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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第六章「降臨、天の使者」
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「降臨、天の使者」part1

今日もいい天気だ。陽の出ていない時間はまだ寒いが昼の気候は多少温暖になり、太陽の輝く時間も以前より着実に長くなってきた。夜も寒いと言えど真冬ほどではない。

 俺の生活環境が一変して一月半。畑の巡視という名ののどかな散歩が終わり、俺と家族はそれぞれの時間を過ごしている。俺のようにテーブルに牛乳を並べる者、黄金の髪を一纏めにして料理する者、小さな体でそれを手伝う者……。


「お待たせしました。もうすぐ朝ごはんできますよ」

「待ってました!魔法を使ったからおなか空いたよー」


 食事が目の前のテーブルに運ばれて来るのを待つ、食べる専門の者。皿洗いくらいはやってくれるけど。


「早く食べたいなら料理を運ぶのを手伝え」

「やっぱ魔法って腹減るんだな。あんなすごい力なら仕方ないか」

「うん、いま考えたんだけどね」

「おい、このやろう」

「使って疲れるなら魔法って言わないじゃん。この世界の人達は魔法をそういうものだと思ってるみたいだけどね。変だよねぇ。そんなわけで、トール運んでー」

「しょうがねぇな」


 甘やかしすぎだろうか。まあ大した仕事じゃないし、いいだろう。


「今日は肉のサンドイッチか。いいね。美味そうだ」

「パストラミビーフのサンドイッチです」

「パス、パスっと……」


 聞いたことのある名称だが、一度も発話したことのない言葉なのもあり噛んでしまった。


「パストラミだよ。トールの世界にもあるんじゃないかな?」

「懐かしい。わたしやリーフの世界ではよく食べられている燻製だ」

「みなさんのものはなんと草、失礼、レタス入りです!」


 調理担当者が定位置に着席しつつドヤ顔をする。前に一度食ったけど、肉だけのサンドイッチって案外食べながら飽きるんだよな。まあリーフに何を言っても無駄だろう。あといい加減、野菜の名前を言う前に『草』って言うの止めてほしい。失礼と思うならなおさら。


「美味しくできていると良いですが。さあ、召し上がれ」

「「「いただきます!」」」


 薄切りにした燻製の牛肉が何層にも重なっている。その歯ごたえと食べやすさの絶妙な加減が心地よい。レタスだけでなく、肉の間には細かく刻んだピクルスも少量入っているらしく、味の緩急とでも言うか、食感も味も間延びせず最後まで楽しむことができるよう配慮されていた。


「リーフ、手間じゃなかったらこれまた作ってよ!めちゃくちゃ美味いよ」

「お褒めに預かり光栄です。もちろん燻製はたくさん作ってありますから、明日の朝食もこちらにしましょう。ふふ、トールさん、お替りをお作りしますね」

「え、ありがとう。……そ、そんなに物欲しそうな顔してたかな?」

「ええ、お二人揃って」


 立ち上がりながら楽しそうに説明するリーフの言葉の意味がわからず、隣に座るオリサに顔を向ける。


「へへへ」

「人のこと言えないけど、食べるの早いな」

「リーフちゃんのご飯を前にしたら誰でも無力になっちゃうんだよ」

「確かに」

「作り手としましては、たくさん食べていただくのは大変嬉しいです」

「わたしはこれで十分だが、もっと身体が大きければ食べたかったな」

「ふふふ、ありがとうございます」


 リーフの作る料理にハズレ無し。今日も気分良く一日が始まった。


「今日は何しよっか?」

「家畜の世話」

「それはわかってるよ。なんだかんだでリーフちゃん手際いいから、午前であっという間に終わっちゃうじゃん?午後は何するのかなって思って」

「まあ、オリサの言うことも一理あるな。そういえばトール、前から気になっていたことがあるんだ」

「なんだ?」


 好奇心の強いルルからの質問。答えられる内容だといいのだが。


「畑や厩舎の辺りから山を見ると、何か建物があるようなのだが、あれは何だ?」

「建物?あのケーブルが伸びてる高い骨組みみたいなやつ?」


 名前は知らないが、電気を送るためのあの塔だろうか。ルルには見慣れないものだろう。


「それは送電鉄塔だろう。いくらでもある見慣れたものを今更聞かん。それじゃなくて、茶色い屋根の家のようなものだ。ここからはっきり見えるということは、それなりに大きいのではないかと思う」


 気を使ってわかりやすく話したつもりが一蹴されてしまった。山間(やまあい)にある建物というと、おそらくは寺だろう。あと、あの電柱のデッカイやつって『送電鉄塔』って言うんだ。知らなかった。


「それならたぶんお寺だな。あの辺りはそれしか建物がないはずだし」

「お寺……宗教施設ですか。どのような場所なのか少し気になります」


 リーフが宗教施設に興味があるとは意外だった。


「リーフは宗教に興味が?」

「いえ、宗教そのものはあまり。ですが、そのような施設の静かで厳かな雰囲気が好きなのです」


 そういうことであれば、確かにリーフの雰囲気にはよく合っているように思う。

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