「一人の世界、一つの家族」part10
新しい朝がきた。
いい雰囲気で目を閉じたわけだが、結局その後もなかなか寝付けなかった。理由は単純明快。オリサと手をつないだことで猛烈に緊張してしまったのだ。
ここ数日オリサやルルと手をつないだり一緒に寝てもさして緊張しなかったのは、緊張もできないほどに俺の心が疲弊していたからなのだろう。心が満たされてストレスがなくなったのだと思うが、今度は大幅に緊張するようになってしまった。あちらを立てればこちらが立たずということか。
オリサの手が温かい。
やわらかい黒髪からシャンプーのいい香りがする。
穏やかな寝顔がかわいい。
これで緊張するなというのが無理な話だ。
信頼してても、男の隣であんなに無防備に寝るなよ!嬉しいけど。
「トール、起きたか」
ルル
「おはようございます」
リーフ
「おはよー!やっと起きた。あれ?なんか嬉しそうだね」
オリサ
「みんな今日も元気そうだから、かな」
今日もここにいてくれてありがとう。
朝起きていつもどおりの生活がある。
朝起きていつもどおりに家族がいる。
普通のことだけど、だからこそなによりも幸せなことだ。
孤独、そして新しい家族がそれを教えてくれた。
ありがとう。
みんな、これからもずっと一緒だ。
三人とも、本当にありがとう。
「ねえねえトール」
「なんだ、小声で」
「また寝坊だね。昨日、なかなか寝られなかった?」
「まあな。でも、体調は悪くないぞ」
「隣の美少女に緊張しちゃった?興奮して自分を抑えるのが大変だった?あたし、寝てる間に大ピンチだった?」
「お前は何を言っているんだ」
「あたしを起こさないように気をつけながら、腰を引いたり壁の方を向いたりしてたよね。トールは優しいよねぇ。なんであたしから腰を遠ざけたのかは全然わからないけどね。ホントにぜーんぜん」
「世の中には『言わない優しさ』って考え方もあるんだぞ」
「よかったですね、トールさん。オリサさんはわからないそうですよ」
「やめろ地獄耳!」
「リーフ……、二人が何を話していたのかはわからないが、お前が相変わらずオリサのしょうもない冗談に騙されているのはわかる」
「あーもう、さっさと朝飯にしよう。いつもの朝の始まりだ」
「今日はどんなことがあるだろうね」
「たぶん楽しいこと」
この三人と一緒ならきっとそうなる。
・・・・・・・・・・・・
「最終章じゃないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ」
「神様、急にどーしたの?いよいよ頭がアレになっちゃった?」
「違うわ!言ってみたかっただけじゃ!」
「オリサ、ほっといてやれ。ルルの工房やらキッチンやらワイセラーやらを作って力使い果たした挙げ句、寝っ転がって漫画を読んでる老人をいじめてやるな」
「そだねー。おやつ食べよーか」
「おう」
「お前らは……」
第五章「一人の世界、一つの家族」
完