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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第五章「一人の世界 一つの家族」
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「一人の世界、一つの家族」part7

「リーフは自分に何か作ったの?」

「ええ、まず自分の日用品で練習してから皆さんのものを作りました。こちらです」


 俺のものより幅広だが短いベルトのようなものを渡された。昼間、神様の首を切り裂く寸前だった短刀が刺さっている。

 なんだろうか。もしかして武器ホルダー?だが、どこに巻く作りだろう。俺の腰は言わずもがな、ルルの腰にさえ短いように思う。


「リーフちゃん、これってどこに付けるの?」


 疑問を抱きながら眺めていたのは俺だけではなかったらしい。ベルトを持ったオリサがルルの腰にそれを当てるが、腰に装備するには幅広で茶色い腹巻きのようだし案の定少し短い。


「では、実際に装備してご覧にいれましょう」


 そう言ってベルトを受け取ったリーフは立ち上がるとすぐ、俺が座るすぐ脇、ソファーの上に片足を乗せ突然ネグリジェの裾を大きく捲くった。


「リ、リーフ!?」


 慌てて顔を逸らしたが、リーフが慌てる気配はない。


「おい、リーフ。トールが赤くなっているぞ」

「わたくしを見てですか?光栄です」


 褒めてない。


「あー、なるほどね。かっこいい!トール、見てみなよ」


 オリサに促され視線を戻すと、変わらずリーフの足が鎮座していた。


「まだダメじゃん!」


 慌てて顔を逸らす。


「そうじゃない、照れるな。太ももを見ろ」


 見ていいの?少し悩んだが、ならばと再び視線を戻せばリーフの太ももには先程のベルトが巻かれていた。


「ここに収納しておけば、いつでもすぐに短剣が取り出せるのです。今日も装備しておりました。生きるというのは常在戦場ですから」


 リーフの世界は案外物騒なのだろうか。

 あれ?リーフがいつもスカートなのってもしかして……。


「なあリーフ、君がいつもスカート履いてるのって……」

「ええ、ゆったりとしたスカートは武器を隠しやすいですから。気づくのが遅すぎますよ、トールさん。わたくしが暗殺者であれば、何度首を切り裂かれているかわかりません」

「え……」

「なんちゃって、です。うふふふ」

「あ、うん……」


 ルルもオリサもドン引きしている。リーフっていつもは冗談言わないせいか、いざ言うと全然おもしろくないタイプなんだな。


「今の話はともかく、リーフちゃん、それかっこいいよ。いいなぁ。ねえ、あたしにも作って!」

「ええ、このようなもので良ければいくらでも」

「やったー!」

「よくわからんがよかったな」


 女スパイが太ももに銃を隠しているような感じなのだろうけど、オリサはいつも太ももむき出しだからあまり意味ないと思うが。


「いきなり足見せられて驚いたわ」


 目の前に顕現した、酒のせいかうっすら紅色した白く長い足が頭に焼き付いて離れない。


「失礼いたしました。オリサさんがトールさんをからかっている様子を真似してみたくて。『年寄りの冷や水』でしたね。恥じらいという、おぼこな気風も随分昔に失ってしまいました」


 そこまで辛辣なことは言っていない。どちらかというと『大変良いものを見せていただきました』という気分。


「ねえねえリーフちゃん、リーフちゃんって何歳なの?」

「お前、なかなかに無礼だな。トールのようだ」


 ルルが呆れている。まるでデリカシーがない。俺のようだ。女性同士とは言え、嫌がられないかな。


「そういえば今までお話する機会がありませんでしたね。ですが申し訳ございません。お教えできないのです」


 ほら、嫌がられてる。


「実は、自分でもわからない、というか忘れてしまって。生きていれば年など勝手に増えていくものですから、面倒になり数えるのをやめてしまいまして」

「おおよそ何歳なんだ?わたしは六十一歳だが、それよりも年長なのか?」


 ルルちゃん、ろくじゅういっさい。何度聞いても面白い。


「ルルさんは六十代ですか!」

「やっぱり聞いたら驚くよな」

「はい。なるほど、可愛らしいわけですね。ああ、かわいいかわいい」


 再びリーフの膝に乗せられ(いぶかし)しげな顔のまま頭を撫でられるルル。困惑して顔を見合わせる俺とオリサ。

 六十代と聞いて『可愛らしい』?


「ルルちゃんがかわいいなら、リーフちゃんはもしかして百歳くらい?」


 人間の感覚だともうわけがわからん。


「そんなに若く見ていただいて嬉しい限りですが、最低でもその十倍は生きております」

「じゅう……ばい?」

「はい。年を数えなくなってからの年月さえも忘れてしまったのですが、少なくとも千歳までは数えておりました。千歳以上、二千歳未満くらいでしょうか。もしかしたら三千歳かもしれませんが、考えてもわかりません」


 幅が広すぎるだろう。


「リーフちゃん、大人なんだね」

「大人にも程がある」


 本当に。ルルを可愛がるわけだ。

 えー、なになに?

 千歳ちょい過ぎぐらいで紫式部とだいたい同年代。千七百歳ならだいたい三国志の時代、二千歳なら当然イエスがゴルゴダの丘で十字架にかけられた頃……。以上、手元にあったタブレットでの検索結果。頭がクラクラしてきた。


「いやはや驚いた。リーフ、飲もう。そして今までの人生で見てきたことを教えてくれ」

「確かに、俺も気になる。どんな経験をしてきたのか聞きたい」


 異世界の歩く歴史書、生き字引。


「ええ、もちろん構いませんよ」

「じゃ、飲み物用意しなきゃ」


 長い夜になりそうだ。


 俺とオリサはお茶、ルルはウイスキーをロックで、リーフは赤ワインを手にしている。テーブルの中央にはチーズや缶詰、お菓子がいろいろ。たまにはこんな夜もいいだろう。


「なあ。せっかくだし、乾杯しようか」

「トールさんが捧げたいものに従います」

「ふふ、広い風呂に乾杯か?」

「あたしはわかるよ。トール、よろしく」

「多分、もう三人共わかってるだろうけど……、家族に!」

「「「「乾杯!」」」」

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