、リーフちゃんと動物っていつ見てもさまになるよね」

「俺も同じこと思ってた」

「ふふふ。……うふふふ」


 リーフと馬の様子を眺めていた俺達は、彼女の目に妖しい光が差したのを感じた。


「な、なんか嬉しそうだな?」

「ふふ、そろそろ次の子を美味しくいただく頃合いかと思いまして。この子達を見つめると涎が止まりません。ああ、申し訳ございません。わたくしとしたことがはしたない。ふふふ。エルフの誇りにかけて美味しく食べてあげなければいけませんね。うふふふ」


 ああ、なるほど。上機嫌で馬と触れ合っていたのは馬たちの身体の様子を確認していたからなのか。

 リーフの動物への愛情は本物だ。心を通わせて動物たちとコミュニケーションを取るときの嬉しそうな笑顔も、動物たちと触れ合っている時に見せる優しい笑顔も本物だ。

 だが、リーフはそんな家畜たちを解体して食べることに何のためらいもない。解体も加工もすべて一人でこなしてしまう。あまつさえリーフは野菜嫌いで、オリサが丹精込めて野菜作りをしていることも承知の上で野菜を『草』と呼んで憚らない。

 なお、リーフがいたエルフの森は皆ベジタリアンだったそうだが、その環境にあってなぜ『美味しく食べてあげる』というエルフの誇りがあるのか、気になるけど尋ねる勇気はない。


「我が家に馬がやってきた少し後、馬刺しをお出ししたのは覚えていると思いますが、あのときの子は『デニー』です。それにトールさんが乗っていたこの子は『サイ』、オリサさんとルルさんが乗っていた子は『ガス』といいます」


 名前もしっかり付けてるんかぁ。なんでそれで躊躇なく捌いて食えるんだよ。メンタルがタフすぎる。そうか。あの馬刺しは『デニー』だったのか。知らんよ。今まで怖くて聞けなかったけど、こいつらみんな名前あったんだ。

 馬刺しはリーフの大好物。我が家に馬が来たのがよほど嬉しかったのか、食肉加工場が整い、解体方法も予習し、しばらく出かけていたルルが帰宅したらいざ実践となり、我が家の食卓には連日桜肉が並んだ。馬刺しを筆頭に、馬肉ハンバーグ、馬カツ、ホースステーキ、ホースカレー、ホースシチュー、しゃぶしゃぶ等々。家族四人で消費するには馬の身体というのはあまりにも大きすぎる。細身のオリサも小柄なルルも二人とも外見に反してよく食べるとはいえだ。そのため、しばらく食卓には馬肉が並び続けた。馬肉に憧れていたリーフ本人はともかく、馬肉に慣れていない俺たちは何とも言えない食卓を過ごした。

 リーフの名誉のために言うと、彼女の料理の腕前は非の打ち所がない。食中毒予防にと馬肉をしっかり所定の時間冷凍してくれた。そんな必要があるなんて知らなかったけど、しっかり予習しておいたらしい。このように、あらゆる面で手間を惜しまない姿勢も素晴らしいし味も最高だ。

 とはいえ、やはり連日同じ種類の肉は飽きが来るものだが

『美味しいです、本当に美味しいです。わたくしはいま人生で最も幸せです』

 と滂沱の涙を溢しながら肉を口へ運ぶ姿を毎食のように見せられたら誰も何も言えなかった。千年以上生きている中で今が一番幸せとまで言われてしまったのだ。だれもリーフを止めることなどできない。


「オリサ、ちょっと疲れてるな?あっちの方は眺めがいいからルルと行ってきたらどうだ。リーフの手伝いは俺がやるから」

「あ、ありがとうトール。行こう、ルルちゃん」

「ああ……。そうだな」


 露骨に元気がなくなってしまったオリサをリーフから遠ざけてやる。オリサはリーフが本性を表した際、説明不足のリーフに解体されると思って取り乱していた。その影響か、今のような肉が絡んだときのリーフの笑い声を聞くとトラウマを強く刺激されるようになってしまったのだ。

 リーフ自身は欠片ほども悪気はない。それは俺もオリサもルルも十分に理解している。それでもやはり、コミュニケーションが取れる相手を解体し、歓喜の涙と共に食べる姿はやはり怖いから仕方がない。よく気の利くエルフなのだがなぁ。いいやつだし、みんな満場一致でリーフのことは大好きなんだけどなぁ。

 ここらへんに関しては、オリサとルルが俺と同じ価値観の持ち主であって本当に良かったと思っている。

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