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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第五章「一人の世界 一つの家族」
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「一人の世界、一つの家族」part5

「やはりリーフの食事が一番だな」

「うん、リーフちゃん抜きで長いお出かけはムリだね」


 夕飯を囲み、皆でリーフに感謝しながら食事に手を伸ばす。


「ありがとうございます。あの塩漬け肉も上手くできていたようで安心しました」

「今朝、あの肉を食べたら猛烈にリーフの料理が食べたくなったんだ。それで今日帰ってきたよ。もちろん、旅行も楽しんだけどね。リーフ、ありがとう」

「感謝している」

「ありがとね!」

「いえ、痛み入ります。お土産にいただいた豚肉も美味しいです」


 帰る前に寄った駅ビルで豚肉の味噌漬けを見つけたので、それをリーフの土産にした。神奈川県のどこかの町の名産らしいが、いつかリーフも入れて四人で旅行するのもいいな。


「神様、大変静かですがお体の調子が優れないのですか?毒など入れておりませんよ?ふふふ、冗談です」


 やたら戦闘慣れしていたリーフの発言だから全然笑えない。

 確かに、普段はやかましい神様が妙に静かだ。


「笑えない冗談じゃ……。いやさ、お主らを見ていただけだ。トールよ、楽しそうだな」

「ええ、元の家族に会いたい気持ちはもちろんありますが、今はこの三人が家族です。毎日、楽しんでいますよ」

「そうか!」


 そう言うと神様はニコニコしながらグラスに入ったビールを飲み干した。


「注ぎます」

「お主が飲めるようになったら二人でゆっくり飲みたいものだな」

「いいですよ。でも、当日は家族と約束があるので二十歳の誕生日の次の日でお願いします」


 そう言ってルルのグラスにもビールを注いだ。


「ああ、家族水入らずを大切にすると良い」

「神様すまないな。わたしが先約だ。今から楽しみだな」

「ふふ。たまにはわたくしもいただきましょうか。戸棚の葡萄酒が程よい温度なのです」

「じゃああたしが注いであげる」


 団らんってのは良いもんだ。



 ・・・・・・・・・・・・



「彼女たちとの生活はどうだね?」


 三人娘が仲良く風呂に入っている間、俺はリビングで神様と雑談に花を咲かせていた。

 まさか歴史に名を連ねるあの事件の裏にそんな陰謀の数々があったとは。衝撃の事実に震えていたら神様から真面目なトーンで質問された。


「楽しいですよ。控えめに言って最高です」

「まったく控えとらんな」


 そう言って神様は楽しそうに笑う。そして沈黙と共に何か考え事をしたと思ったら空のグラスをテーブルに置き、ゆっくりと口を開いた。


「実はな、悩んでいたのじゃよ。この世界は確かに既に死に体じゃ。ずっと見守ってきたから正直辛い。お主が指摘したように、今後の繁栄は望めない。こんな世界で生きろというのは残酷な話だと。いきなり異世界人を連れてきて協力して頑張れなど無茶が過ぎるだろうと。だが、お主は生きている。それどころか楽しんでいる。彼女たちを家族と断言してはばからない。わしがそう言ったとはいえ、お主が彼女たちを受け入れてくれるか不安でもあった。人間同士で争う姿を今まで見続けてきたが、一方で手を取り合う姿も見てきた。お主らはどうなるかと思ったが、種族が違えど何も心配することはないようだな」

「俺もこの先どうなるかはわかりません。でも、とりあえず死にませんよ。最低でも二十歳までは約束がありますから。その後も、のらりくらりとがんばります。ムリのない範囲で」

「そうかそうか!」


 初めて会ったあの日のようにカッカッカと笑うと、神様は腰を上げた。


「今日はもう休ませてもらおう。一番風呂ありがとうな」


 客間には既に神様のために布団を敷いてある。


「いえ。あ、そうだ、一つ聞いてもいいですか?」

「なんじゃ?」

「この世界に来る人を選んだ基準ってあるんですか?三人とも『別の世界に行きたい』って思っていたのは共通しているらしいんです。でも、どんな異世界がどのぐらいの数あるのか知らないですけど、『別の世界に行きたい』って思っている人なんて色んな世界にいくらでもいるでしょう?」

「ふむ、確かに、異なる世界へ行きたがっている者を最低条件に探し回った。それに、追加で人型の種族。言ったかもしれんが、お喋りする巨大な木とは暮らせまい?まあせっかくならばとお前さんから見て異性というのも考えた。男だらけの同居生活は辛かろう?寮生活みたいで。あとは時間じゃな。お主と同じような時間感覚、つまり一日24時間、一年365日、まったく同じじゃなくても極力近い世界の者。大事なことじゃからな。近い所だと水星は自転に58日かかるんじゃが、それに近い環境で生まれ育った者とは生きていけまい。こう考えると条件は割と多かったかな。だが、それ以外のことはわしも特に意識しとらんかった。ルルとリーフが同じ世界から来たのも偶然だ」

「あれ、そうだったんですか。それは知らなかったです」

「まあ彼女たちに面識があったわけではないから知らんだろうな」

「なるほど、ありがとうございます。足を止めさせてすみません」

「かまわんよ。では」

「おやすみなさい」

「ああ、良い夢を」


 昨夜、オリサは言っていた。『故郷で孤独だったあたし達を受け入れてくれてありがとう』と。みんな異世界へ行くことを夢見ていたらしいけど、それ以上に孤独だったから選ばれたのだろうか。この世界に来てその孤独が埋まった。そして今度は三人が協力して孤独感に押しつぶされそうな俺を救ってくれた。

 いや、こじつけ過ぎだな。


「まあいいや」


 俺が小さくつぶやく背後でリビングの扉が開いた。


「上がりました。お先にありがとうございます。神様はもうお休みに?」

「ああ、ついさっきね。それにしても長かったね」

「ええ、大きなお風呂が嬉しくて」

「長湯しすぎたな。オリサ、大丈夫か?」

「ちょ、ちょっとゆっくりしすぎたね。みず、みず……」


 どうやらオリサははしゃぎすぎて少しのぼせたらしい。


「気をつけろよ。それじゃ、俺も入ってくる」


 神様に家を直してもらうついでに、風呂を彼女たちが三人で入っても余裕があるサイズにしてもらった。それこそホテルで見て驚いたバスタブにさえも勝る大浴場のような大きさだ。もしかしたらどこかのホテルの風呂をそのまま移築したのかもしれない。階段やら手すりやら一般家庭ではまず見ない設備もあったし。シャワーや蛇口も四つも備え付けられている。三人で入ってもまだ何人か入る余裕もあるくらいなので、十分に足を伸ばせるようになったリーフ様も大満足のご様子だ。

 相対的に、一人で入る俺はだいぶ寂しくなってしまったがまあ仕方ない。

 四人がかりで挑めば掃除もそこまで苦ではないだろう。

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