「一人の世界、一つの家族」part6
「おかえりー」
風呂から出たらすっかり元通りのオリサに出迎えられた。
「ただいま、広い風呂はいいな。どうかした?」
「リーフちゃんからお話しがあるらしいよ。二人はそこで盛り上がってる」
オリサの指差す方にはリーフがこちらに背を向けてソファーに座っていた。その背中から二人分の声が聞こえる。
「お前の髪は素晴らしい触り心地だなぁ、リーフ。いい香りがするし、黄金に輝いている。いつまでも触れていたくなるなぁ。ああ、いつまでもいつまでも包まれていたい」
「ああ、ルルさん、ルルさん、なんと愛らしいのでしょう。小さくてほっぺたもプルプルしていて、柔らかくて。ずっと抱きしめていたいです。かわいいかわいい」
よく見たらリーフの膝の上ではルルが抱きしめられていた。リーフの長い金髪に包まれ恍惚の表情で髪の手触りを堪能している。どうした、こいつら。
「お風呂上がった後もずっと飲んでて、気づいたらこんなにラブラブになってたの。リーフちゃんがルルちゃんのほっぺにチューしたら、ルルちゃんは力が抜けちゃった」
「ラブラブというか、ラリってるじゃねぇか……。大丈夫か、お前ら」
若干恐る恐るリーフに近づいた。風呂上がりの火照った身体で飲みすぎたから酔いが回りやすかったのだろうか。
「あら、トールさんお戻りでしたか。年甲斐もなくちょっと飲み過ぎてしまいました。まだまだ飲みますけれども。ふふふ」
今のは何が面白かったのだろう。
「みなさん揃いましたね。実は、みなさんがお出かけの間、ちょっと工作をしていたのです」
ルルを膝から下ろし、用意していたと思しき足元の箱を指差した。
「実は、動物たちのお肉だけでなく皮も最後まで使ってあげたいと考えまして、最初に解体した馬の皮を保存しておいたのです。それでみなさんに贈り物を作りました。革細工は不慣れなので不格好な点もあるとは思いますが、受け取っていただけますか?」
そういうことか。俺たちが居ない間にやりたいことがあると言ってホームセンターへ行ったのも、レザークラフトの道具の入手などが理由だったようだ。
「もちろん。そんなことしてくれてるなんて思いもしなかったから驚いたよ」
「うん、なんだろな~。楽しみ!」
「リーフは何でもできるな」
「みなさん似たような物で恐縮なのですが。まずはトールさんから。どうぞ」
リーフから渡された革製品を手にとって眺めた。明るい茶色で出来た見覚えのある平たい帯状の物体。すぐに分かった。
「これはベルトか。いいね。明日から早速使うよ。大事にする!」
「ありがとうございます。こちらがルルさん、こちらはオリサさんです」
二人が受け取ったものは俺のベルトにそっくりだが小さな穴は開いていない。そしてベルトより長そうだ。なんなのかわからないがそれは彼女たちも同じだったらしく二人で顔を見合わせている。
ルルのベルトの方が少し幅広く頑丈に出来ているように見える。
「分かりづらいのですが、それぞれ斧と杖を持ち運びやすくするための肩紐です。特にルルさんは絶えず斧を持ち歩いていますから、これで肩から掛けると手が空くと思います。こことここを結んでください」
「なるほど。早速やってみよう。うむ、確かにこれで手が自由になるな。これは良いものだ!感謝する、リーフ」
「どういたしまして」
「あたしも!これで杖の置き忘れ減ると思うよ!」
ルルは大事な斧を常に手持ちや肩に乗せて移動している。故郷ではなぜかそれが普通だったので、紐で肩から下げるつもりはなかったらしい。
一方のオリサは杖を割とぞんざいに置きっぱなしにするから一緒に探してやることが多い。といっても、たいてい畑に突き刺さっているのだが。明日からその頻度が減りそうだ。ゼロになるとは思っていない。
「リーフちゃん、ありがとう!」
「いえ、とんでもないです」
「それから、ルルさんにはもう一つ、こちらを」
そう言って同じ色の小さな袋のようなものを取り出した。受け取ったルルが広げた瞬間、それが何なのか全員が理解した。
「手袋か!素晴らしい!ああ、大きさも丁度いい具合だ!」
「ちょうど今朝方完成したのです。いつもの籠手のようなグローブでは暖かくなったときに蒸れてしまうでしょうし、バイクに乗る際などもっと小型の手袋のほうが良いと思いまして。タブレットは……扱えませんけれど。ふふ」
「そんなの些細なことだ!リーフ!感謝する!」
ルルは愛用の斧も素手で長時間握っているとアレルギー症状で痒くなってしまうらしい。そのため常日頃からグローブを装備しているわけだが、確かに新しい革製の手袋の方が薄手で扱いやすそうだ。
かなり気に入ったようで手袋のまま斧の持ち手を何度も擦っている。
「ルルちゃんご機嫌だね」
「ふふ、当然だ」
良かった良かった。




